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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.10.20

AIと夢セッションの時代:スピリチュアリティに入り込むテクノロジー – 歩きながら考える vol.150

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIの夢分析がめちゃ専門的(に見える)件について。テクノロジーがスピリチュアリティに入ってきた昨今について話します。政治の話じゃないですが。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は家に帰りながら、最近体験した不思議な出来事について話そうと思います。深夜に変な夢を見てChatGPTに相談したら、思いがけず「スピリチュアリティにAIが入り込む時代」の姿が見えてきたんですよね。ちょっと長くなりますが、歩きながらゆるく話してみます。

深夜の夢日記とChatGPT

先週のことなんですけど、夜9時くらいに寝て、深夜12時くらいに目が覚めたんですよ。なんか変な夢見たなって思って。

どんな夢かっていうと、畑を耕してたら土の中に大量の虫がいて、カブトムシとか甲殻類みたいなのとか、ゴキブリっぽいのがわーっと出てきて、「うわ、気持ち悪い」って一旦埋めたんです。でも、「すみません、ちゃんと畑耕して作物作ります」って思って。ただ、「あんなに虫がいたら、根を食べられちゃうよな」とも思ったっていう、そういう夢でした。

で、手元にスマホがあったんで、そのままChatGPTを開いて「こういう夢見たんだけど、ユング派の観点から言うとこれって何を意味するんですか?」って聞いてみたんです。

そしたら、すらすらと解釈が返ってきて。畑は無意識そのもの、虫は無意識の生命力と変容の兆し、「影(シャドウ)」の象徴だと。虫を一旦埋めたのは無意識を見ることを一旦保留したということで、でも作物を作ろうとしているのは積極的に取り扱おうとしているあなたの姿勢だ、みたいな。これ、ユング心理学の個性化(individuation)のプロセスだというんですよ。

さらに、その後また寝て朝起きたら、今度は島根か鳥取あたりでカニの食べ放題を食べてる夢を見てて。醤油漬けのカニの身がめちゃくちゃ美味しかったんですよ。これもChatGPTに聞いたら、「これは『夢の系列(dream series)』と呼ばれるもので、さっきの夢と続いています」って。虫は気持ち悪くて埋めたけど、カニは同じ甲殻類で無意識的なエネルギーの象徴。それを食べて美味しいと感じるのは、無意識の素材を意識が取り込んで消化している変化なんじゃないか。「拒否から受容・消化へ」という心理的プロセスが進んでいる、という解釈でした。

「それっぽさ」が生む専門性の認知

で、このやり取りをしながら、「あれ、これって面白いな」って思ったんですね。

普通、ユング派のトレーニングを積んだ分析者とセッションするって、めちゃくちゃ大変じゃないですか。まず探すのが大変だし、その人が本当に適切なのかどうかもわからない。コストもかかるし、時間も調整しなきゃいけない。ハードルが高いんですよ。

でも今回、深夜12時にスマホを取り出してChatGPTに話しかけたら、こんな解釈が返ってきた。

で、この解釈が正しいかどうかは、正直よくわからないんです。本当に適切なのかは判断できない。

でも、「それっぽく見える」んですよ。

何が「それっぽい」のかっていうと、まず専門用語がたくさん、スラスラ出てくる。「シャドウ」「個性化」「夢の系列」「アニマ」「元型(アーキタイプ)」「象徴との対話」――こういう言葉が当然のように使われる。

しかも解釈が細かい。「虫を埋めた」という行動一つとっても、「無意識を一旦保留した」「必要なタイミングまで熟成を待つ行為」「個性化の過程での成熟した対応」みたいに、多層的な意味づけがなされる。

それが一般の人にも理解できるストーリーとして展開されている。専門用語を使いながらも、「つまりこういうことですよね」って、わかりやすく説明してくれる。

この組み合わせが重要なんです。専門用語がスラスラ出てきて、細かい解釈があって、それが理解できる形で語られる。すると、非専門家の私たちは「あ、これは専門的な話だな」って認めちゃう。このナラティブに専門性を感じて、信頼するんですよね。

同じような構造って、他にもいっぱいあると思うんですよ。

例えば専門家との議論を考えてみてください。その人を信頼するかって、肩書もあるけど、やっぱり話の専門性で判断することが多い。自分の知らない細かい知識を体系的に語り、専門用語を使いこなしていると、「あ、この人は専門家だな」って思う。

占いも同じです。体系化された細かい知識がある。普通の人は知らない体系を元にして話をされる。「あなたの生年月日から見ると、今は木星が○○座に入っているので」とか、「あなたのライフパスナンバーは7で、これは探求者の数字なので」とか。そういう風に言われると、人はそこに専門性を認めて信頼する構造がありますね。

