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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ不確実性の回避(UAI)歩きながら考える
2025.12.31
お年玉も物価調整すべきか? – 歩きながら考える vol.200
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、インフレ時代にお正月のお年玉も金額を上げるべきかということについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は年末の買い物帰りに、ちょっと面白い記事を見つけたので、歩きながら考えてみようと思います。テーマは「お年玉」。もうすぐお正月ですし、親戚の子供にお年玉を渡す方も多いんじゃないでしょうか。で、そのお年玉がインフレに負けているという話なんです。
子供の「実質所得」が目減りしている
きっかけは、2024年12月24日の日経新聞の記事でした。「お年玉、14年ぶり高額も『インフレ負け』」というタイトル。
記事で紹介されていた学研教育総合研究所の調査によると、小学生が2025年のお正月にもらったお年玉の平均額は2万3158円。2011年の2万3473円とほぼ同額とのことです。
ところが、この14年間で消費者物価指数(CPI)は約20%上昇している。特に子供が欲しがるものの値上がりがすごい。記事では学研教育総合研究所の調査を元に、子供が買うおもちゃの値段が上がっている事例が紹介されていました。ゲームソフトは4108円から6534円と6割高、家庭用ゲーム機は3万7941円と14年間で2倍近くになっている。
お年玉の金額はほぼ横ばいなのに、欲しいものの値段は上がっている。つまり、子供の「実質所得」が目減りしているわけです。
これ、大人の世界で言えば「実質賃金の低下」と同じ構造ですよね。大人には労働組合があって、「インフレに合わせて賃上げしてください」と交渉できる。でも子供には交渉する手段がない。「今年は物価が3%上がったので、お年玉も3%上げてください」なんて、おじいちゃんおばあちゃんに言う子供はいないでしょう。

お年玉も物価調整すべきでは?
ここでふと思ったんです。大人の賃金がインフレに連動して上がる方向になっているなら、子供の「収入」であるお年玉も同じように物価調整してあげるべきなんじゃないか、と。
実際、2024年から2025年にかけて、日本では「賃上げ」が大きなテーマになっています。物価が上がっているんだから、給料も上げないと生活が苦しくなる。これは当然の話として受け入れられるようになってきた。
だったら、お年玉も同じじゃないか。去年5000円だった子には、今年は5150円。1万円だった子には1万300円。3%のインフレ調整。経済学的にはまっとうな発想です。
でも、こう書いていて自分でも「なんか違うな」と思うんですよね。
お年玉は「賃金交渉」の対象じゃない
お年玉って、そもそも経済行為というよりは「縁起物」ですよね。新年の祝福として、きりのいい金額を新札で渡す。5000円とか1万円とか、お札のきりがいい数字を選ぶ。しかも新札で渡す。そういう儀礼的な意味合いが強い。
「今年は物価が上がったから1万2000円にしてね」とか「インフレ率を考慮すると5150円が妥当です」とか言い出したら、なんだか労使の賃金交渉みたいになってしまう。親戚間の温かい関係に、対立構造が持ち込まれる感じがする。
オランダの社会心理学者ホフステードの研究で言えば、日本は「不確実性の回避」が高い文化とされています。なんとなく「小学生には3000円か5000円」「中学生には5000円か1万円」みたいな相場観があって、それを大きく逸脱することに抵抗を感じる人は多いんじゃないでしょうか。

まとめ:金額ではなく「位置づけ」を変える
じゃあ、子供たちはインフレに泣き続けるしかないのか。
一つの考え方として、金額を変えるのではなく、お年玉の「位置づけ」を変えるという発想があるかもしれません。
記事のサイドストーリーで面白い話が語られていました。お年玉の使い道で1位は「貯金」で59.3%。今も昔も不動の首位だそうです。親が「無駄遣いしないで貯金しなさい」と言うケースが多いんでしょう。でも記事は、インフレでお金の価値が目減りする今、貯金が賢明な選択とも言い切れなくなってきたと指摘しています。
ここに、発想の転換のヒントがある気がするんです。
「貯金しておきなさい」と言う代わりに、「お金の価値は変わるんだよ。インフレって知ってる? どう使うか、一緒に考えてみようか」と伝える。お年玉を、金融教育の入口にする。金額の多い少ないではなく、お金について親子で考えるきっかけにする。
もちろん、インフレが続けばどこかのタイミングで金額の見直しは避けられないでしょう。でも、それを「賃金交渉」的な対立ではなく、「一緒に世の中のことを学ぶ機会」として位置づけ直せたら、お年玉という日本の文化も、また違った形で続いていくんじゃないかなと思います。
というわけで、今日はお年玉とインフレについて、歩きながら考えてみました。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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