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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.10.29

角打ちが日本を救う?イギリスのパブ文化から考える社交の場 – 歩きながら考える vol.157

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、角打ちとか立ち飲み屋がこれから日本で重要になるのではないか?という酒飲みの私の希望的観測について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は家に帰る途中に、ちょっと面白い記事を読んだので、そこから考えたことを話してみようと思います。テーマは「社交の場」について。イギリスのパブ文化の話から、日本の角打ちや立ち飲み屋の可能性まで、歩きながらゆるく考えてみますね。

きっかけは、2025年10月25日の日経新聞の記事。「イギリス、パブで並ばない伝統に波紋」っていうタイトルで、イギリスのパブ文化が揺れているって話なんです。記事を読んでいるうちに、「あ、これって日本の孤独問題とか、地域の社交の場の話につながるな」って思ったんですよね。

イギリスのパブが教えてくれること

まず、イギリスのパブ文化について少し説明させてください。

イギリスのパブって、どこの町にもあるんですよ。ハイストリート(繁華街)にも、郊外の住宅街にも。僕も以前イギリスに住んでいた時、よく通ってました。パブって基本的には、カウンターでビール頼んで、立ちながら一杯飲んで、おしゃべりして帰るみたいな場所なんです。

で、何が面白いかっていうと、Wikipediaで見るとPubっていうのはpublic houseの略って書いてあるんですよね。文字通り「公共の家」。18世紀から19世紀にかけて、地域の社交の場として発展してきた歴史があるそうです。

イギリスって、血縁集団を中心として生活しているわけではなくて、個人主義の文化ですよね。新しい人と出会って、気が合えば友達になればいいし、ちょっと違うなと思ったらまた別の人と話す。関係流動性が高いって言われるんですけど、そういう文化なんですよね。

その中で、パブっていうのは、地域で新しい人と出会って、軽く話をして、つながりを作っていく場所として、すごくよく機能してたんだと思います。

正直ですね、パブで現地の人たちが話す英語って、お酒も入ってめちゃくちゃ早くなるんで、僕はあんまり話が理解できず打ち解けられなかったんですけど(笑)、今考えると、あれは地域の人たちにとって本当に大事な場所だったんだなって思います。

ところが、今、その文化が揺れているようなんです。

日経新聞の記事によると、パブの数は2024年におよそ4万5000店と前年から約350店減少しているとのこと。毎日1店舗ずつ消えている計算だそうです。家賃や人件費の高騰、若年層のアルコール離れなどが原因で、経営が厳しくなっているんですね。

さらに面白いのが、「並ばない」という伝統が揺れているっていう話。

伝統的にイギリスのパブでは、カウンターで列を作らずに、横に広がって待つのが普通だったそうなんです。一見非効率に見えますよね。でも、これにはちゃんと理由があって、数百年の歴史を持つパブは店が狭いし、酔った客が整然と列を作るのは難しい。それに、列ができると店内を移動しにくくなって、社交場としての意味合いが薄れちゃうんです。

記事で紹介されていたロンドン在住の男性客の言葉が印象的でした。「列がなければ隣の知らない人と話しやすいし、仲良くなれば酒をおごりあったりできる」って。

つまり、「並ばない」ことが、知らない人と自然に会話するきっかけを作っていたわけです。効率性よりも社交性を優先する、文化的な選択だったんですね。

ところが、コロナ禍以降、若い世代や外国人観光客を中心に、一列に並ぶ光景が見られるようになって、「伝統が崩れる」って反発が起きているそうです。調査によると、40%の人が「一列に並んで待つべきだ」と回答し、39%が「カウンターの周りで待つべきだ」と回答して、意見が真っ二つに割れているとのこと。

社会に根付いているパブ文化ですが、グローバル化と昨今の経済状況の中で、なかなか難しい状態になっているようですね。

日本に必要な「軽く集える場所」

一方、日本はどうなっているかというと、これは今がちょうど何か新しい動きというか形態が出てくる可能性を僕は感じるんですよね。単なる酒飲みの希望的観測かもしれませんが(笑)。

日本も、個人主義化が進んでるんですよね。昔みたいに会社や地域の集団にずっと所属して、そこでの人間関係だけで生きていくっていうのが、だんだん普通ではなくなってきている。転職も増えてるし、地域のつながりも薄れてる。

