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ブログ歩きながら考える

2025.11.26

AIとクリエイティブの進化:就活生が避ける仕事の未来を考える – 歩きながら考える vol.175

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、就活生がクリエイティブ系の仕事を敬遠し始めているという件について思うこと。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は病院から家に向かって歩いているところなんですが、11月22日の日経新聞で読んだ記事がちょっと気になって、その話をしたいと思います。

就活生の約4割が、AIに奪われない職を求めて志望を変更しているという話なんです。その中には、マーケティングやキャッチコピー作成といったクリエイティブ職も敬遠され始めているそうで。確かに、AIが一瞬で大量の「いい感じの」キャッチコピーを出してくるんだから、人間が太刀打ちできないように見えますよね。

医者や弁護士、コンサルタントといった専門職も同じです。膨大な情報を処理して意思決定につながる示唆を出すことにかけては、もう人間の脳の限界を超えちゃってる。だから仕事を選ぶにあたって、そこを気をつけるっていうのは当然必要なことなんだと思います。

でも、ちょっと待ってください。もしAIが本当にこれらの仕事を代替してしまったら、そもそも「クリエイティブの進化」って止まっちゃうんじゃないか。今日はその話を、最新のAI研究も交えながら考えてみたいと思います。

クリエイティブは「異様なもの」から生まれる

過去を振り返ってみると、消費者の心に響くようなメッセージって、時代とともに少しずつ変わってきてますよね。

最初は「ちょっとぎょっとするような異様なもの」だったかもしれない。でも、一部の人には共感されて、それが少しずつ醸成されていって、分厚くなったところで大きな潮流になる。そういうプロセスで、クリエイティブは進化してきたんじゃないかと思うんです。

ここで重要なのは、マジョリティの反応とマイノリティの反応は、情報としての質が違うということ。大多数の人が「いいね」と思うものと、一部の人だけが「これだ!」と感じるものは、別の種類の価値を持っている。で、後者が新しいトレンドの種になることが多いんですよね。

で、今のAIはどうなのか。AIは参照するデータによって出力が変わるし、誰の反応を参照して学習の方向付けをするのか、というアルゴリズム的な問題があるわけです。現在のAIは、基本的に「確率的に最もありそうな答え」を出す傾向がある。これがクリエイティブの進化にとっては決定的にまずいのではないかと思うわけです。

実は、この問題は最先端のAI研究でも指摘されています。オックスフォード大学の研究チームがNatureに発表した論文によると、AIが生成したデータでAIを学習させ続けると「モデルの崩壊(Model Collapse)」という現象が起きるそうです。

これ、何が起きるかっていうと、データ分布の末端、つまりレアなケースや変なアイデアが切り捨てられて、出力がどんどん均質化していくんです。中世の建築についてのテキストを入力したら、9世代目にはジャックウサギのリストという無関係な出力になってしまったという実験結果になったとのこと。

これって、まさにクリエイティブの「突然変異」が失われていく過程なんじゃないでしょうか。

「バラツキ」を持つAIの社会

じゃあ、どうすればいいのか。

AIに突然変異的にアイデアを発散させるプロセスを入れる必要があるんじゃないか、と考えるわけです。で、このアイデア、実はすでに研究されているんですよね。

「Novelty Search(新奇性探索)」という考え方があって、これはゴールへの近さではなく「今までとどれだけ違うか(新奇性)」を報酬として与えるアルゴリズムです。野心的な目的関数って、実は行き止まりの局所最適解に導く傾向がある。だから、むしろ新しさを追求することで、思いがけない発見につながるっていう考え方ですね。

さらに面白いのが、「進化的モデルマージ」という手法です。これは、異なる特徴を持つ複数のAIモデルを「親」として、遺伝的アルゴリズムを用いて何世代も掛け合わせる。で、突然変異を起こさせながら、予期せぬ能力を持つ「子」モデルを生成するというものなんです。元Googleの研究者たちが東京で設立したSakana AIというスタートアップが開発したこの技術は、まさにAIに「突然変異」を組み込む試みと言えます。

こうしたアプローチによって、少しずつ異なるモデルが大量に作られるようになる。そうすると、こんなことができるんじゃないでしょうか。それらのモデルを大量に作って「社会」にして、その中で起こることを観察する。そして、ユニークかつ見込みがありそうなアイデアを抽出すればいい、と。

実際、スタンフォード大学とGoogleの研究チームがまさにこういう実験をしています。The Simsのような仮想の村に、ChatGPTで動く25人のAIエージェントを住まわせたんです。彼らは互いに噂話をしたり、パーティーを企画したり、一部の人だけで盛り上がったりといった「社会的な創発」を見せました。

将来的には、仮想社会にAIエージェントを数万体位放って、そこで自然発生的にバズったキャッチコピーを採用する、なんてプロセスもあり得るかもしれません。

こういうことを自動で行うのであれば、確かにクリエイティブは人間が関わる要素は少なくなるのかもしれない。AIだけで回る世界が実現するように見えます。

でも、私はこう思うんです。結局、それらは新しいものを作り出すための「場」なんじゃないかと。

もし異質なものの相互作用の中から新しいものが生まれるのだとすれば、私たち生身の人間は、もともとすこしずつ違うという異質性を持っているわけじゃないですか。それぞれが違う経験をして、違う感性を持って、違う価値観で生きている。

だったら、その生身の体をAIエージェントの場の中に投下したらいいんじゃないか

つまり、少しずつ違うAIエージェントたちが作る「社会」の中に、私たち人間も参加するんです。人間の「変な感性」や「ちょっと異様なアイデア」が、AIエージェントたちの出力と混ざり合って、化学反応を起こす。そういう過程を経た方が真に新しいクリエイティブになるんじゃないでしょうか。

だから、自信を持ってクリエイティブ業界へ

そう考えると、就活生がクリエイティブ職を避けるのは、ちょっともったいない気がするんです。

確かに短期的には、AIが「平均的に良いもの」を大量に作り出すことで、仕事の一部は効率化されるでしょう。でも長期的に見れば、クリエイティブの本質である「新しさ」や「変なもの」を生み出す力は、むしろ人間とAIの組み合わせによって強化される可能性がある。

バラツキを持ったAI×もともとバラツキを持つ私たち人間という組み合わせ。これが、これからのクリエイティブの世界を作っていくんだと、私は思います。

AIがクリエイティブを奪うのではなくて、多様なAIと多様な人間が共存する中で、新しい形のクリエイティブが生まれてくる。人間のクリエイターの役割は、AIにとっての「人間らしい変なデータ」を供給することかもしれないし、あるいは多様なAIたちが作る社会の中に飛び込んで、異質な存在として化学反応を起こすことかもしれない。

だから、クリエイティブ業界を目指している就活生の皆さん、自信を持って進んでください。AIは敵じゃなくて、新しい可能性を開く道具になるはずです。大事なのは、あなたの「変なアイデア」や「ちょっと異様な感性」を大切にすること。それが、AI時代のクリエイティブを支える土台になると、私は信じています。

この記事を読んで、少しでも「面白いな」「考えさせられるな」と思ってくださったら、ぜひSNSでシェアしたり、コメントで意見を聞かせてください。皆さんの反応が、私の次の「歩きながら考える」のヒントになります。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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