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2026.4.3 NEW

交際費を削る若者は人間関係を貧しくしてるのか? – 歩きながら考える vol.262

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、若者の交際費減少をウェルビーイングの観点から考えるという話です。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日も歩きながら、最近気になった記事について考えてみようと思います。3月27日の日経新聞の記事で、若い世代が人間関係もコスパで見るようになっているという話が出ていました。「フレンドフレーション」という言葉をキーワードに、物価高で交際費を絞り込む若者が増えているという内容です。

記事には「飲み会で6000円払うなら1人でおいしいご飯を食べる方が価値がある」「お金を使って友人と外食しても仲が深まるわけではない」といった声が紹介されていて、なるほどなと思ったんですよね。で、これって本当に人間関係が貧しくなる話なのか? ウェルビーイングの観点から考えると、ちょっと違う景色が見えてくるんじゃないかと思ったので、今日はそのあたりを話してみます。

交際費を削っても関係は深まる

まず僕が思うのは、交際費を削ること自体には何の問題もないんじゃないかということです。

というのは、大半の飲み会って、Googleマップとかで評価の高い店を適当に予約して行くわけじゃないですか。それで6000円、7000円かかる。友達との関係性をキープするという目的なら、別にそこまでお金を払わなくてもいいよなっていう気はすごくします。

以前、兵庫の垂水に行った時のことをブログに書きましたけど、金曜の夜の銭湯で、筋トレ帰りの若い子たちがみんなで来て、わちゃわちゃしてる光景を見たんですよね。あれって、実は最強のコスパ交際なんじゃないかと思うわけです。

一緒にスポーツをやるって、考えてみるとすごく効率が良いんですよ。まず、体を動かすから自分の健康にも役立つ。うまくなったり体が大きくなったりすれば自己成長の実感がある。筋トレの時間を確保するために仕事を調整するようになれば、Carol Ryffの心理的ウェルビーイング理論でいうところの環境マスタリー——自分の生活環境を自分でコントロールしている感覚——を感じることにつながる。自分で自分を成長させているという自律性の感覚もある。そして結果が出れば有能感も感じられる。

つまり、個人としてのウェルビーイングが多面的に上がる可能性があるわけです。しかもそれをみんなでやっている。みんなでやるから社会関係も分厚くなるし、共通の話題があるから話も弾む。より仲良くなっていく。飲み会に7000円払うより、よっぽど「お得」なんじゃないかと思うわけです。

でも、飲みの場にしかない機能がある

じゃあ、外食や飲み会は全部やめていいのかというと、そうとも言い切れない。

飲みの場って、既存の友達との関係を深めるだけじゃなくて、知り合いの知り合いを紹介してもらうとか、お店の人や常連さんと繋がるとか、普段だったら絶対に出会わないような人と接点を持てる可能性がある場所なんですよね。

社会学に「弱い紐帯の強さ」という有名な理論がありますが、親友や家族のような強いつながりよりも、ちょっとした知り合いのような弱いつながりの方が、新しい情報や機会をもたらしてくれることが多い。普段つながらない業界の人や、全然違う世界の人との偶発的な出会いには、たしかに固有の価値がある。

行きつけのお店があって、お店の人との付き合いがあって、そこに友達を連れていって一緒に楽しむ。そういうセッティングであれば、6000円、7000円払って飲みに行くのは、すごくいい話だと思うんですよね。そこからネットワークが広がっていくわけですから。

コスパでは測れないものがある

ここで立ち止まって考えたいのが、「コスパで人間関係を選別する」ということの意味です。

弱い紐帯の価値って、「コスパ」という尺度では本質的に測れないんですよね。だって、まだ出会っていない人との関係のリターンを、今の自分が正しく見積もれるはずがない。「この飲み会に行って元が取れるかどうか」なんて、事前にわかるわけがないですね。

コスパで交際を選別するということは、突き詰めると、今の自分の判断力の範囲内に人間関係を閉じるということを意味します。それは短期的には合理的で心地よいかもしれないけど、長期的に見たときに、自分の世界を狭くしている可能性がある。

だから、まだ見ぬ人と出会うための場には、お金を惜しまずに行った方がいいんじゃないかと、僕はまあ思います。

まとめ

というわけで、今日はフレンドフレーションの話から、交際費を削ることの意味を考えてみました。

この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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