そういう中で、自分が所属してるコミュニティとは違う人たちと、軽く出会って、話をして、気が合えばつながりを作っていけるような場所が必要なんだと思います。

で、僕が思うのは、日本の角打ちとか立ち飲み屋って、まさにそういう場所になり得るんじゃないかってことです。

僕、立ち飲みがすごく好きなんですよ。着席の居酒屋と違って、立ち飲みって動くじゃないですか。だから、知らない人と話す頻度とか回数が、全然違うんですよね。

昔だったら、和民とか魚民みたいな居酒屋チェーンに、みんなで行って着席して飲み会。一人でふらっと居酒屋なんて行かないですよね。でも、角打ちとか立ち飲み屋っていうのは、一人でふらっと行って、知らない人と話すっていう場所なんです。

知らない人と話すのって、性格によると思うんですけど、僕なんて普段は別にそんな、いきなり知らない人と話したいっていうタイプじゃないんですよ。でも、アルコールが少し入ると少し緩むんですよね。だから、知らない人と話をしたり、新しい話を聞いたりっていうのがすごく楽しい。

これって、イギリスのパブとまったく同じ機能だと思うんです。

しかも、立ち飲みのいいところは、流動性が高いこと。気が合う人がいればそこで話し込めばいいし、ちょっと違うなと思ったら、場所を変えたり、別の人のところに移動したりできる。飲み会みたいに固定的な席に座らされて、隣の人とずっと話さなきゃいけないっていう不自由さがない。

これって、個人主義化が進む社会において、すごく重要な機能だと思うんですよね。軽く信頼して、カジュアルにコミュニケーションを取って、自分に合う人を見つけていく。所属コミュニティとは違う考え方の人とも出会える。

アルコールの新しい楽しみ方

ここまで話すと、「でも、アルコール飲めない人はどうするんだ」って思いますよね。確かに、若年層のアルコール離れは進んでるし、アルコールを飲まない人も一定数いる。

でも、最近のアルコール文化って、変わってきてると思うんですよ。

日本のお酒って、すごく良くなってきてますよね。日本酒や焼酎など。いろんな種類があって、各蔵元がすごく頑張ってる。それ以外にも、ボタニカルジンとか、クラフトビールとか、ワインもそうですけど、大量に飲んで酔っ払うっていう目的もあるのかもしれませんが、そうではなくて、アルコールの良さもうまく使いながら美味しく飲みつつ知識の共有を楽しむっていう、そういう楽しみ方が広がってる。

見てると、若年層全体的には確かにアルコールの消費は減ってるんだと思うんですけど、そういう国内の日本酒とか焼酎とかワインやビールなどのその他のお酒にすごく着目して調べて、その話を話の種として、いろんな人とコミュニケーションを取って、おしゃれにカジュアルにアルコールを楽しむっていう若い世代も、結構いるなと思うんです。

もちろん、必ずしもアルコールじゃなくてもいいんですよ。クラフトコーラでも、ノンアルコールジンでもお茶でも何でもなんでもいい。なんなら、仕事帰りに寄ることが多いとすると、立ちながら食べられる簡単な夜ごはんみたいなものでも良いのかもしれません。アルコールを飲めない人も含めて、気楽に、流動性高く、いろんな人と知り合える場所っていうのが、日本にはあるといいなと思います。

まとめ:流動性の高い社交の場を

というわけで、今日はイギリスのパブから始まって、日本の角打ちや立ち飲み文化の可能性まで、歩きながら考えてみました。

イギリスのパブが、家族や血縁を超えた社交の装置として機能してきたように、日本でも角打ちとか立ち飲み文化がそういう役割を果たせるんじゃないかな、と思うんです。

日本も個人主義化が進む中で、固定的なコミュニティだけでは人々が孤立しちゃう。関係の流動性が高い場所、所属コミュニティとは違う考え方の人と出会える場所が、これからもっと重要になってくる。

おしゃれな角打ちとか、日本酒バーとか、そういう場所がもっと増えて、地域の中に「軽く集える場所」ができてくるといいなと思います。

もし、この記事を読んで「うちの近所にこんないい立ち飲み屋があるよ」とか「こういう社交の場があったらいいな」みたいなアイデアがあったら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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