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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2026.1.8 NEW

AIで英語力が落ちたので、AIで取り戻すことにした話 – 歩きながら考える vol.204

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIで英語力が落ちた話と、その解決策について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日はアップルストアに向かう移動時間を使って、ちょっと恥ずかしい話をしようと思います。去年、AIを使っていてすごくいいこともたくさんあったんですけど、実は逆効果になったこともあって。それが、英語なんですよね。歩きながら、ゆるく話してみようと思います。

AIで「英語の筋肉」が落ちてしまった

去年1年間、仕事でAIをガンガン使ってきました。文章を書くスピードとクオリティは、圧倒的にAIの方が早いじゃないですか。日本語でさえAIの方が早いんだから、英語の場合はもう数倍とか数十倍のスピードとクオリティの差があるわけです。

本当は、自分で英文を書いて、それをAIに直してもらって、その修正を学習して自分の英語力を伸ばしていくのが英語学習者としてあるべき姿だと思うんですよね。でも、仕事ではアウトプットとスピードが重視されるから、そんな悠長なことをやっていられない。結局、「書いてほしいもののアイデアだけAIに投げて、英語のメールをささっと生成してもらう」という使い方になってしまいました。

そうすると何が起こるか。確実に認知的オフローディング(認知的な負荷を外部に降ろすこと)が進んで、「もう英語はAIでいいかな」みたいな気分になっちゃうんですよ。頭の中の英語のスイッチが入らなくなる。英語を書くだけじゃなくて、話すのもおっくうになってしまいました。「どうせ頑張ってもAIに追いつけないしな」という諦め感もあったかもしれません。まさに「英語の筋肉」が落ちていく感覚です。

「人を賢くする道具」と「人を愚かにする道具」

ここで思い出すのが、認知科学者ドナルド・ノーマンの名著『人を賢くする道具』です。ノーマンは、人間の認知には「体験的認知(experiential cognition)」と「内省的認知(reflective cognition)」という2つのモードがあると指摘しています。

体験モードは、「特別な努力なしに効率よく周囲の出来事を知覚したり、反応したりできる」モード。エキスパートの行動モードとも言われ、訓練を重ねてはじめてこのモードに至れます。一方の内省モードは、「比較対象や思考、意思決定」を行うモード。新しいアイデアや行動はこのモードから生まれます。

英語学習者としてのアウトプットは、本来「内省モード」なんだと思うんですね。アウトプットしながら学んでいる感じ。しかし、AIを使うと、ここで鍛えるべきプロセスを、いきなり「体験モード」にしてしまっているんじゃないかと思うのです。考えずに自動的にアウトプットが出てくる状態。楽だけど、自分の能力は伸びない。つまり、同じAIでも使い方によって「人を賢くする道具」にも「人を愚かにする道具」にもなり得るということです。

仕事の文脈では、AIへの認知的オフローディングはある程度仕方ない。アウトプットのスピードと質が求められる場面で、「自分の英語力の鍛錬が」なんて話にはならないですから。でも、それだけだと筋力が落ちていく。しかし、これはとても悔しいし、良くないことだと思います。

だから、日々の基礎トレーニングとして、別のAIの使い方をすればいいんじゃないかと考えました。

一石七鳥の英語学習法:AIを「負荷をかける道具」として使う

僕の性格特性として、一石三鳥以上のやり方がすごく好きなんですよね。効率的だと思うと、やる気が出る。で、考えたのが、英語のニュース記事を音読しながら、横でAIの音声モードを立ち上げて会話するという方法です。

具体的には、BBCでもABCでも英字新聞でも何でもいいんですけど、無料で読める英語の記事をその日のホットトピックから選んで音読する。スマホでやるなら、裏でGrokの音声モードを立ち上げておいて、分からない単語があったらその場で聞く。「これどういう意味?」「こういう意味ってことは、ニュアンスとしてはこういうことを言ってるの?」「この表現、自分が使いたい場面で使える?」みたいに、細かく聞いていくんです。

昔はこれを辞書でやっていたと思うんですけど、AIは辞書よりも様々な説明をしてくれる。単なる意味だけじゃなくて、文例を作ってくれたり、類義語や反対語を出してくれたり。さらに、記事の内容について議論することもできる。「この記事ではこう言ってるけど、自分はこう思う。反対の意見があるとしたらどういうものがあり得る?」みたいに聞いてもいい。

これ、実際にやってみると、効果がものすごく多いんですよ。数えてみたら「一石七鳥」でした。

  1. 最新ニュースの取得:時事情報を英語で仕入れられる
  2. 音読・リーディング練習:声に出して読むことで読解力が鍛えられる
  3. 発音のチェック・矯正:AIに聞き取ってもらえているか確認でき、正しい発音も教えてもらえる
  4. 語彙力の強化:分からない単語をその場で深く学べる
  5. 英作文の練習:表現の使い方を確認し、自分で文を作る練習ができる
  6. 議論・意見構築の訓練:記事の内容について議論し、自分の意見を組み立てる力がつく
  7. 会話練習:AIと英語で会話する練習になる

僕はChatGPTよりもGrokの音声モードの方が好きで、理由はトランスクリプトが同時に出てくるのと、話し方がChatGPTのアドバンストボイスモードに比べてもうちょっとこなれた感じがするからです。Grokは無料でもボイスモードが結構使えるので、コスト面でもありがたい。

高額アプリより「無料記事+無料AI」の組み合わせ

発音のアプリ、リーディングのアプリ、シャドーイングのアプリ、瞬間英作文のアプリ……。日本みたいな巨大な英語学習市場だと、どのサービスプロバイダーも月3000円とか3500円とか請求してきますよね。バラバラのアプリをそれぞれ契約したら、とんでもない金額になってしまう。

もちろん、それぞれのアプリはUIをうまく作っていると思います。でも、無料で読めるニュース記事と、無料で使えるAIの音声モードを組み合わせれば、これらの学習効果を一度に得られる。オンライン英会話もいいかもしれないけど、AIなら話し放題。人間相手の恥ずかしさもないから、練習量を増やすという意味ではすごく安価に学べます。

実際にこの方法を試し始めているんですけど、結構長い時間勉強できるんですよね。忙しい時にやっちゃうのが良いのか悪いのかわからないけど、長時間勉強できるというのはいいことだと思う。学生の頃にこんな学習方法があったら本当に良かったなと思います。

仕事ではAIに認知的な負荷を降ろして効率を上げる。でも、トレーニングの時間にはAIを使って自分に負荷をかける。短時間でのアウトプットが求められる仕事の場面ではAIは「人を愚かにする道具」になる可能性が高いから、プライベートではAIの使い方を変えてAIを「人を賢くする道具」にしておくことが大事なのではないかと思います。

というわけで、今日はAIで英語力が落ちた話と、その解決策について歩きながら考えてみました。AIとの付き合い方って、結局は自分次第なのかもしれません。

この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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