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ブログ歩きながら考える

2026.4.16 NEW

「書く力」の時代が終わる? 朝日新聞AI全振り宣言から考えたこと – 歩きながら考える vol.271

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIが新聞記者の仕事をどう変えるかについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は朝の移動時間を使って、気になった新聞記事の話をしてみようと思います。きっかけは、2026年4月7日の日経新聞に載った朝日新聞社長のインタビュー記事「AI全振り」宣言というなかなかインパクトのある見出しで、朝日新聞がAIをどう報道現場に取り入れていくのかを語っていました。歩きながら、ゆるく考えてみます。

朝日新聞社長の「AI全振り」宣言

記事の中で僕が「踏み込んだな」と思ったのが、デスクの機能がAIに置き換わるという話です。従来は記者が原稿を書いて、デスク(編集者)がチェックして紙面に落とし込むという流れだった。でも、文章の体裁やファクトの確認は、AIの方がベテランのデスクより能力が高いかもしれない。社長自身が「デスクがチェックする時代はおそらく終わる」と言い切っていて、これはなかなか大胆な発言だなと思いました。

書く力はAIに移行していく

正直、AIの文章力は本当にすごいんですよね。僕自身も日々使っていて実感しますが、AIは文章を書くこと、整えること、チェックすることにおいて、すでに多くの場面で人間を上回っている。文章のパターン認識に関してはAIの方が得意で、しかもスピードが圧倒的に早い。

で、こうなってくると、人間が自力で文章を書ききるという経験が減っていくと思うんですよね。記者に限らず、ビジネスパーソンでも研究者でも、「アイデアを口頭でインプットして、AIに下書きを作らせて、それを直す」という仕事の仕方が当たり前になりつつある。以前のブログでもAIへの認知オフロードとスキル劣化のリスクについて書きましたが、自力で書く経験が減れば、当然その部分の能力は衰退していく。そうするとますますAIが担う領域が広がり、さらに人間の文章力が衰え……という循環が起きる可能性がある。文章作成においてAIが担う領域は、今後加速度的に増えていくだろうと思います。

記者に残るのは「引き出す力」

じゃあ、ジャーナリズムにおいて人間の記者に何が残るのか。

僕はやっぱり一次情報の取得なんだと思うんですよね。現場に行って、人に会って、インタビューをする。観察したことを情報として持ち帰ってくる。これは今のところAIの得意領域ではありません。

で、ここがポイントなんですが、取材対象の人が何を話すかって、記者との関係性にものすごく依存していると思うわけです。「この人だから話す」「このタイミングで、この記者にだけ出す」——そういう判断は、取材対象側の感情的な信頼や、話すことによる政治的なインセンティブの読みに基づいている。

つまり、AIが書く力やチェックする力を引き受けた後に記者に残るのは、相手の感情やインセンティブの構造を読んで「話してもいい」と思わせる力ではないかと思うわけです。いわば感情の心理学と政治学に長けていること。一期一会の文脈に埋め込まれた人間関係の力学なんだと思います。

で、これはジャーナリズムに限った話じゃない。コンサルタントがクライアントの本音を引き出す時も、営業がキーパーソンの真意を探る時も、研究者がインタビュー調査で相手の語りを深める時も、同じ構造がある。AI時代に価値が残る人間のスキルは、アウトプットの質(=書く力)ではなく、スループットの質——つまり、現場の生の情報をどれだけ豊かに取ってきて、AIが処理できる流れに乗せられるか——にシフトしていく。これは多くの知識労働者にとって、結構大きな転換点なんじゃないかと思います。

人間はAIのデータ供給者になるのか

ここまで考えてきて、「人間にしかできないことが残る」というポジティブな話に聞こえるかもしれないんですが、ちょっと立ち止まって考えたいことがあります。

朝日新聞のスーパージャーナリスト構想をもう一度見てみると、記者が取材して得た一次情報をAIに解析させ、AIが文章化し、AIが校正する。記者は感情戦略を駆使して情報を取ってくるけど、その情報が最終的な記事になるまでのプロセスは、ほぼAIが回している

これ、見方を変えると、記者はAIシステムへのデータ供給者として機能しているとも言えるんですよね。

ユヴァル・ノア・ハラリが『ホモ・デウス』の中で描いた「データイズム」という考え方があります。あらゆるものの価値はデータフローへの貢献度で測られる。人間もまた、データを生成し処理する存在に過ぎない——というかなりラディカルな世界観です。

で、今回のジャーナリズムの話を見ていると、記者は「無用」にはならない。むしろ不可欠な存在として残る。でも、その内実は、AIに投入するための一次情報を現場から取ってくること——スループットの担い手です。良い悪いは別として、ハラリが描いたデータイズムの世界が、ジャーナリズムの現場からすでに静かに始まっているようにも見えます。

というわけで、今日は朝日新聞のAI全振り宣言から始めて、AI時代の知識労働者の価値の行方まで、歩きながら考えてみました。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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