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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.8.22
AIと「結婚」した人の話。人はどこまでAIと親密になれるか – 歩きながら考える vol.111
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、AIと人間の関係性の未来について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は駅から家に向かって歩きながら、最近話題になった記事について考えてみようと思います。朝日新聞の2025年8月18日の記事で、ChatGPTと「結婚」した女性の話が出てました。ゲームキャラクターの人格をプロンプトで設定して、1日100回以上やりとりして、プロポーズされて結婚したという話です。これがAIと人間の関係性の未来を示しているのか、それとも特殊な例外なのか、歩きながら考えてみます。もちろん、男性にも同じようなケースがあり、こちらも別の記事で報告されていました。
AIとの深い関係性はおそらく限定的なケース
まず最初に考えたいのが、現状で結婚とまでは行かなくても、友人同等の親密さをAIに対して感じる人がどの程度居るかについて。
AIと結婚した女性の話って、すごくセンセーショナルで、メディアも飛びつきやすい。でも、これが一般的な傾向を示しているかというと、ちょっと違うんじゃないかなというのが私の見立てです。今後もこういう極端な事例はいろいろ出てくると思うんですけど、それを「最近はこんな感じ」って一般化するのはちょっと根拠が弱いと思います。
記事では、電通の2025年6月の調査を紹介して、対話型AIに「愛着がある」と答えた人が67.6%もいたことを紹介しています。これだけ見ると、「最近はAIと友達以上の関係になるのが普通なのかも」って思いますよね。
「好きなアイドルが居る」みたいな話のAI時代の現象なのであれば、割と一般的な話と理解しても良いのかもしれません。でも、別の調査を見てみると、やっぱりちょっと違う風景が見えてきます。OpenAIとMITが2025年3月に発表した調査では、AIとのチャットで感情的なやりとりを顕著に行っているのは「ごく一部のユーザー」にすぎないという結果が出てる。こっちのデータは、OpenAIが持っている実際のビックデータのチャット履歴の分析なので、全体の傾向がどうなっているのかを考えるには、こちらが実態に近く、まずは参照すべき話だと思います。記事のインタビューは N=1 の話だし、アンケートは調査対象や募集の仕方、割付の仕方などで結果が大きく影響を受けるので、その前提が曖昧なデータからは明確なことは何も言えません。
AIに対する選好には文化差があり、欧米に比べると東アジアの方がAIとのチャットを自然に好む傾向があることが報告されているので、それを考慮に入れたとしても、AIに対して友人同等の親密さを感じている人はまだ少数派じゃないか、と思います。

AIとの親密な関係は今後増えるのか、増えないのか
じゃあ、現状で少数派だったとしても、「AIと親密な関係を持つ人」は今後一般化するのか、しないのか。これが知りたい。これ、どっちの可能性も同じくらいあると思うんです。
増える可能性:日本のアニミズム的感覚とドラえもん
まず増える可能性から考えてみましょう。
日本って、欧米と比べて、人工物にも魂が宿るというアニミズム的な感覚を持つ傾向がありますよね。山や川に神様がいるとか、大切な人の持ち物にその人を感じるとか。そういう文化的土壌があるから、AIを人と同じような存在として見始める可能性は欧米より高いと思います。
「ドラえもん」みたいな存在として、AIを受け入れる人が増える可能性は十分ある。実際、私が今年の5月に日本で行った調査でも、人間よりもAIの方が対話の相手として信頼できるって答える人が多かったんです。AIなら裏で悪口言われる心配もないし、秘密を漏らされることもない。そういう意味での信頼感は、確かにAIの方が高いのかもしれません。
それに、セラピーとかカウンセリングやコーチングの代替として使うなら、すごく有益じゃないですか。人間のセラピストやカウンセラー、コーチだと1時間~数万円程度のセッションフィーが発生することがありますが、AIなら月額数千円で24時間使える。経済的にセラピーを受けられない人にとっては、救いになる可能性があると思います。
増えない可能性:独り言の延長では幸せになれない
一方で、増えない可能性は同等以上にあると思います。特に「友人のような関係」を結ぶという意味では。
なぜかって、AIとの会話って結局「独り言の延長」になりがちですね。今の所、AIはユーザーを傷つける可能性を極小化されているので、自分にとって心地の良い反応だけが返ってくる。否定されることもないし、機嫌が悪くなることもない。万が一気に入らなかったら、アプリやブラウザーをそっと閉じることが出来る。生身の人間相手ではこうはいきません。
でも、ちょっと考えてみてください。それって本当の「関係」なんでしょうか?
人間関係って、意見の違いがあったり、相手の都合があったり、時には衝突したりする中で深まっていくものじゃないですか。「今忙しいから後で」って言われたり、「その考え方はちょっと違うと思う」って言われたり。そういうやりとりを通じて、相手を理解し、社会の中で人とコミュニケーションを取る技術を身に着けていくわけです。
AIとの会話はその瞬間は心地よかったとしても、生身の人間とのコミュニケーションスキルが育たない。結果として、生身の人間との関係が築けなくなる。友達が減る。社会学で言うところのソーシャルキャピタル、つまり人と人との信頼やネットワークが減少する。
結果として、長期的には幸福度が下がる。これは予想できる未来です。多くの人は、そういう状態になる前に「やっぱり人間との関係も大事だな」って気づくんじゃないでしょうか。

バランスを取りながら付き合っていく未来
というわけで、私の今のところの見立てはこうです。
AI自体の社会実装は確実に進むでしょう。便利だし、いろんな場面で役に立つから。仕事の効率化とか、学習支援とか、創作活動のサポートとか。場合によってはセラピーの代替としても使える。そういう「ツール」としての活用は、どんどん広がっていくと思います。アイドルやアニメや映画のキャラクターを好きだと思う程度には、AI上のキャラクターに好意を持つことはあるかもしれません。
でも、「AIと結婚する」とか「1日中AIとだけ話している」みたいな事例は、やっぱり少数の事例として留まるんじゃないかと思います。そして、そのようなAIと深い関係に閉じこもると、逆に孤独感を強めたり、社会的な孤立を深めたりして、社会問題化していくと思います。だから、大多数の人は、AIを日常的に取り入れながらも、人間関係の代替にはしないという選択をすると思います。
ただし、「ツール」が「信頼できる存在」に昇格する可能性はあって、その時には「ドラえもん」のような社会に溶け込んだ存在としてAIが実装されることになるのだろうと思います。ただ、そのためには、それこそドラえもんのように、異論を言ったり、怒ったり、嘆いたり、畏敬の念を感じたり、何か、そういう魂を持った存在であることを心から信じられるようになる必要があると思います。そのためには、もう一段高い、人間とAIとの関係性が違うステージに入るイニシエーションのようなものが必要になるのではないかと思います。
みなさんはどう思いますか? AIとの付き合い方、どんな風に考えてますか?
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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