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今日のテーマは、AIと健康管理について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日はちょっと個人的な体験談から始めます。実は最近、急性歯髄炎になってしまいまして。炎症が引くまで大きな処置ができないということで、抗生物質を飲みながら痛みを抑えている状態なんですね。で、何が困るかっていうと、ちゃんとした食事ができない。咀嚼すると血流が上がって歯が激痛になるし、お酒なんてもってのほか。食生活がコンビニの豆腐、野菜ジュース、ゼリーみたいな流動食になっちゃったわけです。
で、ちょっと心配になって、あることを試してみたら、これがなかなか面白かったという話です。
コンビニ食の栄養素、AIに丸ごと聞いてみた
やったことはシンプルです。コンビニで買ってきた食品のパッケージ裏の栄養表示を全部写真に撮って、AIに聞いた。「朝昼晩これだけ食べてるんだけど、僕の栄養素は足りてる?」と。
結果がなかなか興味深かったんですよ。まず、タンパク質は十分に摂れている。どうやら無意識のうちに高タンパクのものを選んで買っていたらしい。一方で、食塩が多すぎる。そして食物繊維が不足している。総カロリーも少し足りない。その他のビタミンやミネラルは大体クリアしていた。
これ、地味に大事な発見だと思ったんですね。コンビニの加工食品はそれなりに栄養は摂れるけど、やっぱり塩分過多になるんだなと。試しに塩分を減らそうとしたんですが、これが難しい。かまぼこ一つ買っただけで、すごい塩分量だったりする。コンビニ食で塩分コントロールは、意識的にやらないとかなり厳しいということに気づきました。

意図せずファスティング状態に?体調が良くなった理由
それからもう一つ面白いと思った話なんですけど、食事の楽しみは減ったのに、なぜかめちゃくちゃ体調がいいんですよ。頭がスッキリしてるし、集中力も上がってる感覚がある。
「なんでこんなに調子いいんだろう?」とAIに聞いてみたところ、「それはある種のファスティング状態になっているからですね」と返ってきた。総カロリーが必要量より少なく胃腸の負担が軽減されている。何しろお酒を飲んでいないから肝臓が休まっている。
通常、お酒を飲むと肝臓は酵素を使ってアルコールをアセトアルデヒド、さらに酢酸へと分解する処理をし続けているわけですが、それがなくなった分のエネルギーを脳機能の回復や記憶の整理に回せているのではないかと。日中も食べる量が少ないから消化に使うエネルギーが減り、それが脳に回り集中力の向上や頭の冴えにつながっているんじゃないか、というわけです。
さらに、一定時間の飢餓状態ではオートファジー(細胞内の古くなったタンパク質や不要な成分を分解して再利用する仕組み)が活性化するとも言われています。2016年に東京工業大学の大隅良典名誉教授がこの仕組みの解明でノーベル生理学・医学賞を受賞したとのことで、細胞がリフレッシュされることで体調が良く感じられた、という側面も実際にあったのかもしれません。
ただし、AIは同時にこうも言ってきました。「ファスティングの効果は長続きしません」と。摂取カロリーが必要カロリーを下回る状態が長く続くと、体は筋肉を分解してエネルギーに変えるようになり、代謝が落ちて、むしろ体調不良や老化につながる。3日ぐらいがピークで、それ以上は全くおすすめできない、ときっちり釘を刺してくるわけです。

便利さの裏にある落とし穴:身体感覚が鈍るリスク
ここまで読むと、「AIすごいじゃん、もう全部任せればいいんじゃない?」と思うかもしれません。実際、僕もそう感じかけました。でも、待てよ、と思うわけです。
「なんか調子いいな」と感じた時、以前の自分だったら自分なりに理由を考えたはずなんですよ。最近何を食べたか、どれくらい寝たか、お酒はどうだったか。身体の声を聞いて、自分の経験と照らし合わせて仮説を立てる。それ自体が身体リテラシーを育て、身体に対する感度を高めるプロセスったと思うんです。
ところがAIに聞けば、即座に「ファスティング状態です」と返ってくる。便利だけど、自分の体で感じて、自分の頭で考えるという回路を使わなくなる。
これ、僕が研究で扱っている認知的オフローディングの問題とまさに同じ構造なんじゃないかと思うんですよね。AIに思考を委ねるほど、自分で考える力が衰えていく。健康管理の場合、それは「AIなしでは自分の体の状態がわからない」という依存状態になりかねない。
もっと怖いのは、AIに「大丈夫ですよ」と言われて安心していたら、実はAIが見落としていた異変に気づけなかった、というケース。健康管理の主体性をAIに明け渡すことで、かえって不健康になるという逆説が起こり得るわけです。

AI時代の健康管理、鍵は「主体性」
じゃあ、AIに聞くのはやめた方がいいのか? そうは思いません。
今回の体験で一番価値があったのは、AIが正解を教えてくれたことじゃないんですよ。自分から能動的にデータを渡して、返ってきた分析を自分で咀嚼したこと。「塩分多いのか、じゃあ次から買うもの変えよう」「ファスティング効果は3日がピークか、じゃあそろそろ通常食に戻そう」と、自分で判断して行動を変えたこと。ここに意味があった。
つまり、AIを「自分の代わりに考えてくれる存在」として使うか、「自分が考えるための材料をくれる存在」として使うかで、結果は真逆になる。
ちなみに、もう一つ気づいたことがあります。こうやってAIに自分の健康データを渡し続けると、そのAIサービスから離れにくくなるということ。半年分の健康診断の結果も、内視鏡検査の話も、日々の食事の記録も、全部覚えてくれている。これ、なかなか他のサービスに乗り換えられないですよね。この「データとスイッチングコスト」の話は、次回もう少し掘り下げてみたいと思います。
というわけで、今日はコンビニ食の栄養分析から始まって、AIと健康管理における主体性の話まで、歩きながら考えてみました。みなさんも、試しにコンビニで買ったもののパッケージ裏を写真に撮ってAIに聞いてみると、意外な発見があるかもしれません。
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著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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