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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2026.1.22
エレベーターピッチができれば、飲み屋でも面白く話せるか? – 歩きながら考える vol.213
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、コミュニケーションのフォーマットを場面に応じて切り替えることについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は夜の散歩をしながら、最近あった出来事について話してみようと思います。近所の飲み屋で店主にダメ出しされたんですけど、そこから「短く話す」ってどういうことなのか、ちょっと考えが深まったので、歩きながら整理してみますね。
飲み屋で「話が長い、おもろない」と言われた話
最近、近所の立ち飲み屋に行ってですね、そこの店主と話をしてたんですよ。この店主がなかなか口が悪くて、僕が何か話をすると「渡辺さんは話がややこしい」「話が長い」「おもろない」とか、まあまあひどいフィードバックをしてくるわけです。別に仲が悪いわけじゃないんですけど、率直というか、遠慮がないというか。
で、僕も「いやいや、研究の話とかってそんなに面白くしようがないでしょ」とか「3分ぐらいないと論文の内容は話せませんよ」とか言い返したんですけど、そしたら店主が一言、「飲み屋はね、20秒なのよ」と。
要するに、立ち飲み屋では20秒のパッケージで面白い話をするのが原則で、そこに収まらない話は聞いてもらえない、と。これがなかなか鋭い指摘だなと思ったんですよね。
確かに、立ち飲み屋って関係流動性が高い環境じゃないですか。隣の人と話をするけど、ずっと話し続けるわけでもない。京都みたいなちっちゃい町だと、立ち飲み屋をはしごして、1杯飲んで、話が合わなければ別の店に移動して、また戻ってきたら人が入れ替わってる、みたいなことがあるわけです。
だから、20秒ぐらい話をして、「この人と話したいかどうか」をお互いに判断する。面白ければもうちょっと話せばいいし、そうじゃなければ場所を変えればいい。そういう環境では、自分の話を20秒ぐらいのパッケージにしておくっていうのは、確かに大事なスキルなんだなと思いました。

エレベーターピッチと飲み屋トーク、何が違う?
で、ここで思い出したのが、エレベーターピッチです。ビジネスの世界でよく言われますよね。エレベーターで偉い人と一緒になった30秒ぐらいの間にプレゼンして、提案を通してもらうとか、予算をつけてもらうとか。
飲み屋の20秒パッケージとエレベーターピッチ、時間的にはほぼ同じです。だったら、エレベーターピッチができれば、飲み屋でも面白く話せるんじゃないか?って思いません?
僕も最初はそう思ったんですけど、よく考えるとこれ、中身のフォーマットが全然違うんですよね。
エレベーターピッチの目的は説得です。相手に意思決定をしてもらうために、結論を最初に言って、理由を3つぐらい出して、「だからこのサービスを買ってください」「この予算をつけてください」と持っていく。いわゆるアメリカ的なコミュニケーションパターンで、効率性と目的達成を重視するスタイルです。
一方、飲み屋の20秒パッケージの目的は共感です。相手を説得したいわけじゃない。「この人と話したいな」「面白いな」と思ってもらうことが目的で、そのためには結論ファーストで理由を並べても、たぶん面白くならない。
名古屋大学の渡邉雅子先生の研究によると、アメリカのコミュニケーションスタイルは「経済の論理」(効率性・目的達成)に基づいていて、日本のスタイルは「社会の論理」(共感)に基づいているそうです。同じ「短く話す」でも、背後にある価値観が違うから、フォーマットも変わってくる。
「短く話す」の中身は一つじゃない
ビジネス書やセミナーでは「結論ファースト」みたいなことがよく言われますよね。短く、明確に、要点を絞って話しましょう、と。これはこれで大事なスキルなんですけど、問題は、それがあらゆる場面で通用するわけではないということなんです。
飲み屋で「結論から言うと、今日こういうことがありまして、理由は3つあって…」とか話したら、たぶん「なんやこいつ」ってなりますよね。飲み屋では、「いや〜今日ですね、朝起きたら天気が悪くて寒かったんですよ」「そうですよね、寒かったですよね」みたいに、起承転結で共感を得ながら話を展開していく方が自然です。
さらに言えば、フランス的なスタイルもあります。渡邉先生の枠組みでは「政治の論理」と呼ばれていて、社会をより良くするために対話する、というスタイル。最初に問いがあって、それに対して「こういう見方もある」「でも逆の見方もある」と吟味して、統合していく。弁証法的な対話ですね。
僕は本質的には、飲み屋でも政治の話がしたいなと思うんですけど、これはTPOをわきまえる必要がある。政治的な話を歓迎してくれる店とそうでない店があるので。
要するに、「短く話す」の中身は一つじゃない。目的によって最適なフォーマットが違うんです。
- 説得が目的なら、結論ファーストで理由を明確に(エレベーターピッチ)
- 共感が目的なら、起承転結で物語的に(飲み屋の20秒パッケージ)
- 探究が目的なら、問いを立てて多角的に吟味する(弁証法的対話)
これを無意識にやっている人もいると思いますが、多くの人は一つのパターンしか持っていなくて、それをあらゆる場面で使おうとして、うまくいかないことがあるんじゃないかと思います。

まとめ:フォーマットの切り替えは意識的にトレーニングする
というわけで、今日は飲み屋でのダメ出しから始まって、「エレベーターピッチができれば飲み屋でも話せるか?」という問いについて歩きながら考えてみました。答えは「目的が違うからフォーマットを変えないといけない」ということですね。
そして、このフォーマットの切り替えは、意識的にトレーニングしないと身につかないんじゃないかと思います。座学で「こういうフォーマットがある」と知るだけでは不十分で、実際にやってみて、フィードバックをもらって、修正する繰り返しが必要。その意味で、立ち飲み屋は「共感型」のコミュニケーションを鍛えるジムとして、結構いい場所なのかもしれません。店主に「話が長い、おもろない」と言われたのは、ある意味ありがたいフィードバックだったのかも。
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最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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