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今日のテーマは、医療現場でのAI活用から考える、診断と医療の未来について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、最近読んだ日経新聞の記事から考えたことを話してみようと思います。医師がどれくらい生成AIを使っているのか、ずっと気になっていたんですよね。記事を読んで色々と考えが広がったので、歩きながらゆるく話してみます。
医師の4人に1人がAIを「パートナー」と呼ぶ時代
きっかけは、12月14日の日経新聞の記事「医師も頼る生成AI、4人に1人が活用」でした。医師の約4分の1が診療中に生成AIを活用しているという調査結果が出ていて、まだそれほど多くないなと思いました。ちょっと遅れているのではなかろうか?というのが正直な印象です。
記事で紹介されていた東京大学医学部附属病院の佐藤雅哉講師の使い方が興味深くて。「60代男性、自己免疫性肝炎、79キログラム。推奨されるステロイドの初期用量を教えて」みたいな形で患者さんの情報を入力して、AIから治療方針のアドバイスをもらっているそうです。
しかも、2つのAIを使い分けている。GoogleのNotebookLMで診療ガイドラインを確認して、AnthropicのClaudeで新しい治療法がないか調べる。間違いを含む回答を参考にしてしまうリスクを下げて、新薬の情報漏れをなくすためだそうです。佐藤講師は「AIは頼れるパートナーだ」と言っていて、この言葉がすごく印象に残りました。
この使い方、実は研究者の自分とすごく似てるなと思ったんですよね。僕も論文を書くときに、自分の領域の研究論文をNotebookLMに入れて、そこから情報を引っ張ってきてもらう。NotebookLMだと引用元へのリンクもつけてくれるので、ハルシネーションの問題に引っかかるリスクが低い。複数のガイドラインを同時に読んで、目の前の患者さんに適切な治療法を出すというのは、認知的負荷がかなり高い作業なので、そこをAIでうまく補っているんだろうなと。

「強化」から「代替」へ、診断の未来
今のところ、これが医療AIの現状なんだと思います。医師という専門的なトレーニングを受けた人が、生成AIによって「オーグメンテッド」される——つまり、AIによって能力が強化・拡張されるというパターンですね。専門家がAIの力を借りることで、より高い質の仕事を短時間でできるようになる。
僕自身、研究職の中でAIを使っていてもそう感じます。でも、ここからもう1歩進むんだろうなというのも、同時に思うところなんですよね。
特にドクターの場合、検査結果や患者さんの来歴という膨大な情報がある。その中から、こういう条件でこういう症状を訴えているときに、原因が何かをパターン認識で当たりをつけていく。これが診断という行為の本質だと思うんですけど、パターン認識の話になると、やっぱりAIの方が得意なんじゃないかと。極めて多様な情報を同時に扱えて、そこから最も確率が高いパターンを発見する。人間の脳の機能だけで比較すると、AIに分がある。
もちろん、いきなりスイッチが起こるとは思っていません。生死に関わる判断をAIに負わせるのは倫理的に難しいし、技術的にも、AI単体の推論精度が人間とAIの組み合わせよりも確実に良いと言えるようになるまでは時間がかかる。でも、方向としてはそっちに向かっていくんじゃないかなと。
遥か遠い将来、「病気の診断って昔は人間がやってたらしいよ」みたいに言われる時代が来るかもしれない。タイピストがそうだったように、昔は普通に存在した専門職なんだけど、時代が変わってから振り返ると信じられない、みたいな。遥か昔は呪術師が病気の治療をしていたわけで、現代から見ると信じられないですよね。同じことが、将来の人から見た現代の医師にも言えるようになるのかもしれません。
診断が代替されたとき、医師に残る役割は?
じゃあ、診断がAIに代替されていくとして、医師には何が残るんだろう? 歩きながら、そんなことを考えていました。
よく言われるのは「患者とのコミュニケーションや信頼関係の構築は人間にしかできない」という話。でも、これ、本当にそうなのかな?というのが正直な疑問としてあります。
誤解のないように言うと、素晴らしいコミュニケーション能力を持った医師もたくさんいると思います。ただ、医療制度全体として見たときに、対話スキルが評価される仕組みになっているかというと、ちょっと疑問なんですよね。
考えてみると、医師って診断や治療行為を独占してきた立場にある。患者は「頼るしかない」状況だった。だから、構造として、コミュニケーション能力が問われなくても専門職として成立してきた面があるんじゃないかと。患者が「この先生、説明がわかりにくいな」と思っても、他に選択肢がなければそのまま通い続けるしかない。
逆に言えば、AIって治療方針の説明をすごく丁寧にできる可能性がありますよね。わかりやすく、何度でも説明してくれる。感情的にならない。患者の質問に嫌な顔をしない。そう考えると、「コミュニケーションは人間の領域」という前提自体、見直す必要があるのかもしれません。

医師・患者・医師AI・患者AIの「4者対話」へ
さらに言えば、患者側にもAIがつく未来が見えてきています。
スマートウォッチなどで常時健康データを把握するパーソナルAIが登場したらどうなるか。患者は「素人として専門家に頼る」立場から変わる。自分のデータを持ち、自分のAIと相談した上で医療にアクセスする。情報の非対称性が崩れていくんですよね。
具体的にイメージしてみると、こんな感じかもしれません。診察室で、患者が自分のスマートウォッチから取得した睡眠や心拍のデータを見せる。患者側のAIが「この2週間、睡眠の質が下がっていて、心拍変動も気になるパターンがあります」と説明する。医師側のAIがそのデータを受け取って、医師と一緒に分析する。そして、人間の医師と患者が、AIの提案を参考にしながら、最終的な治療方針を一緒に決める。
つまり、医師・患者・医師AI・患者AIの「4者対話」が、医療の新しいスタンダードになる可能性がある。従来の「医師→患者」という一方向の関係から、それぞれがAIというパートナーを持った、より対等な関係へ。医師の専門知識や経験の価値がなくなるわけではないけれど、その価値の発揮の仕方が変わっていく。
まとめ
というわけで、今日は日経新聞の医療AI記事から始まって、診断のAI代替、そして4者対話モデルという未来まで、歩きながら考えてみました。医療という最も専門性が高い領域でAIがどう使われていくか、これからも注目していきたいなと思います。
この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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