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■コーチングには様々な種類の流派がある
一口にコーチングと言っても様々な種類の流派があります。また、コーチングスキルのトレーニング方法も様々です。
コーアクティブ・コーチングのように、その発祥から現在までトレーニング方法を厳密に定義して資格認定を行っているものもありますし、大枠での資格制度はあるものの、教授方法を各トレーナーに任せているところもあります。特に資格を定めずにトレーニングを行っているところもあります。
ここでは「コーチングのすべて」のジョセフ・オコナーの分類を参考にしつつ、7種類の主要なコーチング流派をまとめます。流派によって、着目しているポイントやベースにしている考えがすこし異なります。そのため、個々人が求めるものと各流派のコーチングから得られるものとの相性はあると思います。
コーチを探している人は、複数種類の流派の人のサンプルセッションを受けてみて、各アプローチの自分との相性を試してみると良いと思います。また、コーチング研修を通じてコーチになることを志す人は、コーチングを通じて自分が成し遂げたいと思うことと、各派のアプローチの相性を良く考えてみることをお勧めします。
①コーアクティブ・コーチング
コーアクティブ・コーチングは1992年にローラ・ウィットワースとヘンリー・キムジーハウス、キャレン・キムジーハウスによって設立されたCTI が伝えるコーチングのモデルです。
コーアクティブ・コーチングの特徴を言葉で説明するのは大変難しいのですが、「コーアクティブ・モデル」の4つの礎と呼ばれる文が、その特徴を最も簡潔に言い表しているように思います。コーアクティブコーチは下記の4つの信念をもとにコーチングを行います。
-
人はそもそも創造力と才知にあふれ、欠けるところのない存在である
- 本質的な変化を呼び起こす
- 今この瞬間から創る
- その人すべてに焦点を当てる
コーアクティブ・コーチングのセッションでは、コーチはそこで語られている内容よりも、それを語る「人」に焦点を当てます。クライアントが言葉を発するその瞬間、クライアントの周囲に現れる小さな変化を見逃さず、そこからセッションを作っていきます。
そして、コーアクティブ・コーチはクライアントがどんな状態にあったとしても、その潜在的な力を信じて関わり、クライアントが望む本質的な変化を探求していきます。
多くのセッションで、コーアクティブ・コーチングは感情の問題に深く関わることになります。
コーアクティブ・コーチングでは、こうしたクライアントの「心の響き」を探り当て、クライアントが本当に望むことを実現するよう関わりを行っていきます
②インナーゲーム
この種類のコーチングは、W.T.ガルウェイが書いたテニスのコーチングモデルとした「インナーゲーム」という書籍が出発点になっています。
卓越した結果を出すテニスプレーヤーがどのような心理状態でいるのかを観察した結果、ガルウェイは、人の心の中に「セルフ1」と「セルフ2」という二人の自己をモデル化しました。
「セルフ1」は評価を行い、「セルフ2」は実際のプレーを司ります。テニスで失敗する場合、往々にして「セルフ1」が過剰な評価・指令を行っています。その結果「セルフ2」が本来の潜在力を発揮できない、とガルウェイは考えました。この「セルフ1」の過剰な働きを抑えるには、今その場で起こっている事象に集中することが有効です。しかし、当時一般的だったコーチが言うような「ボールをよく見て!」という指示はプレーヤーの意識を十分に事象に集中させることが出来ませんでした。
ガルウェイはこの問題に対し、プレーヤーに「ボールの縫い目はどちらの方向に回転していますか?」と問うことが有効であると気づきました。詳細な描写を求める質問をすることでプレーヤーの意識は今起こっている事象に集中し、その結果「セルフ1」の過剰な動きが抑えられます。結果としてセルフ2が最大限に仕事が出来る。
テニスというゲームは、対戦相手との「外のゲーム」と同時に、セルフ1を抑えセルフ2の潜在力を最大限に発揮させる「インナーゲーム」を戦うものなのだ、という着想が秀逸だと思います。このコンセプトはテニス練習法に留まらず、職場においても応用されるようになり、ジョン・ウィットモアによって企業向けコーチングプログラムに昇華されています。
③行動コーチング
行動コーチングは、日本では主に企業向けのビジネスコーチングやエグゼクティブコーチングとして行われている種類のコーチングです。その体系はコーチやコーチングファームによって異なりますが、GROWモデルのように、目標を見定め、それに向けた行動プランをコーチとクライアントが協同で作り込んでいく、という特徴があります。主要な提唱者はスザンヌ・スキットソンとペリー・ゼウス。
クライアントの内面的価値観からセッションは始まりますが、外面的な行動に焦点が移っていきます。
「①教育」「②データ収集」「③アクティブ・プランの作成」「④行動の変化」「⑤フィードバックと測定」「⑥評価」という6つのステップでセッションが進んでいきます。
企業の立場からは、目標を明確してそれを達成するようセッションが進むので、効果測定がしやすくコーチングの効果を理解しやすいのだと思います。カウンセリング領域で認知行動療法という考え方があり、測定可能な「行動」にターゲットを絞って心理療法が行われます。
ベースになっているのは学習理論で、行動と学習のサイクルを回すことによって気付きがもたらされると共に認知の変革が起こっていくという立場を取っています。
④NLPコーチング
1970年代から1980年代初めにかけてカリフォルニアから広まったNLP(Neuro Linguistic Programming)をベースとした種類のコーチング手法です。
