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東アジア人の出世を阻む「竹の天井」アイキャッチ

ダイバーシティを生かす異文化に対応する

2020.10.11 NEW

東アジア人の出世を阻む「竹の天井」- 米企業で出世するのは「あの国」の人達

渡邉 寧 | 株式会社かえる 代表取締役

バンブーシーリング(竹の天井)とは何か?

性別や国籍等によって、会社の中で昇進に支障が出ることを「ガラスの天井がある」と言うことがあります。これに関連した話で、東アジア人がアメリカ企業の中で昇進しにくい現状があり、この現象は「竹の天井(バンブーシーリング)がある」と言われているのだそうです。

バンブーシーリング(Bamboo Ceiling)という言葉自体は、エグゼクティブコーチでありリーダーシップ開発アドバイザーのJane Hyunが”Breaking the Bamboo Ceiling: Career Strategies for Asians”という2009年の著書の中で使ったのが最初だそうです。(下記の動画の中で、本人がBamboo Ceilingについて少しだけ語っています 0:48~1:42のあたり)


(出所 How Asian Americans Break The Bamboo Ceiling|Forbes)

バンブーシーリングは東アジアの問題

私の周りでも、海外や外資系で働いた経験のある人は、なんとなくこの天井の存在に気づいているようですが、このバンブーシーリングの存在を実証研究で示した論文が今年(2020年)出たということを教えてもらいました。

これは、MIT Sloan School of ManagementのJackson G. Lu助教授らの研究で、下記でPDFをダウンロードして読むことができます。

東アジア人の出世を阻む「竹の天井」image003

(出所 Lu, J. G., Nisbett, R. E., & Morris, M. W. (2020)Why East Asians but not South Asians are underrepresented in leadership positions in the United States. PNAS March 3, 2020 117 (9) 4590-4600)

 

この研究では、7つの定量調査・実験を通じてバンブーシーリングの存在を実証しているのですが、非常に面白いのは、このバンブーシーリングは東アジア人(中国・韓国・日本)に対して存在するものであり、同じアジア人でも南アジア人(インド等)には存在しないということを示した点です。

もちろん、両地域には地域以外の要素、例えば言語の流暢さや教育、経済的環境などでも違いがあるわけですが、この調査・実験では、それらの他の要素を全て統制した上でも、バンブーシーリングは東アジア人には存在し、南アジア人には存在しないということが示されています。むしろ、南アジア人は白人よりもリーダーシップポジションに就いていることも示されています。

なぜ、バンブーシーリングが存在するのか、そのメカニズムについて、研究では①偏見②モチベーション③アサーティブネス、という3つの要素の影響を検証しています。その結果、②モチベーションに関しては東アジアも南アジアも違いは無く、①偏見に関しては南アジア人の方が東アジア人よりも強い偏見にさらされているにも関わらず、東アジア人の③アサーティブネスが有意に低いことが、リーダーシップポジションへの到達の低さを媒介していることが明らかになりました。

この結果は、海外実務をしていると非常に身に覚えのある日本人が多いのではないかと思います。個人的な経験でも、同じ等級のインド人とミーティングしたりグループワークをしたりすると、発言量が多く、発言スピードが速いインド人を前にして議論にカットイン出来なくなってしまった経験があります。もちろん、言語の問題もありますが、「あまり意味のない発言では?」と感じるようなことも含めて積極的に自己共有する姿勢の差を感じました。

 

東アジアよりも個人主義の傾向を持つインド

なぜ、南アジア人(インド人等)にはバンブーシーリングが無いのかという原因を、研究では「アサーティブネスの違い」、つまり自分の考えを伝える自己表現の程度の違いにあることを示しました。

ホフステードの6次元モデルでは、これは個人主義・集団主義(IDV)のスコアの差として見ることができます。

東アジア人の出世を阻む「竹の天井」image005

 

上の図は、IDVのスコアに関し、アメリカ、インド、日本、中国、韓国の5か国で比較したものです。100に近づくと個人主義、0に近づくと集団主義の文化になります。アメリカはIDV=91で非常に強い個人主義の文化であることを示しています。そして、他のアジア4か国の中ではインドが最も高いIDVスコアであることがわかります。

インドは国土が広大で、多様な民族・宗教が混ざりあっているので、地域によるバラつきは当然あるものと想定する必要があるでしょうが、インド文化としては個人主義と集団主義の中間に位置していることがわかります。

