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ブログ歩きながら考える

2025.12.25

AIはプログラマーを賢くするか、愚かにするか? – 歩きながら考える vol.196

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIとプログラマーの能力開発について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は夕方の散歩をしながら、最近読んだ新聞記事について考えています。12月20日の日経新聞に、LINEヤフーがAIを使ってシステム開発の生産性を大幅に上げているという記事が出ていて、これがなかなか興味深いんですよね。

記事によると、LINEヤフーはソフトウェアの設計からコーディング、テストに至るまでの開発フローを分割して、それぞれを専門にサポートするAIツールを使っているそうです。コーディング作業の処理速度は最大30%向上し、2025年度中にシステム開発全体の生産性を30〜40%高める見込みとのこと。

すごい数字だと思います。でも、僕が気になったのはその先の話なんです。短期的に生産性が上がるのはわかった。じゃあ、長期的にはどうなるんだろう?

便利になった先に何が起きるのか

LINEヤフーが構築した「Ark Developer(アークデベロッパー)」という開発支援基盤は、コードの生成や補完、校正のほか、仕様書の作成やテスト設計まで、AIが代行してくれる仕組みになっています。社内に蓄積された膨大な技術資産を参照しながら、最適なコードの書き方を提案できるんだそうです。

これ、すごくポジティブな話ですよね。エンジニアは定型的な作業から解放されて、より本質的な設計や企画に集中できる。

一方で、AIによるメリットは長期的に見た時にも同じように続くものなのか。これ、僕がずっと気になっていることなんですよね。

考えてみてください。これまでプログラマーは、コードを書くたびに様々な知識を入れて、簡潔で合理的で透明性が高くて性能の高いコードを書くにはどうすればいいか、という認知的な訓練をしてきたわけです。その学習プロセスが、AIを使うことですっぽりなくなる可能性がある。

スマホで何でも検索できるようになって、電話番号を覚えなくなった。カーナビに頼るようになって、道を覚えなくなった。便利な道具に頼ることで、人間の能力が衰えるという現象は、僕たちの日常でも起きていますよね。心理学ではこれを「認知的オフローディング」と呼ぶんですが、AIはこの現象を劇的に加速させる可能性がある。

そうすると、スキルを持ったプログラマーというのが、長期的にはほとんどいなくなっていくかもしれない。そうなったとき、エンジニア集団全体としてのパフォーマンスはどうなるのか。これは結構大きな問いだと思うんです。

プログラミングと文章執筆は構造が似ている

実は、この話はプログラミングだけの問題じゃないと思っています。文章を書くことにも、すごく似た構造があるんですよね。

昔は、書き手が文章を書いて、編集者が赤入れをして、二人三脚で長い文章ができていた。書き手は自分の頭でボキャブラリーや表現を考え、正確な知識を覚えておく必要があった。

でも今、書き手がAIを使うと、その必要があまりなくなってきている。なんとなくざっくり指示をすれば、AIが厳密で正確な用語を取ってきて、文章化してくれる。便利だけど、書き手の能力はあまり鍛えられない。

どちらかというと、人間の役割は「書く」ことから「編集する」ことにシフトしていくんだと思います。AIが生成したものを、どういう観点でどういう切り口で編集するか。そこに人間の価値が出てくる。

ここで面白いのは、AIと人間の「味付け」の違いです。AIは確率的に最もありそうな出力をするんですよね。だから、AIが書いた文章って、どこか無難で、よくまとまっているんだけど、個性がない。一方、人間には「ばらつき」がある。同じテーマでも、誰が編集するかによって、まったく違う味付けになる。この「ばらつき」こそが、人間の創造的価値の源泉なんじゃないかと思います。

書かないで編集だけする人は、良い編集者になれるか

ここで新しい問いが浮かんでくるんですよね。

優れた編集能力を発揮するには、自分で書く経験がどれだけ必要なのか?

文章を書いたことがない人が、良い編集者になれるのか。コードを書いたことがない人が、AIの生成物を適切に評価できるのか。

これって、教育や人材育成の根本的な問題だと思うんです。AIネイティブ世代は、最初から書かずにAIを使う。彼らは良い編集者になれるのか?

僕自身は、AIがプログラマーに限らず、人を賢くするか・愚かにするかは、社会の「節目」の設計によって変わってくると思っています。

社会の「節目」とは、例えば入試や就活・転職や昇進などのタイミングにおける「試験」のことです。教育課程の出口である試験、就活や転職活動といった人生の節目。そこで「AIに頼らない、生身のあなたを見せてください。それによってあなたを評価します」というゲートを設けることができれば、AIに頼り切った人間ばかりが育つということにはならないと思うんですよね。むしろ、AIを使って「生身の自分を鍛えよう」という強力なインセンティブが働くことになる。

僕は、AI時代だからこそ、こうした社会の「アナログな節目設計」を強化することが大事なんじゃないかと思っています。普段の学習や仕事ではAIを活用して生産性を上げつつ、節目では自分の生身の能力が問われる。そういう設計ができれば、AIを「飼い慣らす」ことは十分可能だと思います。

ただ、その節目設計に失敗すると、認知的オフローディングの悪い面が全面に出てくる。確実に人間の頭は悪くなる。だから、この設計をどうするかが、これからの社会にとって大きな論点になってくるんだろうなと思っています。

まとめ:プログラミングの世界を観察しよう

僕がこの話を興味深いと思うのは、プログラミングの世界が「先行指標」になり得るからなんです。

AIの統合が最も早く進む領域であり、アウトプットの評価が比較的明確で(動くか動かないか、速いか遅いか)、デジタル化の進展で需要も膨大にある。すでに「若手育成の課題」が顕在化している。

つまり、プログラミングの世界で起きていることを観察すれば、文章、映像、デザイン、その他の制作活動の5年後、10年後が見えてくるかもしれない。

プログラミングの世界をベンチマークとして、AIの社会統合のあり方を吟味し続ける。長期的な面で人間の能力開発はどうなるのか、AIが完全に統合されたときに必要とされる人間の能力は何なのか。そういうことを観察していく社会的態度が、これから必要になってくるんじゃないかと思っています。

というわけで、今日は「AIはプログラマーを賢くするか、愚かにするか」というテーマで、歩きながら考えてみました。

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最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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