対人コミュニケーションのTipsとして一般的にも知られているテクニックにはNLP発祥のものが多く、「ああ、あの手法ね」と思う人も多いと思います。(相手の言葉を繰り返すバックトラッキングとか、対面で座る位置ちょっとずらすテクニック、とか)
心理療法家などの、クライアントとの優れた関わりを分析し、そのノウハウを定式化している為、誰でも使える実用的な体裁 になっています。コーチングに限らず、日常やビジネス上の会話でも使え汎用性は高いのが特徴の一つでしょうか。
実証研究を重んじる心理学の流れから外れて独自の発展を遂げた為、アカデミックな心理学者からは異端視されているところがあります。ただ、NLPで語られる人間の認識の仕組みには「確かにそうだよな」と思うことが多く多様な知見が蓄積されている流派だと思います。
⑤ポジティブ心理学コーチング(Authentic Happiness Coaching)
問題解決よりも精神衛生、幸福感、ウェルビーイングを重視した種類のコーチングの手法です。アメリカの心理学者マーティン・セリグマンが提唱したポジティブ心理学を基礎にしています。
効果が学術的に検証されているワークを組み合わせて実施します。コーチングの効果に科学的根拠がある為、説明しやすくまた納得しやすいことが長所だと思います。
様々なワークがありますが、例えばマーティン・セリグマンのABCDEモデルなどは、悲観主義的な考え方を認識して修正するプロセスとして実用的だと思います。主に学校での生徒の精神衛生の改善に使われているようですが、職場でのストレス軽減にも効果的だと思われます。
その他にも、ポジティブ心理学コーチングという領域は、ミハイ・チクセントミハイの「フロー」の理論やギャロップ社のストレングス・ファインダーなど、良く知られていて定評のある理論やツールを包含しています。
「科学的根拠」がしっかりしたフレームワークからコーチングを試してみたい場合は、ポジティブ心理学のアプローチから入ってみると良いのではないかと思います。
⑥オントロジカル・コーチング
オントロジカル・コーチングは、チリのフェルナンド・フローレスが始めた人の「在り方」の変化をサポートする種類のコーチングと説明されています。
ただ、日本においてオントロジカル・コーチングを見る機会が極めて限られています。(私も、色々なコーチ知り合いが居ますが、日本でオントロジカル・コーチングを行っている人に出会ったことがありません)
フェルナンド・フローレスらの影響を受けたJ・フラーティのコーチングフレームワークを見ると、「古い習慣を捨てて新しい習慣を身に着ける」というコンセプトが強く見られます。
オントロジカル・コーチング自体は、DoingよりもBeing(=在り方)に着目するコーアクティブ・コーチングと近しい印象もありますが、言語に着目するところはNLPのようでもあり、在り方の発現である「習慣」の変化を追い求めるところは行動コーチングのようでもあります。
オントロジカル・コーチングの思想的ベースになっているウンベルト・マトゥラーナの著作などは非常に重厚です。
⑦インテグラルコーチング
インテグラルコーチングは、コーチングの流派というよりは、より包括的な「思想」の種類なのではないかと個人的には思っています。
人が何か一つの道で熟達しその領域で成功したとしても、それは数ある成功の方法の一つでしかありません。しかし、往々にして人は身に着けた経験やスキルがもたらすメンタルモデルの影響を強く受けます。企業で言えばイノベーションのジレンマのように、そうしたメンタルモデルの偏りは後々思わぬところで人の足を引っ張ります。
一つのことを成し遂げ、それを俯瞰して内省し、別のアプローチを試みる、というプロセスを、人の発達段階は繰り返します。この過程で、人は確立したメンタルモデルを固めたり緩めたりしながら、メタモデルの働きを強めていきます。
インテグラルコーチングでは4象限(「内側」「外側」×「個人的」「集団的」)でのクライアントのサポートを行いますが、これは個人の単純なスキルの発達のことを言っているわけではないようです。そうではなくて、人としての生涯を通じた発達課題を明らかにし、その追及を共に追い求めていくことに重点を置いているように見えます。
NLPコーチであるオコナーが折に触れてインテグラルコーチングのモデルに言及するのも、この流派がコーチングの1種類というよりは、一つ上のメタレベルでの「思想」的要素を持っている為ではないかと思います。インテグラルコーチングも重厚な哲学を内包しており、個人的に大変興味のあるアプローチです。
■目的に応じた流派の種類選択が重要
今回はコーチングの7種類の主要流派についてオコナーの分類を元にまとめてみました。コーチングを受けよう・学ぼうという理由は人それぞれだと思います。あるコーチングを受けてみてしっくりこなかったとしても、それはコーチングが向いていないということでは必ずしもありません。
コーチ個人との相性もありますが、その前にコーチングの流派との相性 があります。少しでもコーチングにピンと来ている人は、まずは色々な種類の流派を試してみることをお勧めします。
次回(「コーチングお勧め本:厳選10冊」)は、コーチングを学ぶ際に参考になる図書をいくつかまとめようと思います。また、流派横断的なコーチの「質問力」について、こちらでいくつか記事を書いています。ご興味があればご参照ください。
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役。
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