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ブログ歩きながら考える

2026.1.26

ZEN大学3380人入学が示す、学歴社会終焉の始まり – 歩きながら考える vol.215

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、通信制大学への進学者が増えてきている件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、最近気になったニュースについて考えてみようと思います。テーマは通信制大学の台頭と学歴社会の行方について。ちょっと大きな話になりそうですが、歩きながらゆるく話してみます。

きっかけは、2026年1月22日の毎日新聞の記事。完全通信制のZEN大学が2025年春に開学し、初年度の定員3500人に対して3380人が入学したそうです。これ、結構すごい数字だなと思うんですよね。

ZEN大学は、通信制高校のN高などを運営するIT大手ドワンゴと日本財団が設立した学校法人が運営していて、大学卒業に必要な124単位すべてをオンラインで取得できる。しかも入学者の6割が高校からの進学者で、そのうち4割がN高・S高からの進学だそうです。

高校の方も、N高グループ(N高・S高・R高)は合わせて3万4000人以上の生徒を抱えている。通信制高校の生徒数は約29万人なので、その1割以上がN高グループに在籍していることになります。数パーセントの若者が、従来の全日制ではなく、こういう新しい形の教育を選んでいるということですよね。

従来の大学教育への素朴な疑問

この流れを見ていて思うのは、「従来の大学教育って、本当に最適化されてるのか?」という素朴な疑問です。

だって、考えてみてください。大学って、各セメスターで時間割を組みますよね。たまたま必修科目が月曜の1限に入っていたりする。で、なんで一番憂鬱な月曜の朝一に起きて、教室に行けたことが単位取得の要件になるのか、よくわからないんですよ。授業に出席したからといって、積極的に発言しているわけでもない。特に教養科目の大人数授業なんて、先生が話しているのをノートに取っているだけだったりしますよね。

それだったら、別にその時間に行く必要なくて、自分にとって最適な時間に動画を見ればいいわけです。通信制大学では、自分でプランニングして、自分で時間を確保して、集中して授業を消化する。東京通信大学の加藤泰久教授は「通信制大の学生はセルフマネジメント力が身に付く。そうでないと卒業できない仕組みになっている」と語っています。

自分で計画し、自分で実行し、結果も自分で引き受ける。これって、自助・自己責任の考え方ですよね。個人主義の中でも、ちょっとリバタリアン的な色合いが強い。僕はこの流れ自体は、悪くないんじゃないかと思っています。

若い世代の「生存戦略」としての選択

ここで考えたいのは、なぜ若い世代がこういう選択をしているのかということです。

若い人たちって、これから何十年も社会の中で生きていかなければならない。親世代がどうやって生活基盤を打ち立てているかを見つつ、同時に変化していく社会を見据えて、どうやってそこで生き抜いていくかを考えている。これって、すでに社会に出ている上の世代より、はるかに敏感なんだと思うんです。

若い世代の中にも、その敏感さには差がある。先を見通せるオピニオンリーダー的な人たちがいて、その行動を周りの同世代が真似ていく。そうやって、世代としてのライフスタイルや価値観が形成されていく。

彼らの価値観を見ていると、すごく個人主義的というか、自助独立みたいな観点が強くて、あまり国やコミュニティという枠組みは重視されていないように感じます。特に「国に頼れない」という感覚が広がっているんじゃないでしょうか。地理的に分けられた国よりも、もっと場所の制約に縛られない枠組み——会社やオンラインコミュニティ——を選択する傾向がある。

そういう人たちにとっては、世界どこに行っても「自分の好きなことはこれだ」と言えるような、本質的に好きなことをベースにしたスキル獲得が重要になる。ZEN大学のような選択は、この生存戦略の一つの証明なんじゃないかと思っています。

学歴社会は本当に変わるのか?

ただ、ここで反論も考えておきたい。「学歴社会は簡単には変わらないんじゃないか」という見方です。

以前の記事でも書きましたが、企業の人事担当者にとって、学歴フィルターは「低コストで一定の質を担保できる」合理的な手段なんですよね。何百人ものエントリーシートを見る中で、個別のスキルや学習履歴を一つひとつ評価する余裕なんてない。

それに、日本企業の多くは依然としてメンバーシップ型雇用——「何ができるか」より「どの会社に属しているか」で人を評価する文化——が根強い。「変えた方がいい人材が取れる」という実証がなければ、上の世代も企業も、先に動かないんじゃないか。

これは確かにその通りだと思います。学歴社会を変えようと思っても、上からの号令だけでは簡単には変わらない。

世代間の贈与という発想

でも、僕はここに変化の兆しを感じています。

通信制大学を出た人たちの中から、「よくわからない大学出身だけど、何ができるか聞いてみたら、IT系・DX系・AIに関しては固め打ちのように知識を持っていて、しかもプロジェクトマネジメントや時間管理が当たり前にできる。下手したら中堅社員よりしっかりしている」——そういう人材が次々と出てきたらどうなるか。

そうなると、上の世代も考え方を改めなければならないという話になっていくでしょう。変化を迫られるのは若者側ではなく、採用側の方なんです。

だから、もし学歴社会のような社会制度にはもう合理性が無く、むしろ少子化などの社会問題の原因になっていると考えるのであれば、やるべきことがあると思います。それは、アルファ世代以下の子どもたちが、あと10年経って社会に出るときに、本当に上の世代を凌駕するようなスキルと能力を身につけた実例となるべく、教育やサポートを行うこと。

つまり、自分たちの世代が確立した社会の制度を、2つ下、あるいはそれ以上下の世代が打ち破っていくことを手助けする。これは、いわば「世代間の贈与」のようなものだと思うんです。

一度確立した社会制度(学歴社会)は簡単には壊せません。しかし、これが続くと次の世代が生きにくいだろうな、ということも見えている。であるならば、次の世代がより良く生きられるように、制度を壊す側に回る。ZEN大学やN高グループの台頭は、その最初の一歩なのかもしれません。

まとめ:学歴社会の終わりの始まり

というわけで、今日はZEN大学の話から始まって、学歴社会の行方について歩きながら考えてみました。

通信制大学の台頭は、単なる教育の選択肢が増えたという話ではなく、若い世代の生存戦略であり、学歴社会の終わりの始まりを示しているのかもしれない。そして、その変化を本当に実現するためには、上の世代が、次の世代が自分たちを超えていくことを手助けする姿勢が必要なんじゃないかと思っています。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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