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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ個人主義(IDV)歩きながら考える
2025.8.6
AIが経営会議に入ったら、日本の会社はどう変わるか – 歩きながら考える vol.100
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今回は、キリンの経営会議にAI役員が参加するようになった話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日も移動時間を使って、ちょっと考えごとをシェアしようと思います。
で、今日話したいなと思ったのは、8月4日の日経新聞の朝刊に載ってた記事なんですけど、キリンホールディングスが経営会議にAIで生成した仮想役員を導入したって話ですね。
これ、読んだ瞬間に「だいぶ早いな」と思ったんですよ。で、歩きながら考えてたら、これってもしかして日本の会社の構造を根本から変える可能性があるんじゃないかって。今日はその話をゆるく考えてみようと思います。
経営会議のAIが組織全体を激変させる理由
キリンホールディングスの事例、将来はこういう方向に動くと思ってたんですけど、もうちょっと時間かかると思ってたんですよね。数年後位の話しだと思ってました。
記事によると、過去10年分の取締役会や経営戦略会議の議事録を取り込んで、マーケティングや生産、財務、法務などに精通する12の「人格」を持つAI役員「CoreMate(コアメイト)」を作ったそうです。
で、想像するに、このAI役員って経営企画室の役割を代替するんじゃないかと思うんですよね。
だって、考えてみてください。経営企画部がやってきた仕事の一つとして、各部門からデータを集めて、分析して、レポートにまとめて、役員会に上げるっていう仕事があるじゃないですか。今まで超人的に頭のいい経営企画スタッフが役員の質問に答えていたのが、AI役員がいるとより正確で細かい情報まで回答できる可能性があるんじゃないかと思うんです。
そうすると、経営企画部の仕事のうち、役員向け報告であるとか社内向け報告のような情報の取りまとめと報告の仕事は相当減るのではないかと思います。

ブルシットジョブがついに消える日
日本の組織では、官僚主義を使う中で、仕事のための仕事みたいなのが生み出されているところがありました。特に計画とか報告関連の業務ではブルシットジョブ化してしまっているものが多かったというのが現実だと思います。でも、これらの仕事はAIが入ってくると相当スリム化されると思いますね。
で、本社の経営企画部とかって、相当に頭のいい人が集められたりすることはありますが、その人たちの知的リソースが報告と調整で浪費されているケースが多々あると思っていました。その人たちのリソースが、本来、より活用できるような創造的な仕事や変革にダイレクトにつながるようなより現場に近いところで発揮されるのではないかと思います。
正社員を守るために生まれた歪んだ構造
で、ここでちょっと話が変わりますが、実は日本の企業ってブルシットジョブを減らしたくないというインセンティブがあったのではないかと思っています。それはなぜかというと、雇用慣行で人を切りにくいという話があるからです。
日本の会社って、正社員の解雇がすごく難しいじゃないですか。転籍をさせたり、役職定年にしたり、色々と手はあるにしても整理解雇の4要件とかあって、基本的に正社員は守られてる。でも、景気は変動するし、事業の繁忙期もあるから、人員を調整する必要がある。そうすると、どうするか。
結果として、正社員の雇用を維持しながら、必要な労働力を確保するために、非正規雇用を「調整弁」として使うことになったのだと思います。
例えば現場のエッセンシャルワークみたいなところをフレキシブルな非正規雇用で補うことで、本質的には景気が変動すれば現場仕事もデスクワークも両方調整が必要なはずなのに、ブルシットジョブが沢山あって、正社員はそれをやらなければならないから雇用は守られ、非正規雇用の社員が調整の対象となる。
ブルシットジョブがあった方が、正社員の雇用が守られる、というようなことになっていたとすると、それを改革しようというインセンティブが出にくくなります。

AIがもたらす労働市場の「正常化」への期待
でも、ここで面白いのが、今回キリンで役員会議からAIが導入されるということは、トップダウンで組織の下までAIが活用されるという可能性があるということだと思います。そうなってくると本質的にブルシットジョブが削減される方向に進むかもしれません。
ジョブがなくなり、目に見えて人員の最適さ、位置を考えるような状況になるんじゃないか。AIによってデスクワーク部分が大幅にスリム化されるのであれば、現場仕事を非正規ではなく正規で雇う余力というのが生まれるのではないかと思います。
つまり、今まで非正規であったり外国人であったり、非常に賃金が抑えられたワーカーを企業は使ってたけど、正社員できちんとした給料をもらってるメンバーで企業体を構成していくっていう、本来あるべきだった形にもしかしたら流れていくのではないかと想像します。
まとめ
というわけで、今日は経営会議のAI導入から始まって、日本の労働市場の構造的な問題まで考えてみました。AIによって、必要な仕事の数自体は減ると思うのですが、少なくともそれが正規・非正規という問題を解決するきっかけになるのではないかと期待しています。
キリンホールディングスの例がどうなるかちょっとわかんないですけども、引き続き注目してみたいなという風に思いました。
もしこの記事を読んで「うちの会社もそうだな」とか「こんな可能性があるんじゃない?」って思った方がいたら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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