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MBTI異文化に対応する

2020.12.7

個人と集団の心の見方 – MBTIとホフステードモデル –

渡邉 寧 | 株式会社かえる 代表取締役

MBTIとは何か

MBTIという自己・他者理解のメソッドをご存じでしょうか?

MBTIはMyers-Briggs Type Indicator(マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標)のことで、心理学者ユングのタイプ論を元にして、アメリカ人親子のイザベル・マイヤーズとブリッグス・マイヤーズが1940年代に開発した、人の性格タイプに関する指標です。

①外向・内向、②感覚・直観、③思考・感情、④知覚・判断という4つの心的機能/態度を指標として人の性格タイプを取り扱っていきます。

アメリカでは非常に有名なメソッドで、確かに周囲のアメリカ人にはMBTIを受けている人が多く居るように思います。

私はMBTIを2014年に受けました。職場のマネージャー研修で導入されていたからという、それだけの理由だったのですが、非常に興味深く感じ、その後認定ユーザーの資格を取りました。現在は、個人の成長や組織変革のきっかけを考えるメソッドの1つとして活用しています。

私は大学の学部での専攻は教育心理学だったのですが、認知心理学の研究室だったため、精神分析の領域には疎く、ユングについて初めて学んだのがMBTIを通じてでした。最初は、MBTIのことをよくある単なる性格検査だと思っていたのですが、学んでみてあまりの深さにびっくりしました。ユングのタイプ論の理論そのものなので、深くて当たり前と言えば当たり前なのですが、当時のブログなどには、当時の自分のびっくり加減が生々しく残っています。

MBTIとは?:MBTIが人生に役立つ3つの理由

渡邉 寧 | 株式会社かえる 代表取締役 (*2014年9月公開 2020年10月11日更新) 「口数が少なく、何を考えているのかわからない」 「話が良く飛ぶ」 「客観的で冷たい感じがする」 「締切ぎりぎりにならないと作業を始めない」 これ、私がこれまでの人生の中で、自分の性格について何度となく言われてきたことです。特に学校で言われることが多かったかな。 …

ホフステードの6次元モデルとは何か

MBTIが「個人」の性格タイプに関する指標なのに対し、ホフステードの6次元モデルは「集団」である国民文化について、国による違いを表すモデルです。

①権力格差(PDI)、②集団主義/個人主義(IDV)、③女性性/男性性(MAS)、④不確実性の回避(UAI)、⑤短期志向/長期志向(LTO)、⑥人生の楽しみ方(IVR)という6つの次元に基づいて、国によって変わる文化の違いを説明しています。

私がホフステードの6次元モデルを初めて知ったのは2015年です。私は日本企業でキャリアをスタートし、国内と国内の両方の組織で仕事をしたのですが、当時、日本組織内で感じていた違和感や、海外で仕事をした際の仕事の難しさなど、多くの疑問がホフステードのモデルからの説明で氷解しました。

個人は、環境、特に所属している集団から大きな影響を受けます。日本という国レベルの集団を見たときに、この集団がどのような特徴を持っているのかを知ることで、個人と集団との間のより意識的な関わりのデザインが可能になると思っています。

「タイプ」は個人レベル、「文化」は集団レベルで心を扱う

MBTIは個人の性格についてのものですが、国によって若干のタイプの偏りがあることも知られています。日本で多いタイプの傾向を見ると、確かに日本全体としてそのタイプの傾向に影響を受けているところがあるように思います。

個人と集団は、相互に影響を与えながら共進化していくものなので、個人のタイプの偏りが集団レベルでの傾向に影響を及ぼしていても不思議ではありません。

ホフステードは、文化とは「あるグループを他のグループから区別する心のプログラミング」であると定義しています。そして、人の行動に影響を与えるプログラミングのレベルは3つあると言います。

(「プログラミングの3つのレベル」©ホフステード・インサイツ・グループ)

上の図で言うと、文化は真ん中の「グループ共通の心のプログラミング」で、これは100%学習によって獲得されるものです。一方、MBTIで扱っている個人の性格は、ホフステードの整理と照らし合わせると、一番上の個人レベルに位置付けられるものとして理解されます。個人の性格は、先天的なものと後天的なものがありますが、MBTIの場合は「持って生まれた」タイプとしての個人の性格について扱っています。

個人レベルと集団レベルを同時に考える

仕事においてもプライベートにおいても、どのように物事に対処していくのか、人とどのように関係性を築いて行くのか、悩むことが多々あります。

社会における個人の振る舞いを考える際には、私は、個人レベルと集団レベルの2つの心の「ありよう」を同時に考えることが必要だし有効だと思っています。なぜなら、個人と集団のどちらかのレベルの話だけでは、我々の現実生活は成り立っていないからです。

現実の社会は集団によって構成されているので、集団の認知を理解することなく、そこで個人がどのように行動していくのか考えることは出来ません。と同時に、個人の認知の仕方は、その個人にとってはもっとも身近でリアリティのあるものなので、一人一人の認知の違いを理解することなく、個人がどのように行動していくのかを考えることはできません。

「個人としてどうなのか?」「集団としてはどうなのか?」という2つのレベルから、人や自分の今のあり方と将来のあり方に思いを巡らすことで、初めて社会の中での自分のあり方と今後の指針をはっきりと理解することが出来ると感じます。

自分なりの「個人」「集団」のモデルを見つける

私の場合は、個人の認知を考える際にはMBTIを、集団の認知を考える際にはホフステードモデルに基づいて、まずはものごとを眺めてみるようにしています。きっかけは偶然の出会いと学びでしたが、両方とも示唆深いモデルだと思っています。

もちろん、個人・集団の認知に関するモデルや理論は他にもあり、何を使っても良いのかもしれませんが、「わかり易い」ということと「深みと広がりがある」という2つの条件を満たすモデルや理論は、世の中にそれほどあるわけではないとも感じます。

MBTIの場合は、入り口は「自分のタイプを知り、他者のタイプを知ることで、生きていく上で役に立つ」という話だと理解されることが多いのではないかと思います。すぐに役立ちそうで、入り口としては非常にわかり易い。しかし、少し学んでいくと、源泉であるユングのタイプ論を学ぶことになり、これは意識と無意識という構造を前提とした心の仕組みに関するユングの洞察であることに気付きます。

人の心がどのように生まれ、機能し、あるいは機能せず、そして生涯を通じて変化していくのか、という深みのある話であると理解します。

ホフステードモデルも、入り口は「国によってやり方が違う(よって、海外ではやり方を変えたほうが良い)」という話だと理解されることが多いのではないかと思います。これもまた入り口としては非常にわかり易い。しかし、学んでいくに従って「この国はこういう国だ」というステレオタイプはむしろ有害で、それよりも、価値観の違いに基づいた、人と他者の総合的理解を促すツールとして使った方が良いことに気付きます。

人と集団の認知の仕組みは、奥深く、学びつくせない壮大な領域ではありますが、何らかのモデルの学習を入り口とすると、近接領域の学習も含めた学びの道筋が見えやすくなるように感じます。MBTIもホフステードモデルもそうした「入り口」としてわかり易く馴染みやすいのではないかと感じます。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役

プロフィール詳細

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