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今日のテーマは、外国人と日本人が分離して暮らすことの潜在的なリスクについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は家に帰りながら、最近よく考える話をシェアしようと思います。毎日新聞で読んだ、外国人が多い町についての記事が興味深くて。群馬県大泉町とか埼玉県川口市の芝園団地の話なんですけど、外国人が2割とか6割もいる町で何が起こってるのかっていう取材なんですよね。
で、記事を読んでなるほどね、と思ったのが、「対立も嫌悪もないけど、接点もない」っていう状態。日本人は日本人で集まって、外国人は外国人で集まって、ブラジル料理店に行っても客はほぼ外国人だけ。同じ町に住んでるのに、完全に別々に暮らしてる。これって、一見平和に見えるじゃないですか。でも、心理学的に見ると、実はリスク含みの状態なんじゃないかって思ったんです。
今日はこの「分離」と、分離に内在するリスクをどう乗り越えるかっていう話を、歩きながら考えてみたいと思います。
集団の分離の何がリスクなのか
まずこの手の話を聞くたびに思い出すのが、ロバーズ・ケーブ実験っていう古典的な社会心理学の実験です。1954年に心理学者のムザファー・シェリフがオクラホマ州で行った実験で、11歳の少年たちをキャンプ場に連れて行って、2つのグループに分けたんですね。
最初はそれぞれのグループが独立して活動してて、グループ内では仲良くなるんだけど、違うグループとは特に交流がない。この段階では敵対もしてないんです。でも、次の段階で競争を伴うゲームを導入すると、一気に状況が変わる。内集団バイアスが強まって、自分たちのグループへの結束は硬くなるんだけど、相手グループに対しては極めて敵対的な態度を取るようになったんです。
で、ここで重要なのは、今は何も問題が起きてないように見えても、何か資源の奪い合いみたいなことが始まると、一気に集団間対立になっちゃう可能性があるということだと思うんですよね。

資源競争が始まったら何が起こるか
じゃあ、具体的にどういう時に問題が起こるのか。
例えば、共有施設の利用。公園であっちのグループの子供たちがよくわからない遊び方をしていて、うちの子供たちが遊べないとか。あるいは、地域の集会所の利用が偏ってるとか。こういう「共有資源の奪い合い」みたいな構図が見えてくると、相互に嫌悪感が発生しやすくなるんじゃないかと思います。
もっと具体的な例で言うと、最近話題になったイスラム教徒の土葬問題。宮城県知事選でも争点になってましたよね。イスラム教では「最後の審判」で復活するために体が必要だから、火葬じゃなくて土葬をする必要があるっていう信仰がありますね。でも、日本って戦後ほぼ100%火葬になっちゃったんで、土葬できる墓地が極端に少ない。
で、これって単に「文化の違い」っていう話だけじゃなくて、土地という希少資源をめぐる競争にもなりうるわけですよ。墓地のスペースをどう確保するのか、誰がどれだけ使えるのか。こういう話になってくると、「異質に感じる」っていうレベルから、「資源を奪われる」っていう敵対的な感覚に変わる可能性がある。
分離状態っていうのは、こういう潜在的な火種を抱えてるんですよね。今は平和だけど、条件が変われば即座に対立に転化する。これが私が「危うい」って感じる理由です。
共通の上位目標が融和を生む
じゃあ、どうすればいいのか。
ロバーズ・ケーブ実験の続きがあって、シェリフは対立状態になったグループをどう融和させるかも研究したんです。で、わかったのは、共通の上位目標を設定すると、集団間の分断が穏やかになっていくってこと。例えば、キャンプ場の給水システムが故障して、両方のグループが協力して直さないといけないとか。そういう「一緒にやらないと達成できない目標」があると、自然と敵対心が薄れていくんです。
毎日新聞の記事でも、これを裏付けるような話が出てました。大泉町で外国人を雇っている経営者たちは、日本人も外国人も両方雇っていて、「会社の事業を安定的に収益を出す」っていう共通目標を持ってるわけですよね。そうすると、その経営者たちは「ダメなやつは日本人でもいるし外国人にもいる。そこは国籍に関係なく一緒だ」っていう風に言うんです。
一緒に働く、一緒に何かを達成する。これが、なんだかんだで、内集団・外集団問題や排外主義を超えていくための一番手っ取り早い方法なんじゃないかなって、すごく感じます。
あと、若い世代の話も希望があって。大泉町では1990年代から外国人が増えて、小学校では外国人が4割を占めるクラスもあるらしいんです。30代以下の世代では、「小学校のころから外国人はクラスに当然のようにいた。外国人というより、住民の一人という感覚です」って言うんですよね。一緒に勉強して、一緒に遊んで、友人関係を築く。これも一種の共通目標の共有だと思います。

社会的安定のために必要なこと
だから、社会的安定を考えると、分離状態を放置しないで、常に共通の上位目標を設定できる状態を作っておくってことが大事なんだと思います。これは「対立の解消」じゃなくて「対立の予防」なんですよね。問題が起こってから対処するんじゃなくて、問題が起こらないように、日常的に接点を持って、一緒に何かをする機会を作っておく。
職場で一緒に働くとか、地域のイベントで一緒に何かをするとか、子供たちが学校で一緒に良い学校生活を送れるように協力するとか。そういう「共通の目標」があると、国籍とか文化の違いって、意外と気にならなくなる。むしろ、「あの人は頼りになる」「あの人とは合わない」みたいな、個人としての評価になっていくんじゃないでしょうか。
というわけで、今日は外国人が多い町の話から、集団の分離と融和について考えてみました。一見平和に見える分離状態が実は危うくて、それを乗り越えるには共通の上位目標が必要だっていう話、みなさんはどう思いますか?
もしこの記事が面白いと思ったら、ぜひSNSでシェアしてください。また、「うちの地域でもこんな工夫してる」とか「こういう目標設定が効果的だった」みたいな経験があったら、コメントで教えてもらえると嬉しいです。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます。家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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