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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.12.16

忘年会は「非日常の共通体験」を作れるかで決まる – 歩きながら考える vol.189

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、令和の時代にまだ忘年会は必要なのか?というはなしについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は12月の忘年会シーズンということで、「飲み会」について歩きながら考えてみようと思います。きっかけは、11月30日の日経新聞の記事。「Z世代、職場飲み会不要派6割」という見出しで、若い世代が職場の飲み会を敬遠しているという話が出ていました。

で、最初に言ってしまうと、僕はこの意見、すごく真っ当だと思うんですよね。

「ノミニケーション不要論」は昔から繰り返されてきた

Z世代が飲み会を嫌がっているという話、実はそんなに目新しい話ではないんですよ。

1980年代に「新人類」と呼ばれた世代が社会人になった時も、上の世代から「最近の若者は付き合いが悪い」「飲み会に来ない」と言われていました。その後も、団塊ジュニア世代、ゆとり世代、そして今のZ世代と、同じような批判が繰り返されてきた。つまり、これは特定の世代の問題というよりも、社会全体が徐々に個人主義化していく中で、世代交代のたびに顕在化する構造的な現象なんじゃないかと思います。

だから、「最近の若者は……」という話って既視感があって面白くない。むしろ考えるべきは、「そもそも飲み会って、どういう条件が揃えば意味があるのか」ということだと思うんですよね。

飲み会の効果は「非日常の共通体験」を作れるかで決まる

僕が思うに、飲み会が人間関係構築に効果を発揮する条件って、実はシンプルで、「オフィスでは絶対に起きない非日常的な体験を共有できるかどうか」に尽きると思っています。

単に集まって食事をして、雑談して、仕事の話をして……というだけだと、それはあんまり非日常感がないんですよね。単なる接触だけでは深い信頼関係は築けない。そこにお金と時間を投資して、機会コストを考えると「意味ないんじゃない?」って思うのは、非常によくわかります。

一方で、飲み会が極めて非日常的な場になるケースもある。一番わかりやすいのは、昔ながらの「死ぬほど飲む」パターンですね。絶対おすすめはしませんけど、僕も2000年代前半に社会人になった頃は普通にありましたし、海外駐在時代もそういう飲み会は結構ありました。

なんでそれが効果的だったかというと、アルコール飲むと理性のタガが外れるからですね。普段は見せない素の自分をさらけ出してしまう。適度な「自己開示(Self-Disclosure)」は対人魅力を高めるとされていますが、泥酔して恥をかくというのは、極端な自己開示として機能していたわけです。「あいつの弱いところを見た」という安心感が、仲間意識(ボンディング)を生んでいた。

文化人類学的に言えば、飲み会は「日常(ケ)」から離れて無礼講を通じてガス抜きをし、再び日常に戻るための「祝祭(ハレ)」としての機能を持っていたとも言えるのかもしれません。困難や強い情動――大笑いしたり、驚いたり、恥を共有したり――を共にする体験は、「運命共同体」としての意識を醸成して、集団凝集性を高める効果があった。

僕自身も、酔いつぶれて出張先のステーションホテルにぶち込まれて、翌日ものすごく怒られたとか、海外で飲みすぎて人生最大の恥をさらしたとか、いろいろありました。でも、それが誰かを傷つけたわけでもないし、後々みんなに微笑ましい笑い話として処理してもらえた。そういう経験が、仲間意識の構築に役立ったのは確かだと思います。

「飲み会で成長できるか?」への答え

ところで、記事では「忘年会に行ったら成長できる?」という問いかけがされていました。個人主義化が進む中で、若手が「この飲み会、自分の成長につながるんですか?」と考えるのは自然なことです。

で、僕の答えはこうです。飲み会に参加するだけでは成長できない。でも、飲み会を仕切る側に回ったら、成長のチャンスがある。これはたとえその組織に所属する期間が3年とか短かったとしても、です。

考えてみてください。忘年会を企画・運営するって、実はいろんなスキルを使う場面なんですよ。参加者の好みをさりげなく把握するリサーチ力。スライド芸のために同僚の家族にインタビューに行って、普段聞けない話を引き出す取材力。参加者にいい時間を過ごしてもらうためのホスピタリティと段取り力。そして、準備の過程で社内のいろんな人と接点を持てるので、単純に顔を売る機会にもなる。

こういう忘年会の段取りの効果が暗黙の了解としてあったからこそ、これまで多くの会社で忘年会は割と大事なイベントとされてきたし、その仕切りを若手にやらせるという慣行があったんじゃないかと僕は思います。受け身で参加するのと、能動的に場を作る側に回るのでは、得られるものが全然違う。しかも、場を盛り上げることでチームの凝集性が高まれば、そこに所属している自分にもメリットとして返ってくる。自分のためでもあり、チームのためでもある。一石二鳥なんですよね。そこで得たスキルや人脈はたとえ転職しても後々役立ちます。

この考え方であれば、個人主義的な価値観を持つ若手でも、合理的に「ウィンウィンの話なんだ」と納得できるんじゃないかと思います。

「飲み会」に固執しなくていい

で、もう一つ大事なのは、「飲み会」という形式に固執する必要はないということ。

体を壊すリスクがある「死ぬほど飲む」は当然おすすめしませんし、イベント事で笑いを取るのが苦手という人も多いと思うんですよね。そういう場合は、例えばみんなで銭湯に行くとかでもいい。バスで銭湯行って、サウナに入って帰ってくる。それもオフィスでは絶対にできない共通体験じゃないですか。割と手軽だし、単なる消費行為でしかないけど、やっぱり記憶に残る。

演劇を見るとか、映画を見るとか、プロレスを観戦するとか、スポーツイベントを見に行くとかでもいいかもしれない。みんなでフィットネスするとか、ランニングするとかもあるかもしれない。とにかく、みんなで共通体験を持って、それについて後で語れるということが大事なんだと思います。

だから、忘年会を「飲み会」として定義するんじゃなくて、「非日常の共通体験をする場」として定義すれば、おのずとやれることの選択肢は広がる。単に集まってくっちゃべるだけだったら、正直やらない方がいいと思います。やるんだったら、そこまで準備をするという覚悟で臨んだ方がいいんじゃないかなと。

まとめ

というわけで、今日は忘年会シーズンにちなんで、「飲み会の意味」について歩きながら考えてみました。

この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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