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ブログ歩きながら考える

2025.11.21

AI時代に効率化の代償として失われるもの – 歩きながら考える vol.173

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIで効率化が進む背景で色々なものが「失われている」のではないか?という件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は研究室からの帰り道、ちょっと気になることを話そうと思います。最近、AIと毎日毎日付き合っていて、思ってることがあるんですよね。効率化されて便利になったはずなのに、なんか心がすり減ってる感じがするというか。今日はこの違和感について、歩きながら考えてみたいと思います。

インプットの圧縮と「かいつまみ学習」

AIが入ってきて何が起こってるかっていうと、インプットの時間効率がものすごくよくなってるわけですよ。

研究でも何でも、アウトプットを出すためにはインプットが必要じゃないですか。先行研究を読んだり、新しい知識を学んだり、分析の手法を習得したり。でも今は、AIを使うと要点だけを一瞬で集めてこられる。全世界の情報にアクセスして、必要なものだけを取ってくる。プログラムのコードもAIが書いてくれるから、細かいところまで全部学ばなくても、内容の確認さえできればいい。

そうすると、入ってくる情報をまるっと全部自分で習得する必要はなくなって、かいつまんだところだけを理解すればいい、という感じになるわけです。

で、これって研究者の間でも「認知的オフロード」という概念で議論されていて、記憶や思考といった認知作業を外部のツール(この場合はAI)に委ねることの影響が指摘されてるんですよね。確かに効率は上がるけど、長期的にどうなのか、という問題です。

ただ、私が最近実感として強く感じているのは、そういう認知能力の話以上に、もっと別の問題なんです。

「筋トレ」のメタファー:大きな筋肉だけついた体

さっきの話を別のメタファーで言うと、こんな感じかもしれません。

たんぱく質をたくさん取って、筋トレもしっかりやってる。おかげで目に見える大きな筋肉はついた。アウトプットという成果物は、確かに以前より早く、たくさん出せるようになった。でも、なんか体のバランスが悪い気がする。体調も良くない。本当の意味で強い体になっている感じがしない。

なぜかというと、しなやかさとか、レジリエンス(回復力)とか、全身のバランスとかって、実はインナーマッスル、つまり小さな筋肉が大切なんですよね。でも、そこに意識が向いてなくて、大きな筋肉ばかり鍛えていた。

知識も同じで、その時すぐに必要な情報(大きな筋肉)だけを鍛えるのはいいんだけど、その時は重要じゃないかもしれないけど体系的に知っておくと、後でひょんなことから別のことに繋がる部分(インナーマッスル)がある。思考のしなやかさや、予期せぬ問題に対する対応力って、そういう「地味だけど大事な部分」から生まれるんじゃないか、と。

でも、AI時代の効率的なインプットでは、その部分がそぎ落とされちゃってる気がするんです。

すり減り感と意欲の低下:終わりなき焦燥感

で、もう一つ、これがもっと深刻だなと思ってるのが、心身のすり減り感なんです。

AIでこれだけ効率化されてるんだから、もっと多くのアウトプットを、もっと早く出さなきゃいけない。そういう焦燥感が、常にある。だって、人の評価って基本的にはアウトプットで決まるじゃないですか。論文の本数だったり、プロジェクトの成果だったり。だから、「これだけツールがあるんだから、とにかくアウトプットだ」ってなっちゃう。

短期的には確かに大量のアウトプットが出せるかもしれない。でも、これって長期的に持続可能なのかな?って思うんですよね。

なんというか、常にフルスロットルで走り続けてる感じ。休む暇がない。

そして、これが一番問題だなと思うのが、意欲の低下です。

アウトプットは出るんだけど、なんかこう、アウトプットを考えずに、心の赴くままに、自分で深く考えて、試行錯誤して、何かを発見する、あの喜びみたいなのが減ってる気がする。

結果として、仕事はこなせるんだけど、なんか充実感がない。すり減ってる。そういう感覚が、最近すごくあるんです。

アウトプットとインプットのバランスを取り戻す

じゃあ、どうすればいいのか。

これは正直、まだ答えが出てない問題だと思います。でも、少なくとも意識しておくべきことはあるんじゃないかな、と。

一つは、人生の中で、アウトプットを集中して出す時期と、逆にアウトプットを出すことを意図的にやめる時期っていうのを作る、ということ。常にアウトプットモードでいると、バランスが崩れる。

もう一つは、効率的なインプットだけじゃなくて、時には非効率でもいいから、体系的に学ぶ時間を持つこと。その時すぐに役立たないかもしれない知識でも、丁寧に、じっくりと。そういう「インナーマッスルを鍛える時間」が、長期的には思考のしなやかさや創造性につながるんじゃないか、と思うんです。

そして何より、深く考えるプロセスそのものに価値を見出す。そういう意識を、意図的に持つことが大事なのかもしれません。

まとめ

というわけで、今日はAI時代の「栄養の偏り」について、歩きながら考えてみました。効率化と引き換えに、私たちは何を失っているのか。そして、それをどう取り戻すのか。まだ答えは出ていないけど、少なくともこの問いを持ち続けることが大事なんじゃないかと思っています。

家に着いたので、今日はこの辺で。もしこの記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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