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2026.2.19 NEW

宇都宮がちょっと良いなと思った話:地方都市の幸福度を考える- 歩きながら考える vol.232

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、地方都市の容積率緩和ニュースから考える「住む場所と幸福度」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は日経新聞で見かけた記事をきっかけに、ちょっと考えごとをシェアしようと思います。テーマは「地方都市と幸福度」。先週出張で宇都宮に行って感じたこととつながったので、歩きながら考えてみます。

地方都市の「職住近接」を後押しする動き

記事の内容をざっくり言うと、地方自治体がまちの中心部にオフィスを誘致しやすくするために、容積率の緩和ができる制度をつくるという話です。これまでは病院や商業施設に限っていた緩和対象を、オフィスやスタジアムなどにも広げる。地方の県庁所在地クラスの都市を核に、職住近接のコンパクトなまちづくりを促そうという狙いですね。

背景には東京一極集中の問題があって、地方から東京に出る理由の上位は「希望の仕事が見つからない」こと。地方に働く場をつくる必要性は高い。で、ここから僕が考えたいのは、そもそも地方都市に住むことは、人の幸福度にとってプラスなのか? ということです。

「職・住・教育・自然」の四要素近接と東京のリスク

家族がいるオフィスワーカーにとって理想的な環境を考えてみると、保育園学校が近い、職場の距離が短い、新幹線で大都市に1時間で出られる。大企業がバックオフィス部門をそういう場所に置けば、本社と同等の待遇で子育てや介護をしながら働ける。

ここまでは職住近接の話ですが、僕は京都に住んでいるからか、もう少し広く考えたくなる。教育の接近に加えて、自然の存在。ちょっと歩けば川、少し行けば森。こういう環境がウェルビーイングにプラスだというのは研究でも強く支持されています。この四要素がコンパクトにまとまった場所に住むことは、幸福度にとってまず間違いなくプラスです。さらにプロスポーツチームがあったりするとコミュニティができて、良好な人間関係(ソーシャルキャピタル)が形成される。

一方で東京を見ると、住宅価格がかなり高騰しています。共働きでペアローンを組んで1億2億のマンションを買う。これまでは価格が上がっていたからレバレッジが良い方向に利いたけど、不動産価格の下落地震金利上昇。どれか一つでも起きたら一気に首が回らなくなるリスクがある。そう考えると、無理なレバレッジをかけて東京にいるよりも、地方で職住教育自然の近接を実現する方が、幸福度を高める上ではむしろ合理的なんじゃないかという気がしてきます。

先週行った宇都宮が「まさにそれ」だった

ここで思い出したのが、先週出張で行った宇都宮のこと。あの街、まさにこの話が実現しつつある感じでした。

2023年に開業したLRT(ライトライン)は累計利用者数1,000万人を突破し、JR宇都宮駅西側への延伸も計画中。駅前では再開発でタワーマンションや複合施設が次々と建っている。スポーツも充実していて、バスケの宇都宮ブレックスはBリーグ屈指の強豪。サッカーの栃木SCに加えて、ラグビーの三重ホンダヒートも2026-27シーズンから宇都宮に本拠地を移転してくる。LRTの駅からスタジアムまで徒歩5分。交通インフラ、再開発、プロスポーツが一つの街の中で連動していて、東京から新幹線で約50分。すごく生活しやすそうな都市だなと思いました。

でも、地方は本当にバラ色か?

ただ、「じゃあ地方に行こう!」と単純には言えないとも思っています。

たとえば僕が住んでいる京都。職・住・教育・自然の四要素はかなり揃っていますが、幸福度がそこまで高いかというと、そうとも言い切れない。四要素が揃えば自動的に幸せかというと、どうもそうではない。

地方都市には構造的な課題がある。まず職の選択肢が狭い。転職しようと思っても選択肢が限られる。専門性の高い医療機関が少ない。子どもの進学先の幅も小さくなる。そして、小さなコミュニティゆえの距離感の問題。東京のように一見さんでもすぐ歓迎される感じではなく、地域のネットワークに自然に入っていくまでに少し時間がかかったりする。京都も、別に外の人に排他的というわけではないけれど、そういう壁が全くないわけでもない。

だとすると、容積率の緩和のようなハード面の整備と同時に、「選択肢の狭さ」と「閉じた距離感」をどう開いていくかを考えることが重要になる。リモートワークで職の幅を広げる。遠隔医療やオンライン教育で物理的距離のハンデを縮める。そしてプロスポーツや文化イベントのような「開かれたコミュニティの入口」をつくる。宇都宮のブレックスやホンダヒートは、まさにそういう役割を果たし得るんじゃないか。新しく街に来た人が「試合観に行こうよ」と誘われて、そこからつながりが生まれる。そんな小さな入口が、街を少しずつ開いていく。

というわけで、今日は容積率緩和の記事から「東京にしがみつくことは合理的か?」というところまで考えてみました。答えは単純じゃないけど、「地方都市で暮らす=キャリアの格落ち」ではなく「幸福度の最適化」として捉え直す視点が、これから自然になっていくんじゃないかと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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