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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.12.2
最近、検索しなくなった——AI時代に何を発信すべきか – 歩きながら考える vol.179
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、AIが検索を仕切る時代にどのような情報発信を心掛けるべきかということについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、最近考えていることを話してみようと思います。テーマは「AIが検索を仕切る時代に、どんな情報が価値を持つのか」について。まだ答えが出ているわけじゃないんですが、歩きながらゆるく考えてみます。
最近、検索しなくなった
みなさん、最近「検索」してますか?
僕はほんとに、何か調べたいことがあるとき、Google検索を開く頻度がめちゃくちゃ減ったんですよね。代わりに何をしているかというと、AIに聞いている。僕はGeminiかClaudeを使いますが、ChatGPTやPerplexityを使う人も多いんじゃないでしょうか。「これってどういう意味?」とか「最近の動向を教えて」とか、そういう問いをAIに投げると、AIが世界中の情報を検索して、要点をまとめて答えてくれる。しかも「ここから参照しました」ってリンクまで付けてくれるから、ハルシネーション(AIの嘘)じゃないかどうかも確認できる。
これ、僕だけじゃないと思うんですよね。
ちなみに、僕は論文を書くんですけど、論文を書くときも同じようなことが起きていて。以前はまずGoogle Scholarで検索して、キーワードを変えながら関連論文を探して、という作業が最初のステップでした。でも最近は、AIに「この分野の最近の研究成果と代表的な研究者を教えて」などと聞いて、一気に関係論文のリストを出してもらうようになりました。Web検索でも学術検索でも、同じ変化が起きている。
つまり、「検索して、複数の記事や論文を集めて、自分でまとめる」という作業の少なくない部分を、AIが肩代わりしてくれるようになったわけです。
じゃあ、AIが検索を仕切る時代に、情報の「一番おいしいところ」はどこになっていくのか。そんなことを考えています。

AIは「ファクト」を集めるようになる
今のAIは、ウェブ上にある様々な情報を見ています。事実を報じた記事も、それに対する論評も、個人のブログも、学術論文も。それらを参照しながら、ユーザーの問いに答えてくれる。
ただ、AIの思考モードが進化していくと、この「まとめ方」も変わっていくんじゃないかと思うんですよね。
だって、論理的な思考プロセスとしてあるべき姿を考えると、まず事実(ファクト)を確認するわけじゃないですか。次に、そこから考えられうる解釈を複数まとめる。そして、その中で蓋然性が高そうな解釈を提示する。こういう流れになりますよね。
そうなると、AIがまず集めようとするのは「ファクト」——つまり一次情報になるのではないかと思うわけです。人間の解釈や論評は、参考にはするかもしれないけど、あくまで「一つの見方」として扱われる。なぜなら、同じファクトに対して別の解釈はいくらでもありうるし、複数のファクトを並べれば、個々の論者が想定していなかった新しい解釈が浮かび上がることもあるから。
つまり、情報の利得という観点で見ると、解釈よりも一次情報のほうが価値が高いということになると思うわけです。解釈は「代替可能」だけど、一次情報——書き手が自分で取ってきたデータ、自分で行った実験や調査、自分だけが持っている体験や観察——は「代替不可能」。それを持っているのは、その書き手だけだから。
海外のマーケティング界隈では、こういう変化を捉えて「Information Gain(情報の利得)」とか「AEO(Answer Engine Optimization)」という概念が議論され始めているそうです。これまでのSEOは「Google検索の1ページ目に表示されること」が目標だったけど、これからは「AIの回答の『出典』に選ばれること」が目標になる、という話。情報発信者は「人間に読まれること」だけでなく、「AIに参照されること」を意識する時代になってきている、ということなんでしょうね。

動画全盛の時代も変わるかもしれない
このように一次情報がAI時代で優先されるとすると、これまた変わっていくだろうと思うのが、YouTubeのような動画の世界です。
今は動画全盛ですよね。顔出しした個人が、自分が把握した事実とその解釈を語る。このスタイルがメディア消費の主流になっている。
ただ、理屈で考えると、この流れも変わるんじゃないかと思うわけです。というのも、動画コンテンツの中心にあるのは「人間の解釈」だから。ある個人が、自分の視点で世界を切り取って語る。もちろん、「この人の話が聞きたい」という人間のニーズは残ります。面白い人、権威のある人、信頼できる人の論評は、これからも価値を持つでしょう。
でも、AIが動画を無限に生成できるようになったらどうなるか。今のような「個人が動画を量産して、アルゴリズムがおすすめを選ぶ」という構図は、根本から変わる可能性がある。この話は長くなるので、また別の記事で詳しく考えてみたいと思います。
まとめ
というわけで、今日は「AI時代に価値を持つのは一次情報」という話をしてみました。
AIが検索を仕切り、情報をまとめる時代。AIの思考が進化していくと、まずファクトを集め、そこから解釈を導くというプロセスになっていくはず。だから、解釈よりも一次情報のほうが価値が高くなる。情報発信者としては、自分だけが持っているオリジナルのデータ、体験、観察を出すことが大事になってくるんじゃないかな、と思っています。
逆に言えば、「既存情報をまとめただけの記事」の価値は下がっていく。よく言われる「コタツ記事」みたいなものは、AIが一瞬で生成できちゃいますからね。自分にしか出せないファクトを持っているかどうか。それがこれからの情報発信の分かれ目になるのかもしれません。そう考えると、私が今書いているこの記事もAI時代には要らなくなりそうです(笑)
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最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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