Blog
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.9.25
定年後の孤独を「プランター菜園」が救う? – 歩きながら考える vol.134
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、エディブルランドスケープという家庭菜園を通じたコミュニティ形成について。のシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は家に帰りながら、ちょっと面白い記事について考えたことを話してみようと思います。9月23日の日経新聞で見かけた「エディブルランドスケープ」っていう言葉。食べられる景観?なんだそれ?って思ったんですけど、読んでいくうちに、これ、もしかしたら定年後の男性の孤独問題を解決する鍵になるんじゃないか、って思えてきたんです。歩きながら、ゆるく考えてみますね。
プランター一つで始まる、食べられる街づくり
まず、エディブルランドスケープって何かっていうと、簡単に言えば「食べられる植物を使った景観づくり」のことなんです。
記事で紹介されていたのは、千葉県松戸市の事例。松戸駅から千葉大学松戸キャンパスまでの沿道で、共通のロゴが入った黒いプランターを各家庭の道路側に置いて、トマトとか青じそとか、食べられる野菜やハーブを育てているんだそうです。これ、千葉大学の大学院生だった江口亜維子さんが研究室で始めたプロジェクトらしいんですけど、最初は7軒だったのが、今では約60軒まで広がっているとか。
で、面白いのが、ただ野菜を育てるだけじゃないんですよ。プランターで育てた収穫物を持ち寄って食べる「共食活動」には、子どもから90代の高齢者まで20〜30人が参加。年2回の植え替え時期には、余った種や苗を交換するイベントもあるそうです。
埼玉県北本市でも、ポラスグループが全22棟の分譲住宅すべてに家庭菜園スペースを設けて、同じような取り組みをしているみたいですね。

定年後の男性が陥る「役割喪失」と「ネットワーク消失」のダブルパンチ
ここで、ちょっと話が飛ぶように思えるかもしれませんが、定年後の男性の孤独について考えてみたいんです。
実は、定年後の男性は女性に比べて孤独になりやすいって言われているんですよ。なぜかっていうと、男性って「稼ぐ」という社会的役割を通じて自分の存在価値を確認してきた部分が大きいから。定年になると、その役割がいきなりなくなっちゃう。
しかも、人生の中で仕事に費やしている時間が非常に長いので、人間関係がどうしても職場に偏ってしまうのは、ある意味しょうがない話なんですよね。男性の性役割が「仕事をしてお金を稼ぐこと」になっている以上、こうなるのはとても自然なことなんです。だからこそ、仕事の文脈がなくなる定年になると、途端にネットワークが縮小してしまうという現象が見られる。
会社を離れるといきなりソーシャルキャピタル(社会関係資本)がなくなり、家庭の中でも孤立して孤独になるというパターンが生まれやすいんです。
野菜作りが生み出す「自己効力感」と「つながり」の好循環
で、ここでエディブルランドスケープの話に戻るんですけど、これがなぜ定年後の孤独対策になり得るのか。
まず一つ目は、自己効力感の向上です。自己効力感っていうのは、「自分ならできる」「きっとうまくいく」と思える認知状態のこと。スタンフォード大学のアルバート・バンデューラが提唱した概念ですね。
エディブルランドスケープで食べられる野菜を作るっていうのは、1年のサイクルの中で自分の努力と成果の結果を確認することができるんです。今年はトマトがよく育った、来年はもっと日当たりのいい場所に移動してみよう、とか。そのサイクルを次の年はどうしようかと考えることができます。
しかも、近所の人から「この肥料がいいよ」とか「水やりはこのタイミングで」みたいなアドバイスを得て改善する機会もある。継続的に改善させたり、より良くしたりするチャンスが多いんです。こういう成功体験を経ることで、野菜作りだけじゃなくて、より一般的な他のことに関しても「やればできるんじゃないか」っていう感覚を継続することができるんじゃないかと思うんです。
二つ目は、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の形成です。アメリカの政治学者ロバート・パットナムが提唱した概念で、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会的なつながりを資本として捉える考え方。
プランターという共通の話題があることで、近所の人との会話が生まれる。「トマトがよく育ってますね」「この品種は育てやすいですよ」みたいな、ちょっとした立ち話から始まる関係性。ソーシャルキャピタルが豊かな人ほど健康状態が良く、幸福感も高いという話もあります。

まとめ:プランター一つから始める「小さな革命」
というわけで、今日はエディブルランドスケープから始まって、定年後の男性の孤独問題まで、歩きながら考えてみました。
野菜を育てるっていう新しい役割を得ることで自己効力感を保ち、プランターを通じた近所付き合いでソーシャルキャピタルを形成する。大げさな話じゃなくて、プランター一つから始められる「小さな革命」なんじゃないかと思うんです。
自分の住んでいる地域でも、こんな活動があったら参加してみたいなって思いました。
もしこの記事を読んで「うちの地域でもやってるよ」みたいな話があったら、ぜひ教えてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
関連ブログ Related Blog
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ女性性・男性性(MAS)歩きながら考える
2025.5.7
男性の孤独を救うのはやっぱり「仕事」?中高年のおてつたび効果 – 歩きながら考える vol.36
今日のテーマは、中高年男性の「孤独」問題に対し、「おてつたび」のような仕事のマッチングサービスが解決策になるのではないかという考察について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデ... more
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ不確実性の回避(UAI)人生の楽しみ方(IVR)個人主義(IDV)女性性・男性性(MAS)権力格差(PDI)歩きながら考える短期・長期志向(LTO)
2025.5.28
定年後の迷いを北欧でリセット:中高年男性に必要なショック療法 – 歩きながら考える vol.51
今日のテーマは「定年後の男性のライフスタイルシフト」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐ... more
2020.5.12
「ほうれんそう」の本当の意味|昭和に学ぶ経営学
ほうれんそう運動を知っていますか? 先輩社員が後輩社員に向かって「ほうれんそう、しっかりやってくれよ!」ということがあります。報告・連絡・相談の最初の一字をとって「ほうれんそう」。 今年(2020年)は新型コロナウィルス... more