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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.12.15
AIに「病院行った方がいい」と背中を押された話 – 歩きながら考える vol.188
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、AIが医療診断のゲートキーパーになり、かかりつけ医みたいな機能を果たすようになるのでは?という話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は、先週インフルエンザになった時の話をしようと思います。病院に行くか迷ってAIに相談したら「行った方がいい」と強く勧められて、素直に従ったら大正解だったんですよね。その体験から気づいたことを、歩きながら話してみます。
発熱外来に行くかどうか迷った夜
先週、インフルエンザになりました。4日ほど調子が悪かったんですけど、いつもより辛さは半分以下だったなと思います。その理由が、早めに治療薬を飲めたこと。
きっかけは、寒い格好で寝てしまったことでした。翌日から体調がおかしくなって、微熱が出てきたんです。37度3分くらい。微熱だから風邪かなと思っていたんですけど、今はインフルエンザやコロナも流行っているし、発熱外来に行った方がいいのかなと。でも、正直めんどくさいじゃないですか。予約して、移動して、待って、検査して。時間もコストもかかる。
で、その時に、一応AIに相談してみたんです。最近Geminiを使う頻度が上がってきたので、症状を伝えてみました。そしたら、「行った方がいいと思いますけど、37度3分くらいなら、もうしばらく様子見というのもあるかもしれませんね」みたいな感じで。そうだよね、と思って、その日は行かなかったんです。
ところが翌日、昼間に体温を測ったら38.6度になっていました。これはまずいかもと思って、もう一度Geminiに聞いてみたんですね。そしたら、前日とは全然違う反応が返ってきました。

Geminiが「強く勧めます」と言ってきた
「これは状況が変わっています。発熱外来に行った方がいいです」と、結構強めに言ってきたんですよね。理由も明確でした。「1度以上の熱の上昇は、体の中で免疫システムのギアチェンジが起こっているということ。ウイルスが増殖している可能性が高いので、強く勧めます」と。
正直びっくりしました。AIって、ヘルスケア系のアドバイスはあまりしなさそうじゃないですか。間違えたら大変だから、玉虫色の回答しかしないのかなと思っていたんです。でも、検査や受診に関しては、割と積極的に勧めてくるんですね。
で、なぜGeminiの勧めに従ったかというと、理屈が明確だったからです。Geminiの説明はこうでした。「インフルエンザのウイルスが増殖し始めて、その数が少ないうちに治療薬で抑えてしまうと、その後の治癒が非常に楽になる。でも、増殖が一定数いってしまうと、そこからの増殖を止めるのは薬では難しくなる。だから48時間以内の投薬が基本で、今ならまだ間に合う」と。
納得しました。これ、僕は全然知らなかったんですよね。最近どんな薬があるのかも知らなかった。調べてみると、抗インフルエンザ薬は発症から48時間以内に服用することで効果を発揮するとされていて、処方されたゾフルーザという薬は1回服用するだけで治療が完了する比較的新しいタイプの治療薬だそうです。
こういう医療の最新事情って、普通に生活しているとなかなかキャッチアップできないですよね。でも、AIは知っている。だから「48時間以内」という具体的な数字と一緒に、なぜ急ぐべきなのかを説明してくれた。それで納得して、すぐに発熱外来を予約しました。
結果、見事にインフルエンザA型。言われた通り薬を飲んだら、飲んだ直後から体が楽になってきました。翌日はまだ熱があったんですけど、明らかに辛さが違う。その翌々日にはほぼ完治。早めに飲めたから、症状が軽く済んだんだと思います。

専門家に求めているのは「お墨付き」かもしれない
この経験から思ったのは、人間って、どちらの行動が良いかは多分わかってるんですよね。発熱外来に行った方がいいんだろうな、とは思っていた。でも、もうひと押し欲しいっていうことって、結構あると思うんです。誰かにそっと背中を押してほしい。そういうきっかけがあれば動いたのに、なかったから動かなかった、みたいなこと。
しかも今回の場合、僕には「48時間以内に治療薬を飲まないと効果が薄れる」という知識がなかった。だから、自分だけで考えていたら、もう少し様子を見て、タイミングを逃していたかもしれない。AIに相談したことで、自分が知らなかった情報を得て、かつ背中を押してもらえた。
AIは、この「背中を押す」役割にぴったりだなと感じました。納得のいく説明をしてくるので、行動に移せる。しかも、自殺を勧めるとか非合法なことを後押しするとか、そういうことはしないようにできている。当たり前のことに関しては、常識的な流れを強化してくれる感じがします。
考えてみると、多くの人が専門家に求めているのも、こういう機能なんじゃないでしょうか。医者もそうだし、弁護士もそうだし、会計士もそう。何かを意思決定する時に、「こうした方がいいんだろうな」となんとなくわかってるんだけど、専門家の一押し、お墨付きが欲しい。その説明自体は、新しい情報のこともあるし、実はどこかで聞いたことがある話のこともある。でも、専門家から言ってもらうことで行動できて、いい結果につながる。
これまで、そういう「お墨付き」は高価なサービスでした。でも、AIがその役割を果たせるなら、より多くの人がより良いタイミングで意思決定できるようになるかもしれません。

AIが「かかりつけ医」になる日
医者って、自分の専門領域については語れるんですけど、専門外のことはあまり言わないことがありますよね。「お腹が痛いんです」と言っても、「そうですか、じゃあ検査してみないとね」くらいの話しかしてこない。それはそれで、誤診を避けるための慎重さなんだと思います。
でも、AIは驚くほど広い領域でパターン認識ができる。人間のお医者さんは、どんなにトレーニングを積んでいても自分の専門があって、それ以外の領域は事例を反復して見ているわけじゃないから、そこまでのパターン認識はできない。AIは、専門性の極めて先端的な判断はできないかもしれないけど、ほぼ全部の領域でかなり高度な一般的判断ができる。
そう考えると、専門医につなぐ前の「かかりつけ医」「ホームドクター」みたいな役割をAIが果たす未来はあるのかもしれないなと。病院に行った方がいいと思う患者は病院に紹介し、市販薬で十分そうなら薬局に渡す。そういう前捌きをAIがやる世界。
業界団体は反対しそうだなとは思います。でも、社会保険の改革を考えた時に、こういうAI活用って避けては通れないんじゃないかという気もしています。
というわけで、今日はインフルエンザの体験から、AIの意外な使い方について考えてみました。「病院に行くべきか迷った時にAIに相談する」というのは、明日から誰でも試せる方法だと思います。
この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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