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今日のテーマは、幸福理論から考えてなぜ筋トレが幸福度を上げるのかということについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日も歩きながら、ちょっと考えたことを話してみます。テーマは「筋トレと幸福感」。最近また筋トレを始めたんですけど、実は僕、筋トレが本当に大嫌いだったんですよね。なんでそれが変わりつつあるのか、幸福度の研究と絡めて話してみようと思います。
筋トレは「苦行」でしかなかった
最近ちょっと体調が悪くて、原因の1つがホルモンバランスじゃないかという疑いがありまして。筋肉量が同年代と比較して少なすぎると。筋肉量が少ないと、年を取った時にサルコペニア(加齢による筋肉量・筋力の低下)のリスクが出てくるし、血糖値のコントロールも難しくなる。あと、アルコールの代謝にも筋肉量は関係していて、筋肉量が多い人のほうがお酒の分解能力が高いらしい。
そういうわけで、医者の勧めもあって筋トレを再開したんですけど、正直、最初は全くモチベーションが上がらなかった。なんでかっていうと、筋トレの押したり・あげたり・引っ張ったりする行為自体は苦行でしかないから。これは幸福感を上げません。
ここで少し幸福感の話をすると、幸福感には大きく分けて2つの系統があります。1つはヘドニックな幸福感。快楽とか、気持ちいいとか、ポジティブな感情が多いかどうかっていう話。もう1つはユーダイモニックな幸福感。人生に意味があるか、自分は成長しているか、という意味付け的な幸福感です。
ヘドニックな観点で言うと、筋トレは単なる苦しい時間。重いものを押したり引いたりし続けるだけの、ネガティブな経験です。でも、ユーダイモニックな観点で見直してみたら、話がだいぶ変わってきたんですよね。

自己成長の実感を通じて幸福度を上げる
ユーダイモニックな幸福感の代表的な枠組みに、キャロル・リフのサイコロジカルウェルビーイング(心理的幸福感)のモデルがあります。これは6つの要素で構成されていて、自律性、自己成長、自己受容、環境制御、良好な人間関係、人生の目的の6つ。
まず一番大きいのは自己成長。筋トレって、頑張れば頑張っただけ筋肉がついてくる。人間関係や社会での成功はいろんな要素が絡んで自分の努力だけではどうにもならないところがあるけど、筋トレは正しい努力をすれば、その分だけ目に見える形で結果がついてくる。これは自己成長の実感を通じて幸福度を上げますよね。
その結果としてボディメイクが進めば、自己受容にもつながるかもしれない。さらに、誰かに強制されてやるんじゃなくて、自分で選んでジムに行って、辛い作業に自分の意思で耐えている。これは自律性の感覚を強くします。
他の要素についても考えてみると、最近飲み会で気づいたんですけど、健康やトレーニングの話題って幅広い年代で共通の関心事なんですよね。食事管理をどうしてるかとか、結構話が広がっていく。共通の話題があることで良好な人間関係が保ちやすくなるから、これもプラス。
環境制御(エンバイロメンタルマスタリー)についても、仕事を調整したりして筋トレの時間を作ることは、自分の周囲の環境をマネージできている感覚と通じるものがある気がします。
最後に人生における目的意識。これはちょっと人次第かなという気はしますよね。大会を目指している人にとっては直接的に人生の目的になりうるし、そうでなくても、見た目が変わることは周囲からの評価に影響するから、それを通じてそれぞれの人生の目的に間接的につながるということかもしれません。

日本人の「自己の感覚」を強くするうえで
ここでちょっと文化の話をしたいんですけど、日本人の自尊心の低さは国際比較でも繰り返し指摘されています。僕はこれ、日本の文化的な特徴と関係していると思っています。
集団主義的な日本文化では、幸福感が「周囲との関係がうまくいっているか」「期待された役割を果たせているか」に依存する傾向が強いところがある。でもそれって、基本的に他者次第なんですよね。自分ではコントロールしにくい。他者からの評価に自己肯定感が左右されやすい構造の中で、自尊心が低くなりがちなのは、ある意味で構造的な問題だと思います。
一方、筋トレは完全に自分の領域の話です。努力と結果の因果関係が明確で、他者の評価や運に左右されにくい。だからこそ、PWBの自律性・自己成長・自己受容を通じて、日本人の「自己の感覚」を強くするうえで役立つような気がしています。
ただし、万能ではない
とはいえ、筋トレに可能性は感じつつも、万能だとは思っていません。個人的には、本当はヨガの方が良いなと思う点が多いんですよね。
僕は博士課程に入る前までアシュタンガヨガをやっていました。ヨガは、自律性・自己成長・自己受容・人間関係・環境制御のすべてにプラスだし、その上、練習自体が気持ちいい。ストレッチの要素があって、交感神経と副交感神経のバランスが取りやすくなる。つまりヘドニックな幸福感もユーダイモニックな幸福感も両方上げる、かなり優れたプラクティスだと思います。
でも、僕は中断してしまった。理由は単純で、練習時間が朝だから。アシュタンガヨガは伝統的に早朝から練習するスタイルなんですけど、博士課程に入って、研究者として論文をちゃんと出していきたいという目的ができた時に、朝トレーニングすると午前中に頭がうまく使えなくなるという問題が出てきた。つまり、PWBの「人生の目的」と練習時間がバッティングしてしまったんです。ヨガは幸福理論上ほぼ完璧でも、自分の人生の目的と衝突するなら続けられない。
というわけで、今のところは夕方に筋トレするという習慣を採用してますが、まあ、正直なところ押したり引いたりするのはやっぱり辛いので、そのうちまたヨガ的なものに移るかもしれないですけどね。
というわけで、今日は「筋トレと幸福感」について歩きながら考えてみました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が面白いと思ったら、ぜひ「いいね」や「フォロー」で応援してくださると嬉しいです。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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