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今日のテーマは、通勤にわざと時間をかけることで英語力と健康が同時に手に入るかもしれない、という話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。だいぶあったかくなってきましたね。春になると、新しいチャレンジをしたくなるもので、昔からの定番と言えば「今年こそ英語をちゃんとやろう」。で、最近これをやっていてすごくいいなと思ったことがあるので、歩きながら話してみようと思います。
何がおすすめかというと、通勤を徒歩に切り替えて、歩きながらAIと英語で話す、これだけです。
電動自転車をやめて歩くことにした
僕は京都に住んでいるんですけど、京都市って非常にコンパクトで平らなので、通勤通学に自転車を使う人が多いんですよね。僕もこれまで、研究室やコワーキングスペースへの移動には電動自転車を使っていました。10分、15分で着くし、非常に快適だった。
でも最近、やめたんです。
なんでかというと、歩きながらAIと英語で話したいから。自転車に乗りながらAIと話すと事故するかもしれないし、バスの中だとAIと話してるわけにもいかない。歩きなら、イヤホンをつけて自然に会話できる。
代わりに歩くようにすると、研究室まで片道40分、コワーキングスペースまで30分くらいかかります。往復で1時間から1時間半。でもこれが、全く無駄になる気がしないんですよね。
なぜかというと、英語のスピーキング練習の時間が1日60分〜90分自動的に確保されるから。しかも、歩くことで1日1万歩以上の運動にもなる。時短が当たり前の時代に、あえて遅い移動手段を選ぶ。でも、その「遅さ」の中に英語学習と運動を乗せることで、結果的にはものすごく生産的な時間になっているわけです。
ちなみに、歩行と創造性の関係については研究もあります。スタンフォード大学のの研究によると、歩いている人は座っている人と比べて創造的なアイデアの産出量が平均60%向上するそうです。歩くことは、単なる移動手段ではなく、頭を使うための準備運動でもあるんですね。

AIと歩きながら何を話すか
「AIと英語で話すって、何を話せばいいの?」と思うかもしれません。僕のおすすめは、目の前に見えているものを英語で描写すること。
「今、こういう通りを歩いていて、人混みがこれくらいいて、みんな通勤途中で、今日は天気が良くて……」。こういう、見ているものをリアルタイムで英語にする。で、AIにそれをより正確な表現に直してもらったり、よりナチュラルな言い回しに言い換えてもらう。それを復唱して練習する。
歩いていると、色んなことが目に入るし、色んなことを考える。その思いついたことを英語にしてみて、AIと自由な会話をしてみる。こういう使い方がなかなか良いんじゃないかと思っています。
僕が使っているのは、GrokかSesameのどちらか。より自然な対話を楽しみたかったら、Sesameの方がいい。人と話しているような感覚になれます。ただ、Sesameはトランスクリプション(文字起こし)が出ないので、自分が何を話したか、AIが何と言ったかを後から文字で確認できない。そこは、会話の履歴がテキストで残るGrokの方が便利かなと思います。
でも、AIとの英語練習には限界もある
ここまで「おすすめです」と言ってきましたが、正直に言うと、AIとの英語会話で鍛えられないスキルもあります。
一番大きいのは、複数人の会話への参加スキル。日本人が英語のコミュニケーションで特に苦手とするのは、ネイティブ同士の会話の輪に入っていくこと。話の流れを読んで適切なタイミングで発言する、誰かの話に自然に乗っかる、場の空気を読みながらリアクションする——こういった対人的・社会的なスキルは、今のところ1対1のAI会話では練習できません。
AIは常にこちらの話を聞いてくれるし、常にターンを渡してくれる。でも実際の英語のミーティングやパーティーでは、誰も自分にターンを譲ってはくれない。そこに割り込んでいく力は、やっぱり人間との実践でしか磨けないものです。
今の段階では、AIとの英語学習にはそういう限界があることを理解しておいた方がいいと思います。複数のAIが会話していて、そこに参加するようなことが出来るようになると良いと思いますね。

「丸投げ」ではないAI活用だからこそ、能力が上がる
とはいえ、この使い方の本質は何かというと、「AIに英語を任せる」のではなく「自分が話し、AIにフィードバックをもらう」ということ。ここがすごく大事なポイントだと思っています。
最近、AIを使った英語学習というと、AIに翻訳してもらったり、AIにメールを書いてもらったりという使い方が多い。でもそれは、自分の英語力をアップグレードしているのではなく、AIの英語力に丸投げしているだけ。やっている本人は楽だけど、英語力そのものは向上しないし、むしろ退化する危険性が有ると思います。
一方、歩きながらAIと英語で話すという行為は全く違います。自分の目で見たものを、自分の頭で考えて、自分の口から英語にする。その上で、AIからフィードバックをもらい、より良い表現を学ぶ。認知的な負荷は常に自分の側にあるんです。
これは、AIの使い方として非常に健全なものだと思います。AIが「代わりにやってくれる」のではなく、AIが「トレーニングに付き合ってくれる」。この違いは大きい。こういう使い方をしている限り、AIは確実に人の能力をアップグレードする道具になると思っています。
春ですし、新しいことを始めたい方は、通勤をちょっと「遠回り」にしてみてはどうでしょうか。能力アップの近道は、案外、徒歩通勤という遠回りの中にあるのかもしれません。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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