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2026.2.25 NEW

AIがあなたの健康を一番よく知っている時代が来る? – 歩きながら考える vol.235

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIと健康データについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は前回の続きで、AIと健康管理の話をもう少し掘り下げてみようと思います。前回は、歯が痛くてコンビニの流動食しか食べられなくなった話から、AIに食事データを渡すと意外な発見があるという体験をお伝えしました。今日はそこから一歩進んで、「AIに健康データを預け続けると、何が起きるのか?」ということを考えてみます。

かかりつけ医にも家族にもできなかったこと

前回の体験で一番驚いたのは、AIが半年前の健康診断や内視鏡検査の結果まで覚えていて、今の食生活の話に自然につなげてきたことでした。僕は意図的にそれらのデータを渡していたわけじゃなくて、以前、医者からもらった血液検査の結果を解読してもらったことがあっただけ。それをAIがメモリに残していて、今回の栄養分析の文脈に混ぜてきたわけです。

で、これを見て思ったんですよね。今まで、こういうことができる存在っていなかったなと。

かかりつけ医は年に数回の健診データしか見ない。ジムのインストラクターは運動の話はできるけど、食事や睡眠の全体像は把握していない。家族は日常を共有しているけど、血液検査の数値を覚えていたりはしない。つまり、これまでの健康管理は常に「部分的な情報を持つ人が、限られた接点で助言する」という構造だったんです。

AIはそれを根本的に変える可能性がある。時間軸では過去の健康診断から今日の食事まで。データの種類では心拍数、運動量、食事内容、医療記録、さらにはAIとの相談で話した内容まで。個人内の大規模データを横断的に統合して、文脈を踏まえた助言ができる。これは、どんなに優秀な医者やトレーナーでも、物理的に不可能だったことです。

各社はもう動き始めている

実際、大手はすでにこの方向に舵を切っています。

OpenAIは2026年1月に「ChatGPT Health」をローンチしました。Apple HealthやMyFitnessPalなどのウェルネスアプリや医療記録を直接接続できる専用の健康管理空間で、健康に関する会話は通常のチャットとは分離して管理される設計です。OpenAIによると、毎週2億3000万人以上がChatGPTに健康関連の質問をしているそうで、この数字を見ても、需要の大きさがわかります。

GoogleもFitbitのAIヘルスコーチをGemini搭載で展開しており、最近はiPhoneユーザーにも提供を拡大しているようです。24時間365日対応のデジタルアドバイザーで、運動、健康、睡眠のコーチングを行う。さらにGoogleは「Personal Intelligence」という機能で、Gmail、Google Photos、YouTubeの視聴履歴などユーザーの全データを横断的に推論する仕組みも発表しています。

面白いのは、Appleも独自のAIヘルスコーチ「Health+」を開発していたと報じられていたのですが、最近その計画を見直したという噂が出ていること。そして2026年1月には、AppleがGoogleと提携してSiriの次世代版にGeminiを採用すると発表しました。健康AI領域でも、プラットフォーマー同士の合従連衡が始まっているように見えます。

こうした動きが進めば、個人の健康寿命の延伸に寄与する可能性がある。社会的に見ても、社会保障費の持続可能性という大きな課題に対して、予防医療的なアプローチの一つになり得る。ここまでは非常にポジティブな話です。

でも、そのデータ、誰のもの?

ただ、ここで立ち止まって考えたいことがあります。

AIに健康データを預けるということは、自分の人生で最も機微な情報を私企業に渡すということでもある。病歴、体重の推移、飲酒習慣、精神的に辛い時に相談した内容。積み重なれば、それはもうその人の人生そのものに近い

しかも、データを蓄積するほどスイッチングコストが上がる。僕自身、今は使うAIを頻繁にスイッチしていました。ChatGPTを使ってて、Geminiがアップデートしたら乗り換えて、みたいな感じ。でも、AIが健康診断の結果や半年間の食事の相談内容まで覚えてくれている状態になると、これはなかなか他のサービスに移れない。各サービスベンダーは、おそらくこのロックイン効果を強化する方向に急速に向かっていくでしょう。

そして当然ながら、データ漏洩のリスクはゼロではない。AIが誤ったアドバイスをする可能性も否定できない。にもかかわらず、データをどう利用するか、どう保護するか、別のサービスに移りたい時に自分のデータを持ち出せるか(データポータビリティ)といった仕組みは、まだ十分に整備されていないのが現状です。

気づいたら、自分の健康に関するすべてのデータが一つの企業に握られていて、そこから動けなくなっている。そういう状況は、意外と簡単に起こり得るんじゃないかと思います。

鍵は「データの主権」と「個人の主体性」

じゃあ、どうすればいいのか。

AIによる健康管理の可能性は本物だと思います。かかりつけ医にもジムのインストラクターにも家族にもできなかったことを、AIはできるようになりつつある。この流れを止める必要はないし、止められないでしょう。

でも、その恩恵を安心して受けるためには、データの主権は個人が持つべきだという原則が必要だと思うんです。何を渡し、何を渡さないかを自分で選べること。必要な時にデータを持って別のサービスに移れること。電気や水道のように、健康AIが特定企業の独占サービスではなく、誰もがアクセスできるインフラとして設計されること。

そしてこれは、前回の記事で書いた「主体性」の話ともつながります。AIに全てを委ねるのではなく、自分の健康について自分で考え、AIはそのための道具として使う。データの主権を個人が持つということは、技術の問題であると同時に、一人一人の意識の問題でもある。

AIが自分の健康を一番よく知っている時代は、もうすぐそこまで来ています。問題は、その「知っている」の主語が、AIなのか、自分なのか。僕は、AIの力を借りながらも、主語は自分であり続けたいと思っています。

というわけで、今日は前回のAI健康管理の体験から、データの主権やプラットフォームの囲い込みの話まで、歩きながら考えてみました。みなさんは、自分の健康データをAIに預けることについて、どう思いますか?

この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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