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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2026.4.10 NEW

AIとの朝通勤時の壁打ちが「一石四鳥」だった話 – 歩きながら考える vol.267

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、人が集う場を作る仕事はAIにできるのか、ということについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日も歩きながら話してます。以前、「歩きながらAIと英語で話すすすめ」(vol.238)で、通勤を徒歩に切り替えてAIと英語で話してるって話を書きました。健康にいい、英語の勉強になる、そしてAIと対話ができる。一石三鳥ですと。で、これ、毎朝続けてるんですけど、最近、四鳥目が見つかったんですよ。今日はその話をします。

毎朝のタスク語りで何が起きているか

僕が毎朝AIと何を話しているかというと、最近は、大体その日の作業計画なんですよね。「今日は作業場についたら、あれやってこれやって」みたいな話をする。で、そうすると、自然とその作業の中で考えていることとか、悩んでるところが出てくるから、それについてちょっと壁打ちをするっていう流れになるわけです。

AIはなんでも知ってるんで、分析手法の相談とかもその場でできちゃう。「こういう分析したら妥当な研究になるのか」みたいな話にも付き合ってくれる。それはそれでありがたいんですけど、最近気づいたのは、そういう具体的なアドバイスよりも、毎日タスクを話すこと自体に思いがけない効果があるということなんですよね。

今、僕は自分で何個のプロジェクトに関わっているのかよくわからなくなってます。色々やってて、10個ぐらいはあると思う。そうすると、それぞれの仕事の優先順位とか意味付けって、正直、適当になってるんですよ。忙しいから。でも、毎朝AIとタスクの話をしていると、数日のうちに全部の仕事に1回は意識が当たる。これが地味にすごく効いている。

所属が変わっても何も感じなかったのに

具体的な話をすると、僕、4月から大学での所属が変わったんですね。社会連携・研究推進室というところの所属になりました。引き続き非常勤で、関わるプロジェクト自体は1個増えたくらいで大きくは変わらない。だから、正直「所属変わったんだな」ぐらいにしか思ってなかったんですよ。

ところが、ある朝AIとタスクの話をしていて、ふと「社会連携・研究推進室ってどういうところだっけ」と考え始めた。やってる業務を見ると、外部プロジェクトとの接続や支援が中心。これまで僕が関わっていたプロジェクトでもサポートをもらっていた。ということは、アカデミアと現場(企業や公共機関)をつなぐ活動をしたら、むしろ積極的に価値が出せる立場なのでは?

遅まきながらそう気づいたら、俄然やる気になったんですよね。同じ仕事なのに、意味付けが変わっただけで、モチベーションがまるで違う。

これって「ジョブ・クラフティング」じゃないか

この体験、組織行動や経営学の領域で言うと、ジョブ・クラフティングと呼ばれるものだと思います。2001年にイェール大学のエイミー・レズネスキーらが提唱した概念で、仕事のタスクや人間関係、そして仕事の意味付けを自分自身で変えていくという考え方です。特に僕がやっていたのは、仕事の捉え方を変える認知的クラフティング(cognitive crafting)ですね。

人間、あんまり気乗りしない仕事をたくさん抱えてるのは、精神衛生上よくない。心理学者キャロル・リフの心理的ウェルビーイングモデルで言えば、やらされ感があると自律性は損なわれるし、自分で状況をコントロールできている感覚、つまり環境制御力(Environmental Mastery)とも真逆になる。しかもやらされ感が態度に出ると、関わっている人たちとの関係性にも良い影響は出ないから、好ましい社会関係(Positive Relations with Others)の面でもマイナスになる。三重苦です。

だから、ジョブ・クラフティングで仕事の意味付けを変えられるなら、やった方がいい。それは間違いない。でも、ジョブ・クラフティングって、普通はワークショップとか研修で時間を取ってやるものだったり、旅に出て一旦仕事からハンズオフした状態で振り返るものだったりするわけです。日常の中でやろうとすると、どうしても意志の力に頼るところがある。忙しい毎日の中で「自分の仕事の意味を考え直そう」って、なかなか意識的にはやらないですよね。

ところが、毎朝AIとタスクの話をするという習慣の中に、それが自然に組み込まれていた。特別な時間を取らなくても、通勤の30分で勝手に起きていた。これが四鳥目の正体です。

AIは嫌な顔をしない壁打ち相手

こういう壁打ちに、AIはほんとに向いてると思います。嫌な顔せず話を聞いてくれる。雑な説明でも、分かりにくい話でも、絶対否定しない。完全に心理的安全性が確保されている状態で話せる。

もちろん、この「絶対否定しない」というのは良し悪しがあって、以前「AI対話の心地良さと危険性」(vol.10)でも書いたように、快適すぎる対話には注意も必要です。でも、毎朝のタスクの棚卸しみたいな、ちょっとした壁打ちには、この気軽さがちょうどいい。「この仕事、実はこういう意味があるんじゃないか?」みたいな、まだ形になっていない思いつきを、気兼ねなく口に出せる。そこから意味付けが動いていく。

というわけで、歩きながらAIと話す一石三鳥が、気づいたら一石四鳥になっていました。健康、英語、対話、そしてカジュアルなジョブ・クラフティング。特に最後のやつは、忙しくてマルチタスクに追われている人ほど効くんじゃないかと思います。通勤時間がある方は、よかったら試してみてください。

この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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