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ブログ歩きながら考える

2026.3.3 NEW

AIに即時フィードバックしてもらい食生活を変えた話 – 歩きながら考える vol.239

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIとフィードバックについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、最近の自分の「人体実験」について話してみようと思います。この2年ぐらい、AIからのフィードバックの効果についてずっと研究しているんですが、研究だけじゃなく自分でも色々試していて、その中で「これは面白いな」と感じたことがあったんですよね。

AIに毎食の写真を投げて、食生活を変えてみる

きっかけは、急性歯髄炎になって流動食しか食べられなくなったこと。豆腐とか柔らかい鶏胸肉とか野菜ジュースとか、そんなものばかり食べていたら、なぜかかえって体調が良くなっちゃった。頭も冴えるし、コンディションが上がった。年齢的にも中年に差しかかってきたし、これを機に食生活を本格的に見直そうと思ったんです。

で、今やっていることはシンプルで、毎食食べたものをその場で写真に撮って、AIに投げる。すると、「これはカロリーオーバーですね」「塩分が多すぎます」「炭水化物量が多いのでスパイクになる可能性があります」と、その場でフィードバックが返ってくる。食べる前にやれば食べるものの調整ができるし、食べた後でも、次に何を選ぶかの判断材料になる。

しかも、過去の健康診断の結果や以前の食事記録をAIが覚えているから、「自分の体がどう反応するか」という文脈込みのフィードバックが返ってくるんですよね。専用デバイスを買う必要もなく、すでに使っているAIチャットでできてしまう。これはコスパとアクセスしやすさの面で、かなり大きな変化だと感じています。

習慣が変わるには、こまめなフィードバックが必要

何回か試しているうちに、自然と「これは食べない方がいい」「間食するならナッツと水がいい」みたいな判断が身についてきました。このプロセスを振り返って気づいたのは、習慣形成においてフィードバックがいかに重要か、ということです。

染みついた習慣を変えるのは、1日や2日ではどうにもなりません。お昼になったらいつもの店に行って、いつもの定食を食べちゃう。そういう無意識の行動パターンを変えるには、やはりそれなりの時間がかかる。研究によると、新しい習慣が定着するまでには平均で2か月くらいかかるそうです。

だから、その2か月間、こまめに、的確に、受け取りやすい形でフィードバックをもらい続けられる環境がどれだけ大事か、という話になってくる。

でも、ちょっと考えてみてください。あなたの周りに、毎食の写真を見てくれて、「これはカロリーが多すぎる」「塩分を減らした方がいい」と細かく教えてくれる人がいますか? いないですよね。人間から日常的にもらえるフィードバックは、せいぜい「よかった」「まずい」程度の粗いものか、あるいは怒りや褒め言葉という感情的な反応がほとんどです。

きめ細かく、高頻度で、しかも心理的に受け取りやすい形のフィードバックを継続的にもらえる環境は、これまで一部の恵まれた人——優れたコーチをつけられるトップアスリートや、良い師匠に恵まれた職人——にしか存在しなかった。それがAIによって誰でもアクセスできるようになりつつある。これはフィードバックの民主化と呼んでいいんじゃないかと思います。

AIフィードバックの限界:プル型からプッシュ型へ

ただ、正直に言うと、今のAIには一つ大きな限界があります。それは常にこちらが先に話しかけなければならない、プル型の存在だということです。

フィードバックが本当に力を発揮するのは、相手が求めていないタイミングで、でも必要なことを届けられる時ではないかと思います。優れたコーチや師匠は、選手や弟子が気づいていないタイミングで「今のは違う」と言える。このプッシュ型のフィードバックこそが、習慣形成において最も効果的なはずです。

でも、これには難しさもある。心理学では「心理的リアクタンス」と言いますが、人は自律性を脅かされると反発する。親に指摘されてキレてしまう子供はその典型で、内容が正しくても、タイミングや関係性によっては完全に逆効果になる。AIが不用意にプッシュ型のフィードバックをしようとすると、同じ問題に直面する可能性があります。

では、AIは人間のフィードバックを超えられないのか。私はそうは思っていません。ただ、これは技術の問題というより、人間とAIがどんな関係を結ぶか、という問いに変わってくると感じています。

親に言われると反発する同じ言葉でも、自分が信頼してお願いしたコーチから言われれば素直に受け取れる。つまり、AIフィードバックが有効に機能するかどうかは、AIの能力より先に「このAIにどこまで踏み込んでいいか」という個人レベルの合意、さらには社会全体でAIとの関係をどう設計するかという社会的な合意にかかっているんじゃないかと思います。

技術はもうそこまで来ている。あとは、私たちがAIとどう付き合うかを、個人としても、社会としても、もう少し丁寧に考えていく必要があるんじゃないか。これが今、私自身が研究しながら考え続けているテーマでもあります。

まとめ

というわけで、今日はAIフィードバックと習慣形成の話を歩きながら考えてみました。食事の写真を投げるだけで始められる話なので、ぜひ試してみてください。

この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。「こんな使い方もしてるよ」という話があれば、ぜひ教えてください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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