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■コーチングおすすめ本
コーチングに関する本は沢山ありますが、ここでは私が読んだ中でお勧めできる本を10冊ご紹介します。
この記事は、コーチングを学び始め、より深くコーチングを探究したい人を対象にしています。「コーチングとは何か:3つの切り口」でも書きましたが、コーチング経験がゼロの方は、まずはコーチを付けてコーチングを受けるのがお勧めです。その上でここに挙げたような本を読んでみると良いと思います
別の記事(「7種類のコーチング流派」)でコーチングには複数の流派があるということを書きました。流派の特徴を1冊でまとめた本が無い流派もありますが、下記の10冊で、各流派の違いは大まかに分かると思います。
■コーチングの全体像がわかる本
「コーチングのすべて その成り立ち、流派、理論から実践の指針まで」ジョセフ・オコナー/アンドレア・ラゲス著 杉井要一郎訳(2012)
コーチングの全体像を掴みたければこの本を読むのがおすすめです。著者はNLPの人ですが、それ以外の流派に関しても概要を記述しています。すべてのコーチングの流派はクライアントの自己理解を深め、望む変化を支援しますが、そのアプローチが少しずつ違います。
私自身は、コーアクティブ・コーチング、行動コーチング、ポジティブ心理学コーチング、NLPコーチングの4種類のコーチングセッションを受けたことがありますが、大分印象が違います。コーチの雰囲気も違うし、質問も異なります。
セッションでのコーチの言動にはすべて理由があり、それは各流派の理論やフレームワークから来ています。どれが良い・悪い、という話でなく、各派の考え方から方法論の違いが生まれています。そうした全体像を掴むのに非常に適した本です。
■コーアクティブ・コーチング
「マンガでやさしくわかるコーチング」 (CTIジャパン 2014)
CTIがトレーニングプログラムを提供しているコーアクティブ・コーティングの概要がわかる本です。漫画が差し込まれているので、「コーチングって何?」と思う人にもわかりやすい内容になっているのではないかと思います。
内容的にはCTIのコーチングトレーニングコースの基礎コースで触れられる内容相当でしょうか。このあたりをパラパラと読んで、ピンとくるものがあれば実際のコースに行ってみることをおすすめします。企業マネージャーに対するコーチングの例を取り上げていますが、コーチの関わりはライフコーチングでも似たようなものとなると思います。
「コーチング・バイブル(第3版)本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション」ヘンリー・キムジーハウス/キャレン・キムジーハウス/フィル・サンダール著 CTIジャパン訳 東洋経済新報社(2012)
コーアクティブ・コーチングのフレームワークがまとめられています。コーアクティブ・コーチングの訓練を受けた後に読むと「ああ、なるほど」と納得できる本です。この本はコーチ用のもので、実践しながら参照して理解を深める類の本ではないかと思います。私の机の上にはこの本がいつも置いてあり、折に触れて参照するようにしています。コーアクティブモデルは構造はシンプルですが奥深く、モデルを構成する要素を何度も何度も考え直すテキストとして使っています。
■インナーゲーム
「新インナーゲーム―心で勝つ!集中の科学」 W.T.ガルウェイ(2000)
元々は、テニスでいかにパフォーマンスを出すか、ということについて書かれた本です。しかし、何度読み返しても単なるテニスの練習法の本には見えません。非常に示唆に富む良書です。意識と無意識の構造の話にも見えます。そういう意味でユング心理学や仏教の考え方と親和性があるように思います。
人の中には評価・判断をして指示を出す「セルフ1」と実行者である「セルフ2」が居て、セルフ1が優位になりすぎるとテニスのプレーは上手く行きません。如何にセルフ1とセルフ2を協同させるかが重要で、人は対戦相手とのゲームの他に心の中でのゲームを同時に戦っているのだ、ということが書かれています。
テニス練習法の本なので具体的で読みやすいです。コーチングに興味がなかったとしても楽しめる本です。原書が出たのは1970年代と古いのですが、おすすめします。
「インナーワーク―あなたが、仕事が、そして会社が変わる。君は仕事をエンジョイできるか!」W.T.ガルウェイ(2003)
インナーゲームのフレームワークを職場で生かすことを書いた本です。仕事に対する満足度を如何に上げるか、その示唆に富んだ良書です。
「インナーゲーム」において「ボールの縫い目はどの向きに回転していますか?」という有名なコーチの質問があります。ガルウェイは、コーチがこの質問を問うことによって、テニスの生徒はプレーに対する評価を行う「セルフ1」の動きを止め、実際にプレーを行う「セルフ2」の潜在能力を最大限に発揮できると論じました。「今何が起きているのか」にプレーヤーの意識を集中させることが重要です。自分のプレーが「良い」か「悪い」かという判断を止めることで、潜在能力が最大限に発揮されるというのがガルウェイの主張です。
この「ボールの縫い目はどの向きに回転していますか?」という質問は職場ではどのような質問になるのか。どのような質問をすれば、職場メンバーの集中力が高まるのか?自分自身にどんな問いかけをすれば、自分の仕事をつまらない業務ではなく、「インナーゲーム」として楽しめるのか?。最近の言葉で言えばゲーミフィケーションということになりますが、ゲームとしての自分の仕事の構造を理解し、そのゲームをクリアーするために仕事を楽しみ始める。
