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ブログ歩きながら考える

2025.12.3

AI時代に求められる「問う力」 – 歩きながら考える vol.180

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIが検索を仕切る時代に人間に求められる「検索の仕方=問う力」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日も移動時間を使って、考えていることを話してみようと思います。前回は「AI時代に価値を持つのは一次情報」という話をしました。今回はその続きで、「問い」の役割がどう変わるかについて考えてみたいと思います。

AIがいきなり答えを出してくる時代

前回も書きましたが、最近、検索しなくなりましたよね。

何か知りたいことがあるとき、以前はキーワード検索して、複数の記事を読んで、自分でまとめる、というプロセスを踏んでいました。でも今は、AIに質問を聞くといきなり答えが返ってくる。AIが情報を集めてまとめるプロセスを肩代わりしてくれるわけです。

さらに将来は、AIが自律的に情報をクロールして、常に世界を理解している状態になっていくんじゃないかと思います。人間が問いを投げる前から、AIはすでに世界中のニュースや論文を読み込んで、自分なりの理解を更新し続けている。24時間働き続ける調査員を雇っているようなものですね。

もちろん、AIが出してくる答えには、今はまだ嘘が混じっていることもそれなりの確率であります。でも、正確性はどんどん高まっていくでしょう。便利な時代になっていくと思います。

で、こういうAI時代を前提としたときに、特に価値を持つ「問い」は何なのか。僕はそれが「アングルの問い」なんじゃないかと思っていて、今日はその話をしてみます。

いろんな問いがあるけれど

問いにはいろんな種類がありますよね。

「○○ってなに?」という定義を求める問い。「○○と××を比較して」という比較の問い。「どうすればいい?」という行動を求める問い。こういった問いは、AI時代になっても人間は問い続けるでしょうし、AIは答えてくれる。正確性も高まっていくから、ますます便利になる。

でも、AI時代に特に価値を持つ問いは何かと考えると、僕は「アングルの問い」だと思うんです。

アングルの問いとは「○○を××という観点から見るとどう見える?」という問い。特定の視点を指定して、その角度から世界を切り取ってもらう。これがAI時代に本質的な意味を持つんじゃないかと。

アングルを指定するとはどういうことか

ちょっと具体的に考えてみましょう。

今、日中関係がいろいろともめていますよね。これについてAIに聞くとき、単に「日中関係について教えて」と聞くのと、アングルを指定して聞くのでは、返ってくる答えがまったく違ってきます。

たとえば「歴史的な流れという観点から見ると、日中関係はどう見えるか?」と聞く。これは「歴史」というアングルを固定しているわけです。そうすると、たぶん1972年の田中角栄首相による日中共同声明の話が出てきて、国交正常化からの50年の流れが説明されて、その文脈で今の状況が位置づけられる、みたいな答えが返ってくるかもしれない。

でも、それは一つのアングルでしかないんですよね。

「中国共産党内の権力闘争という観点から見ると、今の日中関係はどう見えるか?」と聞けば、習近平政権の国内政治事情と対日強硬姿勢の関係、みたいな話が出てくるかもしれない。「トランプ政権の東アジア政策という観点から見ると?」と聞けば、米中対立の構図の中での日本の立ち位置、みたいな話になるかもしれない。

同じ日中関係に関するファクトを見ていても、どのアングルで切り取るかによって、見えてくる景色がまったく違う。AIはそれぞれのアングルに応じた解釈を出してくれるわけです。

これが「アングルを指定する」ということです。

無限であるがゆえに提示できない

ここで一つ、面白い逆説があるんですよね。

実は、こういうアングルの問いも、本質的にはAIは自分で生成できるんです。「日中関係について、考えられうるアングルを列挙して」と頼めば、歴史的観点、経済的観点、安全保障の観点、国内政治の観点、文化交流の観点……と、いくらでも出してくれる。

でも、無限であるがゆえに提示できないんです。

「こういう見方もできます、ああいう見方もできます、他にも無数の見方があります」と言われても、僕らは困ってしまう。僕らが一度に理解できるのは「ある一つの見方」なんですよね。

「この角度で世界を切り取りたい」と指定すること。これは人間がやる必要がある。AIは無限のアングルを生成できるけど、「この見方で見たい」という欲望を持つのは人間だからです。

人間の役割は「この見方で見たい」と指定すること

だから、AIとの付き合い方はこうなるんじゃないかと思います。

人間が「この見方で世界を切り取りたい」と指定する。AIはその見方で切り取った世界を提示する。同時に「その対極の見方ではこう見えますよ」とも教えてくれる。人間は、AIを使って自分の偏りを補正し、バランスの取れた世界の見方を担保する。

これは「AIに思考を委ねる」のではなく、「AIを使って自分の思考を鍛える」という姿勢ですね。

動画の時代も変わる

こう考えると、今のYouTubeにみられるような動画の世界も変わってくるのではないかと思うわけです。前回の記事で、動画全盛の時代も変わるかもしれない、と書きました。今回の「アングル」の話とつなげて、もう少し考えてみます。

近い将来、ほぼ人間と見分けがつかないようなYouTuberをAIが自動生成できるようになると思います。顔も声も自然で、人間が作ったのかAIが作ったのか見分けがつかない動画が大量に出てくる。

今のYouTubeは、個人が「自分のアングル」で世界を切り取って語る場所ですよね。ある人の視点、ある人の解釈、ある人のキャラクターで情報が届けられる。でもAIが同じことを無限にできるようになると、この構図が変わってくる。

もちろん、「この人のアングルで聞きたい」という固有のニーズは残ると思います。好きなYouTuberがいて、その人の視点で世界を見たい、という欲求はなくならない。

でも、「誰でもいいから○○について解説してほしい」というニーズは、AIが視聴者ごとに最適化した動画を生成するようになるかもしれない。あなた向けにカスタマイズされた、あなたが一番理解しやすい形式の、あなたの関心に合わせた解説動画がAIによって生成される。そうなると、今のような「個人が動画を量産して、アルゴリズムがおすすめを選ぶ」という構図は根本から変わっていく。

人間が作った動画と、AIが生成した動画が混ざった状態で、人が受動的に情報を観るためのリストはなくならないでしょう。一方で、ある動画を観ていて、何か思うことがあったり、関心を掻き立てられるようなコンテンツがあったら、AIはその場できわめてリアリティが高く、観ていてわかりやすく面白い動画をリアルタイムで生成してくれるようにもなるでしょう。

結局ここでも、人間に残るのは「どのアングルで見たいか」を指定することなるんだろうと思います。

まとめ

というわけで、今日は「AI時代に問いの役割はどう変わるか」について考えてみました。

AI時代になっても、人間はいろんな問いを問い続けるし、AIは答えてくれる。どんどん便利になっていく。でも、その中で特に価値を持つのは「アングルの問い」なんじゃないか。「この観点から見るとどう見える?」という視点を指定する問い。

AIは無限のアングルを生成できるけど、無限であるがゆえに提示できない。「この見方で見たい」と思うこと。それがAI時代に人間に残る役割なのかもしれません。

前回の「一次情報が価値を持つ」という話と合わせると、AI時代の情報発信者に求められるのは、①自分だけが持っている一次情報を出すこと、そして②「この見方で世界を見てみないか」というアングルを提示すること。この二つになるんじゃないかな、と思っています。

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最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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