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ブログ歩きながら考える

2026.1.29

ディズニー1日5万円時代の「遊び」を考える – 歩きながら考える vol.218

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、「遊び」と「幸福」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、「遊び」と「幸福」について考えてみようと思います。きっかけは、日経新聞で見かけたディズニーリゾートの記事。テーマパークの高単価化が進む中で、子どもたちの遊びはどう変わっていくのか。歩きながら、ゆるく話してみます。

テーマパークから子どもが減っている

2026年1月3日の日経新聞に、ちょっと気になる記事がありました。東京ディズニーリゾートで、4~11歳の子どもの来場者がこの10年で31%も減っているというんです。

理由は高単価化が進んでいるからみたいですね。今や家族4人でディズニーに行くと、1日で5~6万円かかる。これ、誰でも気軽に行ける金額じゃないですよね。

で、これは「経験格差」の問題だという見方があります。フランスの社会学者ブルデューの「文化資本」という概念でいえば、親の所得が子どもの経験を規定してしまう。テーマパークだけじゃなく、留学、習い事、旅行など、さまざまな体験に格差が生まれている。子どものうちに得た経験が将来の格差につながるとすれば、これは確かに問題かもしれません。

でも、市場から買う遊びが最善なのか?

ただ、違う考え方もできると思うんです。

そもそも、市場から調達する遊びが最善とは限らないんじゃないか、と。

最近、若い世代の間で面白い遊び方が広がっているそうで。例えば、ロブロックスというゲームプラットフォーム。ここでは、ユーザー自身がゲームを作って、他のユーザーが遊ぶ。日経新聞の記事によると、ある中学生が作った温泉旅館のゲームには、1100万人もの人が訪れたそうです。

もう一つ、シール交換。これも若い女性の間で再ブームになっています。シールを集めて、デコレーションして、シールブックを持ち寄って交換する。「このレアシール1枚と、あなたのこの3枚を交換して」みたいなやりとりをするわけです。

これらの遊びに共通しているのは、参加者自身が価値を創り出しているということ。テーマパークでは運営会社が作った体験を消費するけど、ロブロックスやシール交換では、遊ぶ人自身が遊びを作っている。

「交換するから価値が生まれる」という逆転

シール交換で面白いのは、価値の決まり方です。

自分がコツコツ集めたシール、工夫してデコレーションしたシールブック。自分の中では「これだけの価値がある」と思っている。でも、実際に交換を提案してみるまで、その価値が認められるかどうかはわからない。相手が「いいよ」と言ってくれて初めて、価値が実現する。

これって、「価値があるから交換する」んじゃなくて、「交換するから価値が生まれる」という構造なんですよね。

人類学でいう「クラ交換」に似ています。パプアニューギニアのトロブリアンド諸島で行われていた儀礼的な交換で、貝殻の腕輪や首飾りを島々の間でぐるぐる回していく。マリノフスキーやモースが研究した有名な事例です。クラ交換でも、物の価値は交換の関係の中で生まれてくる。シール交換も、そういう贈与の論理に近いところがあるように思います。

なぜこれが「幸福」につながるのか

ロブロックスでゲームを作ること、シール交換をすること。これらは、テーマパークとは違う種類の幸福につながっているんじゃないかと思います。

心理学では、快楽を追求する「ヘドニック・ウェルビーイング」(快楽的幸福)に対して、「ユーダイモニック・ウェルビーイング」(自己実現的幸福)という概念があります。これは、自分の可能性を実現し、人生に意味や目的を見出すことで得られる幸福感のこと。

心理学者のキャロル・リフは、心理的ウェルビーイングを6つの次元で捉えるモデルを提唱しています。シール交換やロブロックスでの遊びは、この心理的ウェルビーイングの多くの部分と関係しているように思うんです。

まず「自律性」(Autonomy)。シールブックを作る、ロブロックスでゲームを作る。これは自分で何かを作っているということ。テーマパークで用意されたアトラクションを消費するのとは違って、自分の意志で、自分のやり方で遊びを創り出している。

次に「他者との肯定的な関係」(Positive Relations with Others)。シール交換では、交換相手との間で「このシール素敵ですね」「交換しましょう」というやりとりが生まれる。ロブロックスでは、自分が作ったゲームを他の人が楽しんでくれる。1100万人が遊んでくれた、という体験は、他者との肯定的なつながりそのものですよね。

そして「環境制御力」(Environmental Mastery)。自分で作り、他者と関わり、交換し合う。こうした遊びの営み全体に自分が関わって、それを動かしているという感覚がある。テーマパークでは運営会社が作った体験を受け取るだけだけど、シール交換やロブロックスでは、遊びそのものを自分たちで作り上げている。

最後に「個人的成長」(Personal Growth)。こうした遊びを続ける中で、自分自身が成長していく。シールの集め方がうまくなる、デコレーションのセンスが磨かれる、交渉がうまくなる。ロブロックスなら、プログラミングのスキルが上がる、デザインの感覚が身につく。遊びながら成長している実感がある。

テーマパークで受動的に刺激を消費することと、シール交換やロブロックスで能動的に価値を作ることは、幸福の質が違うんじゃないでしょうか。

まとめ:遊びの「質」を考える時代へ

テーマパークの高単価化で、子どもたちが経験格差にさらされているのは事実です。でも、だからといって「テーマパークに行けないのはかわいそう」と単純に考える必要もないのかもしれません。

テーマパークはヘドニックな快楽を提供する場ですが、高額化に加えて、長時間の待ち時間、早朝からの場所取りなど、本来の快楽すら損なわれつつある面もあります。一方で、シール交換やロブロックスのような遊びは、自律性や他者との関係、環境への働きかけ、個人的成長といった、ユーダイモニックな幸福につながっている。

もしかすると、テーマパークへのアクセスが制限されたアルファ世代は、別の形で遊びを見出し始めているのかもしれません。遊びをどこから調達するか。その問いを考えることが、幸福を考えることにつながっていく。そんなことを、歩きながら考えてみました。

この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったらぜひいいねやフォローをお願いします。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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