個人主義の文化では、一人一人の個人が「自分がどう考えているか」を明確に主張することが求められます。

アメリカは明確に個人主義の文化であるため、自己表現をはっきりと行うことが当たり前です。その為、自己表現をはっきりとしない人は信頼されにくい状況に陥る傾向があります。東アジアに比べ、インドはIDVの観点においてアメリカにより近いので、アサーティブネスの違いからバンブーシーリングが東アジア独自の問題となることは理解できます。

 

パフォーマンスの出し方は文化によって異なる

個人主義文化の背景を持たない東アジア人が、相対的にアサーティブネスが低くなり、その為アメリカ企業の中でリーダーシップポジションの観点で評価されない(=バンブーシーリングに当たる)というのはわかるのですが、では、東アジア人はアサーティブネスではない代わりに、一体どのように仕事を進めているのでしょうか?

実は、私は仮説として、東アジア人はアサーティブネスが低いわけではないと思っています。もうちょっと正確に言うと、東アジア人は短期的にはアサーティブではないことが多いが、長期的には十分にアサーティブになるのではないかと思うのです。

下記の図は、先ほどの個人主義・集団主義(IDV)のスコアに、短期・長期志向(LTO)を合わせてプロットしたものです。

東アジア人の出世を阻む「竹の天井」image007

この5か国に関しては、IDVとLTOは逆相関していることがわかります。つまり、東アジアは、アメリカやインドに比べて長期志向の文化だということです。

この2つの軸に関して、東アジア人が会社に入った後、部署を変わった後、どのような行動を典型的に取るかを考えてみましょう。

日本も東アジアなのでわかりやすいと思いますが、新しい集団に入ったら「様子を見る」人が多いのではないでしょうか?集団には暗黙のルールが沢山あることを骨身に染みて知っているため、「出る杭は打たれる」ことを避け、「郷に入っては郷に従う」アプローチを取るのだろうと思います。

そして、その集団の暗黙のルールがわかってくると、個人は集団の一員として認められます。ここまで長期の時間がかかります。しかし、そうなってくる頃には、アサーティブな態度を取ることは十分にあり得ます。むしろ「腹を割って話せているのか?」ということが集団の関心になることは多く、裏表なく意見をぶつけ合っても信頼できる関係性を作ることが組織の目的になったりします。

つまり、東アジア人は長期的な集団関係の中では、十分にアサーティブになるのではないかと思うのです。

こうなってくると、個人主義的なアサーティブネスよりも、むしろ集団主義的なアサーティブネスさの方が強いのではないかとすら感じます。なぜなら、その際の個人の意見は個人の利害を超えた集団の利害に基づくものだからです。

我々は、個人主義の集団が、あまりにもバラバラな個人の利害に基づき動くので空中分解する危険性を持っていることも知っています。アメリカのような、短期志向の個人主義の文化が良いのか、東アジアのような、長期志向の集団主義の文化が良いのか、組織づくりという観点からは簡単な答えは出ません。

 

個人としての適応戦略

バンブーシーリングに関するこの研究は、個人のキャリア作りの観点で見た場合と、集団の組織づくりの観点で見た場合とで、異なる示唆が出てくるので面白いと思います。

個人のキャリア、特に東アジア人のアメリカ的な文化背景を持つ組織内でのキャリア作りという観点で見れば、自己表現を変えたほうが良さそうだということになるでしょう。短期志向で個人主義の文化では、キャリアは短距離走の積み重ね。毎日、100m走を全力疾走しているようなものでしょう。朝起きたら今日のレースがあり、明日は別のレースがある。目の前のレースで勝たなければ、次第にレースへの出場機会は減っていきます。

文化は無意識のレベルで個人の行動に影響をもたらすため、東アジア人は意識しないと、長期志向で集団主義的な価値観に基づいた行動に引っ張られます。結果として、バンブーシーリングにぶち当たる。

以前、ヤフーが「爆速」をキーワードとした行動変革を行ったことが話題になりました。これは、短期志向×個人主義の価値観を常に意識化するアンカー(錨)のようなものに見えます。NLP(神経言語プログラミング)では特定の感情や反応を引き出すために、アンカリングという手法を使うことがあります。ヤフーの試みは、「爆速」という聴覚情報を聞くと、特定の行動規範と心の態度が思い出されるようにしておくことで、無意識的な文化の影響を調整しようとする試みなのかもしれません。

前述したように、短期志向×個人主義が良いのか、長期志向×集団主義が良いのか、はたまたそれ以外の組み合わせが良いのか、そこには一定の解はありません。しかし、大事なことは、そこにある価値観がどのようなものであるのかを意識化した上で、それに適切に対応していくことだと感じます。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役

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