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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2026.1.9 NEW
「組織調査入門」みたいなプログラムを作りたいという新年の話 – 歩きながら考える vol.205
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、今年、組織調査の勘どころを鍛えるプログラムを作りたいな、という話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日はお昼ごはん食べた後にぶらぶらしながら、年初に考えていることを話してみようと思います。
新年なんで、今年やりたいことを考えていたんですけど、その一つが「組織調査のリテラシーを学べる教育プログラムを作りたい」ということなんですよね。半年くらいの講座で、組織内で調査を担当している人とか、これから大学院で専門的に学びたい人が「役に立つな」と思えるようなもの。
なんでそんなことを考えているかというと、過去5年くらい研究活動の派生で民間企業や行政組織で働く人の幸福感の調査に関わっていて、そこで感じることがあるからなんです。
「診断してください」から「一緒に考えましょう」へ
組織調査って、外部の専門家に依頼するとき、「お医者さん」みたいな関係になりがちだなと思うんですよね。「先生、診断してください。うちの組織、良いんですか?悪いんですか?どうすればいいんですか?」という感じ。
これはこれで意味のある仕事だと思います。専門家が客観的な視点で組織の状態を診断して、レポートを出す。忙しい現場にとっては合理的な選択だし、僕自身もそういう仕事をすることはあります。
ただ、個人的にはもう一つの形があるといいなと思っていて。それは、内部の人と外部の専門家が「一緒に考える」形。内部の人が主導しながら、足りないところを外部の専門性で補っていく、そんなイメージです。
内部の人には内部の人の多くの強みがあるんですよね。組織の状況をよく知っているし、他にもいろいろ調査をやっていたりするから、組織内にどういうデータがあるかにも詳しい。外部の専門家は、調査の手法とか統計の知識とか、「こういうデータでこういう分析をすると、一般的にはこういう結果が出やすい」という経験知で貢献できる。
両者が組み合わさると、単なる「診断」を超えて、組織の文脈に根ざした深い洞察が生まれる可能性がある。そういう協働ができると面白いなと思っています。

「自社にとっての幸福って何だろう」を考える
で、そういう協働をするためには、内部の人に調査の「勘所」みたいなものがあるといいんですよね。全部を専門的に知っている必要はないんだけど、外部の専門家と対話できるくらいの感覚。
たとえば、「何を測るか」という問い。
「職場の幸福を測りたい」と言っても、幸福の捉え方って時代とともにどんどん広がっているんですよ。昔は「職務満足度」で測ることが多かったけれど、そこから概念が拡張してきた。気分がいいとか楽しいとかの「快の感情」だけじゃなくて、意味や成長、働きがいみたいな話も入ってきた。さらには職場の関係性とか、組織の文化的な側面まで含めた幸福観もある。
だから、「自社にとっての『幸福』ってどういう状態なんだろう」という話し合いが、調査の前に必要になります。これは外部の専門家だけでは答えが出せない問いで、内部の人たちが主体的に考えるところ。ここを曖昧にしたまま測定に入ると、「数字は出たけど、で、どうすればいいの?」となりかねない。
データの取り方も分析の見方もいろいろある
それから、「どう測るか」「どう分析するか」についても、選択肢が昔よりずっと増えています。
データの取り方だけでも、従来の質問紙調査に加えて、テキストデータ、音声データ、生体データといろいろある。座談会を録音してデータ化するのもありだし、一般的な質問紙調査にしてもネットを使った経験サンプリング法など、アプリで1日数回通知を出して、その場で気分や状況を記録してもらう方法もある。それぞれの長所とコストや負荷が違うので、「うちの状況だとどれが現実的か」を判断できると、外部の専門家との会話がスムーズになります。
分析の話でいうと、たとえば「効果量」という考え方があるんですよね。統計的に「有意差がある」と言われると、なんだかすごい発見みたいに聞こえるじゃないですか。でも、サンプルサイズが大きければ、ほんのわずかな差でも「有意」になってしまう。大事なのは、その差が現場で施策を打つに値するほどのインパクトがあるかどうか。そういう視点を持っていると、調査結果を現実的に評価できるようになります。

まとめ:一緒に考えられる人が増えると面白い
というわけで、今日は「組織調査の教育プログラムを作りたい」という新年の抱負について、歩きながら考えてみました。
そんなに大きなニーズがあるとは正直思わないんですけど、各組織に調査の勘所がわかる人がいるようになると、内部と外部の協働がもっとやりやすくなる。「診断してください」だけじゃなくて、「一緒に考えましょう」ができるようになる。そうすると、組織調査はもっと面白くなるし、組織をより良くするための知見も深まっていくんじゃないかと思っています。
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著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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