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2026.2.10 NEW

AIに「今すぐ対策しろ」と言われて焦った話:知らないことをAIに聞く怖さ – 歩きながら考える vol.226

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIを信頼することは合理的なのか?という話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日はちょっと最近あったヒヤッとした出来事から、AIとの付き合い方について考えてみようと思います。先週、オンラインで心理実験をやっていたんですけど、その準備中にAIに相談したら、逆にパニックになりかけたっていう話です。歩きながら、ゆるく話してみます。

実験3時間前、AIに「それは相当まずい」と言われた

先週、オンラインの心理実験を実施してたんですよ。実験って、質問紙の内容が理論的に適切かどうかチェックするのはもちろんなんですけど、参加してくれる方々がスムーズに引っかかりなく参加できるかっていう体験設計もすごく大事で。予算も限られてるんで、できることには限りがあるんですけど、なるべくストレスのない体験にしようと工夫してたわけです。

で、その中で1個、準備が足りなかったところがあった。実験サイトのサーバーが、同時アクセスのトラフィックを捌ききれるかどうかの確認が甘かったんですね。過去に同じような実験を何度もやっていて、大きな問題になったことがなかったんで、今回も同様に進めてたんですけど、今回はちょっと参加人数が多かった。前回の1.5倍くらい。

そのことに、実験開始の3時間前に気づいたんですよ。

あ、これ、やばいんじゃないかと思って。僕、サーバーのエンジニアではないので、AIに相談してみたんです。そしたらGeminiから、「それは相当まずいです。実験が成立しなくなる可能性があります」と。さらに、「小型の軽自動車に30人ぐらい乗車した状態で高速道路に突っ込むようなものです。今すぐ対策をとった方がいい」って言われてですね。

これを見て、相当動揺しました。サーバーの契約変えなきゃ、もっと強力なサーバーに移さなきゃ、エンジニアに連絡取らなきゃ、ってパニックになりかけた。

でも、ちょっと立ち止まったんです。いや、待てよと。自分はサーバーのエンジニアじゃないんだから、ここで下手にサーバーをいじって全く実験が機能しなくなる方がよっぽど大問題だ。人数は確かに増えたけど、いきなり10倍になったわけじゃない。前回そんなに問題なかったことを考えると、多少サーバーが重くなったとしても、それが特定のグループだけに偏った影響を与えるのでなければ、群間比較には支障がないはず。結局、そのまま実施する判断をしました。

結果として、確かにサーバーが重くなる時間帯はあって、その時間帯の参加者には繋がりにくいなどの不便があったと思います。でもそれは「今日は天気が雨だったのでちょっと不快だった」と同じことで、全グループに対して同じ条件だった。だから実験の分析結果には影響がないという判断で進んで良かったと思ってます。

知らないからこそAIに聞く、という合理性

さて、ここからがこの体験を通じて考えたことです。

まず一つの見方として、自分に知識がない領域でAIに頼るのは合理的だ、という考え方がありますよね。みなさんも経験あると思うんですけど、自分がよく知らないことをAIに聞くと、すごく丁寧に、しかもわかりやすく教えてくれる。専門家に聞くのはハードルが高いけど、AIなら気軽に何度でも聞ける。しかも膨大なデータに基づいた回答を出してくれるわけで、専門外の領域では人間の直感よりもよほど頼りになる場面がある。

計算機が暗算を代替したように、AIが専門知識を補ってくれるなら、それを活用しない手はない。ここまでは、多くの人が同意するところだと思います。

でも「信頼」が「盲信」になる構造がある

ただ、ここに落とし穴があるんですよね。

自分の研究領域の話であれば、AIが出してきた情報を自分の知識と照らし合わせて評価できる。「この話は8割方信じられるな」とか、「これは半分くらいかな」とか、「これは2割くらいだな」っていう、信頼度のグラデーションが持てるわけです。

ところが、専門外の領域ではこのグラデーションが機能しない。参照する知識が自分の頭の中にないから、AIの回答が妥当かどうかを判断する基準がないんですよね。結果として、100か0かみたいな極端な判断しかできなくなる。で、AIを使うっていう判断をした以上は、その情報を役立てようと思ってるわけだから、大半の人は100パーセント信じる方に傾くんじゃないかと思います。「判断できないから信じない」っていう人は、そもそもAI使ってないと思うんで。

最近のAI研究でも、エキスパートはAIの出力を検証するためにむしろより多くの認知的努力を投じる傾向がある一方で、初心者はその検証プロセスをバイパスしがちだということが報告されています。つまり、知識がある人ほどAIの回答を「本当かな?」と吟味できるけど、知識がない人はそのまま受け入れてしまいやすい。

ここに、AI利用の構造的なパラドックスがあると思うんです。AIを最も必要とする場面(自分が何も知らない領域)こそ、AIを最も危険な形で使ってしまう場面でもある。知らないからこそAIに聞く。でも、知らないからこそ騙される。この構造は、なかなか厄介だなと。

感情が絡むと、パラドックスはもっと深刻になる

で、僕の体験でもう一つ重要だったのが、感情の要素です。

冷静な状態であれば、AIの回答に対して「本当か?」と立ち止まれるかもしれない。でも、僕の場合、実験3時間前にサーバー問題に気づいた時点でもうかなり動揺していて、そこにAIから「軽自動車に30人乗せて高速に突っ込むようなもの」なんて言われたから、さらに焦ってしまった。あのまま動揺に任せてサーバーをいじっていたら、実験が全く動かなくなるというもっと大きな事故になっていた可能性がある。たまたま過去の実験の記憶を思い出して「前回もそこまで問題なかったよな」と思い直せたから踏みとどまれたけど、それがなかったらどうなっていたか。

焦っている時、不安な時、人間の批判的思考力は下がります。そこにAIが断定的な比喩で回答してくると、もう冷静な判断は難しい。AIは感情に左右されず冷静に答えてくれるから頼りになる、という見方もあるかもしれないけど、問題は受け取る側の人間が冷静でないということなんですよね。

つまり、「専門外」×「感情的に動揺」という条件が重なった時、AIへの盲信リスクは最大化する。今回の僕のケースは、まさにそれだったなと思います。

まとめ:「AIに聞いたから安心」じゃない、という自覚

というわけで、今日は自分の実験準備中のパニック体験から、AIへの信頼について歩きながら考えてみました。

AIは確かに便利で、専門外の領域で知識を補ってくれる強力なツールです。でも、知らないからこそAIに聞く、知らないからこそ騙されるというパラドックスがある。さらに、焦りや不安といった感情が重なると、このパラドックスはもっと深刻になる。

じゃあどうすればいいのか。正直、簡単な答えは僕にもまだありません。でも、少なくとも「AIに聞いたから安心」ではなく、「AIに聞いた情報は、自分にはその正しさを判断できない可能性がある」っていう自覚を持つこと。それが第一歩なんじゃないかと思っています。この「AIへの信頼」と「専門知識」と「感情状態」の関係は、まさに僕が今後の研究で明らかにしていきたいテーマです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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