魔法のような話ですが、そんな試みについて書かれています。モチベーションデザインを考える上でも参考になる本です。おすすめします。
インナーゲームに触発されたウィットモアが、企業へのコーチング方法論としてインナーゲームをさらに洗練させて語った本です。
「コーチング」という概念を経営者が本当に理解し、組織がそれをDNAレベルで受け入れた日には、恐ろしく強い組織が出来るんだろうなと感じます。今の時代の会社は、昔と違って「その仕事を誰がやっても同じ。社員は労働者であって交換可能」なものではありません。創造的で優秀な人材の能力を最大限に引き出せる会社のみが競争に勝つことが出来る。ジム・コリンズが「ビジョナリー・カンパニー」の中で「どこに行くかを決める前に誰をバスに乗るかを決める」と言いましたが、その通りだと感じます。
戦略とは突き詰めると人と組織の問題に行きます。その問題にコーチングの切り口でアプローチするとはどういうことか。そんな着想を得ることが出来る本です。企業へのコーチング導入を行う方におすすめします。
■オントロジカル・コーチング
「コーチング5つの原則」J.フラ―ティ著 コーチ・トウェンティワン編集(2004)
この本のベースとなっている人達(フェルナンド・フローレスやフンベルト・マチュラナは)はオントロジカル・コーチングの思想を形作った人達です。
日本でオントロジカル・コーチングをやっているという人があまりにも少ないので、日本でこの流派のコーチングを理解するのはちょっと難しいですね。
本書からは、変化に対するコーチの強いコミットメント感覚が伝わってきます。コーチとクライアントは責任を共有する存在であるとして、クライアントの「古い習慣」からの脱皮にコーチが注力しています。
■NLPコーチング
「NLPのすすめ―優れた生き方へ道を開く新しい心理学」ジョセフ・オコナー、ジョン・セイモア著(1994)
「コーチングのすべて」のジョセフ・オコナーによるNLPの入門書。NLPコーチングの本はロバート・ディルツなど他のNLP重要人物も書いているので、それらを読むのも良いと思います。ただ、ジョセフ・オコナーは言葉の選び方がとても洗練されていて、知的で洗練された文章を書きます。個人的にはこの人の言葉が好みです。
内容はプラクティショナーコース相当でしょうか。
コーアクティブ・コーチングの本と同様、NLPは本を読んでマスターできる類のスキルではないと思いますが、NLPに詳しい人の話を聞いたりワークショップに出たりしながら、本書を見直すという使い方をすると良いように思います。
■ポジティブ心理学コーチング
「フロー体験 喜びの現象学」ミハイ・チクセントミハイ著 今村浩明訳(1996)
人が何かに没頭している状況のことをフロー体験と言います。フロー状況にあると人の幸福感は高まります。
この本自体はコーチングの本ではありません。しかし、ポジティブ心理学コーチングを知るには有益です。ポジティブ心理学コーチングを構成する重要な1要素である「フロー」の概念を詳しく知ることが出来ます。
ちなみに、仕事はフロー状況になりやすい活動の一つと言われています。そういう意味で個人に合った仕事とのかかわりを見つけることは幸福な人生を送るにあたってとても重要なことだと思います。
「つよい子を育てるこころのワクチン メゲない、キレない、ウツにならないABC思考法」マーティン・セリグマン/カレン・レイビック/リサ・ジェイコックス/ジェーン・ギラム著 枝廣淳子訳(2003)
子供の悲観的思考に対する対処法が書かれた本ですが、同じ方法論は大人にも使えると思います。ポジティブ心理学は研究者による効果実証が多くなされており、ここで紹介されているABC思考法はアメリカの学校ですでに導入されており、その効果が実証されているそうです。
コーチングはカウンセリングとは異なり、病理的な精神状態のクライアントにセッションを行うことはありません。しかし、病理水準まで行かなくとも、職場等で心理的に苦しい状態に居る人は多く存在します。そうした人に対するサポートとして、ここで書かれているアプローチは有効だと思います。
■実践と読書を交互に行う
以上、コーチング主要流派それぞれを知る為の本を10冊ご紹介してきました。コーチにとって、どのようなコーチングを目指すのかは人それぞれだと思います。なるべく幅広くコーチングの考えを見渡して、自分にあったものを選んでいくことが重要だと思います。
私個人の話をすると、コーチングの最初の1歩は行動コーチングでした。そこからコーアクティブに移りました。転職など人生の大きな転機に悩むクライアントにコーチングすることが多いので、コーアクティブは非常にパワフルなツールです。同時に、企業内の組織変革ツールとしてコーチングを使う時は、インナーゲームの考えを良く参照します。コーチングは奥深いコミュニケーションの連続です。実践で試し、本を読み、また実践で試す、ということを繰り返します。読書はそんな試みに大きな気づきをもたらしてくれます。
また、コーチングの実践においては「コーチの質問」に焦点を絞って自分のスキルを磨いていくことが有効だとも感じます。コーチの質問力に関しては、こちらにも記事を書いています。ご興味があればご参照ください。
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役。
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