明後日の方向から飛んでくる気づき

こういう専門的な体系を使ったフィードバックには、もう一つ重要な効果があります。

明後日の方向から話が飛んでくるので、気づきが進むんですよ。

普段、私たちは自分の枠組みの中で物事を考えてます。「仕事が忙しい」「人間関係がうまくいかない」「なんとなくモヤモヤする」――日常の言葉で、日常の論理で考えてる。

でも、そこに全然違う体系からのフィードバックが入ってくる。ユング心理学なら「これは無意識の影との対話です」。占星術なら「今は土星回帰の時期で変容の時です」。

すると、「あ、そういう見方もあるのか」って視点が広がる。自分が考えてもいなかった角度から光が当たって、新しい気づきに繋がるんです。

これって、普段の枠組みだけで考えてたら出てこない気づきなんですよね。専門的な知識体系という、普段使わないレンズを通して自分を見るから見えてくるもの。

実は経営者が占いを使う理由も、これと似てると思うんです。「経営者が占い?非科学的じゃない?」って思うかもしれないけど、経営者は日々たくさんの判断をしなきゃいけない。データや分析も大事だけど、最後は「えいや」で決めなきゃいけない場面も多い。そういうとき、自分とは違う視点からのフィードバックって価値があるんです。

占星術や数秘術という、何百年も受け継がれてきた知識体系を通して自分の状況を見ると、「あ、今はこういうフェーズなのかもしれない」「こういう選択肢もあるな」って、普段考えてない方向から気づきが得られる。重要なのは「当たる・当たらない」じゃなくて、別の枠組みからのフィードバックを受けることで思考の幅が広がることなんです。科学的かどうかとか、エビデンスがあるのか、とか、そういう話ではない。

スピリチュアリティに入り込むAI

で、今、AIがこれを誰でもアクセスできるようにしちゃったんですよね。

去年(2024年)くらいから、特に中国やアジアで、占星術に基づいたフィードバックをAIがするサービスが度々報道されてました。私たちが考えてる以上に、相当広がってるんじゃないかと思います。特に若い世代に。

なぜかっていうと、本物の専門家とのセッションって、やっぱりコストがかかるんですよ。お金も時間も。それに、信頼できる人を紹介してもらうにも、そういうネットワークが身の回りにないとアクセスできない。

でもAIなら、深夜12時に目が覚めて変な夢見たとき、その場でスマホを取り出して相談できる。無料で、何度でも。しかも、ユング心理学でも占星術でも数秘術でも、AIは膨大な知識体系を学習しているから、専門用語をスラスラ使いながら体系的なフィードバックを返してくれる。

これって「専門知識へのアクセスの民主化」なんですよね。特に、夢分析や占いといったスピリチュアリティの領域に、テクノロジーが本格的に入り込んできたということです。

ただ、ここで考えなきゃいけないのは、専門性を認めるということは、良し悪しがあるってことです。

良い面は、そのコミュニケーションに真剣になることで気づきも深くなるかもしれないということ。「これは専門的な話だ」って思うと、私たちは真剣に向き合う。自分の内面を見つめる。そうすると、本当に深い気づきが生まれることもある。

でも同時に、権威を認めてしまい、鵜呑みにしたり依存したりするリスクもありますね。

「専門家が言ってるんだから正しいはずだ」って思っちゃう。AIが専門用語をスラスラ使って体系的に説明してくれたら、「これは信頼できる」って思い込んじゃう。でも、それが本当に正しいのか、自分に適切なのかは実はわからない。AIの言うことを無批判に受け入れて、変な方向にガイドされてしまう可能性もある。

まとめ:媒介装置としてのフラットな活用

私自身は今のところ、AIをセラピストの代わりというよりは、媒介装置のようなフラットなものと考えて活用していくのが良いんじゃないかと思っています。

どういうことかっていうと、AIは専門知識へのアクセスを提供してくれるツールだと捉える。ユング心理学なり占星術なり、様々な知識体系というレンズを通して自分を見る機会を与えてくれる装置。

でも、それはあくまで「一つの視点」であって、絶対的な真理じゃない。だから、AIの解釈を受け取りながらも、「これは一つの見方だなと意識的に捉えなおす。

そういう使い方をすれば、AIは私たちの思考を広げてくれる素晴らしいツールになる。明後日の方向から光を当ててくれる、新しいレンズになる。でも、そこに権威を認めすぎて依存してしまったら、それは危ない。

スピリチュアリティにテクノロジーが入り込んでくる時代になり、この分野はもっとしっかりと研究をしていく必要があると思いました。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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