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文化の観点で小説を読んでみる
小説の楽しみ方は人それぞれですが、一つの小説の楽しみ方として、「文化の観点から小説を読み解く」というものがあります。小説のストーリーや、登場人物のちょっと行動や心の声の中に「あれ、これって国レベルの文化の影響?」と思うことがあります。それに気づくようになることは一つの小説の楽しみ方だと思います。
もちろんそれは個人的な解釈でしかないわけですが、こういう小説の読み方も楽しいものです。
このシリーズでは、最近読んだ小説について、「あれ、これって文化の影響?」と感じたことをまとめていきます。FaceBookのHofstede Insights Japanのページでは、ブログでは紹介しないお勧め本についてもつぶやいていますので、是非FaceBookページもフォローしてください。(下記アイコンがFacebookページにリンクされています)
「下流の宴」(林真理子)
最初の1冊はこちら。
作者の術中にまんまとハマった気がしますが、面白い小説でした。
上流・下流という概念は、ホフステードの次元で言えば、権力格差と女性性・男性性の次元に関係するように思います。
日本に住んでいると、「下流になる」とか「負け組になる」というのは強い不安を感じさせることかもしれません。男性性が高く、権力格差も若干高い方向の文化であるため、成功した人/上流の人には世の中の注目が集まりますが、失敗した人/下流の人には世の中の注目が集まらないからです。
「下流になるのは自己責任で、そうなったら誰も助けてくれないのではないか?」という漠然とした不安が常に付きまとうのは、日本文化の生きにくい部分なのではないかと思います。
小説の中で東京の福原家の由美子・可奈が見せる学歴至上主義。これは極端な男性性×高権力格差の価値観に見えます。
この価値観のもと、福原由美子は息子の翔の恋人である沖縄の宮城珠緒を全否定します。理由は「まともな家の出」ではなく、「まともな職業についていない」から。この場合、「まともな家」というのは、両親が大学を出ていてしっかりとした仕事をしていることで、その頂点は「医者の家」です。
個人的には、福原由美子のこの価値観へ強烈な違和感を感じるのですが、男性性が高く権力格差が高い価値観では、この手の価値観は普遍的になるのかもしれません。
そして、この小説が面白いのは、この価値観自体をひっくり返すのではなく、最終的に、宮城珠緒は福原由美子的価値観における成功者になるところ。
由美子は、自分の信じる価値観によってしっぺ返しを受けるので、ある意味、日本的ルサンチマンの物語ということなのかもしれません。
この辺りの林真理子さんのエンタメ性の作り方は上手いと感じました。
「こうふく あかの」/「こうふく みどりの」(西加奈子)
2・3冊目は、最近ハマっている西加奈子さんのシリーズ。
この本は「こうふく あかの」と2冊シリーズ。ストーリー自体は「みどりの」と「あかの」は関係が無いのだけれど、「繋がっている」という主題が2冊に共通していて、そこに文化的な価値観を感じます。
親子であったり、家族であったり、見ず知らずの他者であったり、世の中には色々な関係性の他者が居るわけだけれど、色々な形の「繋がり」が形成され、そこに感情のエネルギーが発生し、彩りのある人生が形成されていくというストーリーに読めます。
「みどりの」は一四歳の少女みどりの目から見た様々な人間模様を描いたもの。個別に進んでいた物語が最後に集約されていく様が見事で、西加奈子さんの伏線の張り方がうまいなーと思いました。
ただ、個人的により楽しんだのは「あかの」の方。
「あかの」は「俺イケてる」系の自意識過剰サラリーマン課長が、身を崩していくストーリーを中心に展開されます。
文化的な観点から読み解くと、自意識過剰な未熟な自我は、集団主義の中では上手く機能しないという話にも見えました。
最終的に、主人公は取り繕うのが難しいグチャグチャな状況に巻き込まれていくのですが、最後の最後で、主人公は未熟な自我の束縛を克服し、他者との繋がりを取り戻したように読めます。そのきっかけになったのが、自分の子供では無い赤子を身ごもった妻の出産への立ち会いというのがとても示唆的。
相互協調的な世界観における、ある意味一つの自然な人の姿を取り戻したということなのかなと思いました。
ストーリーの中心が「プロレス」というのも、自分の世代的には面白い。
「終わった人」(内館牧子)
最後は中館牧子さんの「終わった人」。
東大法学部→大手銀行とエリートキャリアを歩んだ主人公の田代壮介が、役員になる一歩手前でキャリア的挫折を味わい、その「成仏しなかった」会社員としての想いのため、定年でソフトランディング出来ず・・・というストーリー。
あまりにも痛い話で、正直読みながら胃のムカつきが抑えられませんでした。
文化的観点でストーリーを読み解くと、高い男性性の価値観の転換というのは非常に難しいという話に映るわけですが、最終的にそれが救われるのが故郷の内集団によってという辺りが面白いと思いました。
日本の小説はこのパターン多いのかもしれません。
昭和の大企業の「社縁」は、現役の時は強い内集団を形成するけれど、退職した途端にその絆が消滅するというのは、ホラーストーリーでしかないですね。それって内集団と呼べるのか?と思います、ほんと。
小説を文化的観点で読むのは面白い
今月読んだ小説だと、林真理子さんの「下流の宴」が、複数の次元の組み合わせが読み取れるものだったように思います。エンターテイメントとしてそもそも面白い作品だと思いますが、文化観点からの解釈でも面白い小説だと感じました。
気になったらぜひ手にとって読んでみてください。
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著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役。
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