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ヨガと瞑想本棚

2019.6.6

般若心経から考える「まともな大人」像

渡邉 寧 | 株式会社かえる 代表取締役

ティック・ナット・ハンの般若心経

今回は、ベトナム出身の禅僧で、アメリカとフランスを中心に活動するティック・ナット・ハンによる「般若心経」の読書メモ。とても示唆深い新訳で般若心経を解説してくれています。

個人的に、人はどのように成熟していくのか、ということに興味があって、数年前にヴィパッサナー瞑想に参加したことから仏教の考え方と修養の実践に影響を受けています。

父方が曹洞宗のお寺の檀家で、般若心経はお葬式の際にも読経されていました。末尾の「ギャーテーギャーテー・・・」の所が子どもの頃から妙に印象に残っていましたが、内容はあまり理解していませんでした。

ティック・ナット・ハンの般若心経の新訳は、「空」に関する解釈は誤解を生みやすいとし、この部分を明確に現代人が理解できるようにしています。

すなわち、「空」とは「無」ということではなく「独立した存在は無い」ということであるという解釈です。

これは、分かりやすい考え方で、例えばティック・ナット・ハンは、

息子さんからお父さんを取り去ると、息子さんはそこにはいません。息子さんがいなければ、お父さんは父親にはなれなかったはずです。このように原因(因)と結果(果)は常に一緒にあります

と言っています。確かに、「私」は親との関係性の中で「子」であり、親戚の子供との関係性の中で「叔父」であり、友人との関係性の中で「友」となります。「私」が存在するというよりは誰かが居るから私という存在が成立すると考えた方が正しいのかもしれません。

私たちは、「私」という確固とした存在があるような気がしているけれど、違う見方をすることも十分可能で、相互依存する関係として「私」を考えるということをティック・ナット・ハンの般若心境は教えてくれます。(これをInterbeeing(インタービーイング)と呼んでいる)

意識の置き所を変える

このような意識の持ち方を採用すると、世界は違ったものに見えてきます。

例えば意見の異なる論敵が居たとします。近年はTwitterをはじめとしたSNSは論調が過激になるように感じます。元々は賢明だった人たちが敵・味方に分かれて相手を口汚く罵っている様子をSNS上で容易に見ることが出来、なんだかなあ・・・と思うことも多い。

この時、人は論敵を「わたし」と「あいつ」と分離して考えて、「あいつはおかしい。あいつはダメだ」として攻撃します。しかし、「空」の考えに従えば、「わたし」も「あいつ」も独立した存在としてあるわけではありません。「わたし」が居るから「あいつ」が存在するわけで、逆もまたしかり。

もっと分かりやすく言うと、「わたし」が攻撃するから「あいつ」も攻撃してくるのかもしれないわけです。「わたし」が意見の相違があると思うから「あいつ」の意見の相違性が際立ってくるのかもしれないわけです。

そういう分離したものの見方ではなく、「わたしはあいつであり、あいつはわたしである」という包括した存在として「わたし」を見て、その意識のまま「わたし」としての意見を表明し、行動したらどうなるか。恐らく違った状況が生み出されるのだと思います。

まともな大人になる

ティック・ナット・ハンは、

私たちの中で、手を汚していない者は一人としていません。こんな状況は自分の責任ではない、と言い切れる者はだれもいません。子供が売春をして働くこと強いられているのは、私たちがこのようであるからです。難民キャンプで暮らすことを強いられている人たちがあのように生きなければならないのは、私たちがこのように生きているからです。

と言っています。

個人的に、人生の目的は「まともな大人になること」だと思っているのですが、私にとって「まともな大人」とは、物理的な身体の中だけの「わたし」ではなく、物理的な身体を超えたところまでを「わたし」として認識し、行動出来る存在のことだと思っています。

日本語では「人間」と言います。「人」の「間」こそがヒトなのだと言っているように私には聞こえます。ティック・ナット・ハンの般若心経を読んで改めて、そろそろまともな「人間」になりたいものだ、と感じました。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役

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