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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.10.27
AI時代の日米格差:若者の失業率は低いのに、日本企業が危ないと思う理由 – 歩きながら考える vol.155
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、AIによる若年失業率の日米差の今後について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
アメリカの若者が選ぶ「新しいキャリア」
こんにちは。今日はランチの時間を使って、ちょっと気になることを話したいと思います。今朝、日経新聞を読んでいたら、「AI席巻の米国、ブルーカラーを選ぶ若者たち」という記事が出ているのを見て、「ああ、またこの話か」と思いつつも、改めて日本への影響を考えてみたくなったんですよね。歩きながら、この話について考えてみたいと思います。
記事によると、アメリカでZ世代の就職先が変わりつつあるそうです。2025年春、配管工や大工などの技術を習得する職業訓練校の入学者数が前年から12%増えた一方で、大学入学者の伸びは4%にとどまったと。この動き自体は理解できるんですが、データとして明確に出てきたのは興味深いなと思います。
背景にあるのは、若年層の失業率の上昇とのこと。20歳から24歳に限ると、2024年12月には7.5%だった失業率が、2025年8月には9.2%まで上昇。米国全体の失業率は4%台前半で安定してるのに、大卒前後の若者だけが苦戦してる。

ホワイトカラーの「入口」が消えていく
AIがホワイトカラーの初級職を奪っていくという話は、もう何度も語られていることです。米フォード・モーターのジム・ファーリーCEOは「AIによってホワイトカラー職の雇用が半減する」と予想していますし、スタンフォード大学の研究では、ソフトウェア開発の分野で22〜25歳の雇用が2022年後半のピーク時から2025年7月までに約20%減ったという試算も出ているそうです。
この状況で一番影響を受けるのは若年層だと言われています。というのも、アメリカは基本的にジョブ型雇用の設計になっているからです。ポジションを先に作って、そのポジションに必要なスキルを持った人を雇う。ここで、AIが進化すると、データを集めたり、書類を作ったり、取りまとめをしたりっていう初級のホワイトカラーのポジションが、そもそもクローズになってしまいますね。ポジションがないから、雇わない。シンプルな話です。
若者にとって、これは深刻です。だって、キャリアの第一歩が消えちゃうわけですから。組織に入って、そこから経験を積んで、ステップアップしていく——そのスタート地点がなくなる。だから、「じゃあ、AIに代替されにくい仕事を選ぼう」ってことで、ブルーカラーにシフトしてるんですね。ある意味、すごく合理的な判断だと思います。
日本では問題が「見えない」ことが問題
じゃあ、日本ではどうなるのか。ここが今日、一番話したいポイントなんです。
結論から言うと、日本ではアメリカみたいに若年失業率が急上昇するっていう問題は、すぐには起きないと思います。なぜなら、日本の雇用システムは依然としてメンバーシップ型が多いから。新卒を一括で採用して、組織の中で中長期的に教育していく。その時々に必要な仕事を経験してもらいながら、人材を育てるっていうモデルですよね。
だから、「AIでポジションがなくなったから若者を雇わない」っていう話には、すぐにはならない。表面的には、若年失業率は低いままかもしれません。
でも、ここに落とし穴があると思います。雇っちゃったから、仕事を与えなきゃいけない。本当はAIでできることなのに、「目の前に人がいるから」「教育のために必要だから」って理由で、人にやらせ続ける。結果として、AI化が進まない。
これは本当にまずいと思います。なぜなら、仕事の効率性が上がらないからです。アメリカや他の国々の企業がAIをフル活用して効率化を進めてる間に、日本企業はAIで事足りる仕事を人がやり続ける。企業競争力にものすごい差がつく。で、回り回って、長期的には職そのものが消滅するんじゃないかと思います。そうなったら結局若年層を雇えないので、結局日本でも仕事の数が減って困るということが起こるんじゃないでしょうか。
特に、官公庁とか大きな組織ですよね。ブルシットジョブ——意味のない仕事をいかにAIでなくしていくかっていうのは、日本の経済全体、産業界の生産性を上げるためのすごく大事なポイントだと思うんです。でも、雇用システムがそれを阻害してしまうとしたら、本当にもったいない。

若手は「AIの使い手」
じゃあ、どうすればいいのか。これ、そんなシンプルな話じゃないんですけど、考えてみたいと思います。
基本的には、初級の仕事は若手を雇ったとしても、基本的にAIにやらせるべきだと思います。で、若手の仕事は、AIを使いながらどれだけの量のアウトプットを出せるかとか、AIが出してきたアウトプットを自分なりに修正したり、付加価値を加えてさらに良い状態にして出していく、そういう仕事に変形していくのが基本になると思います。
それによって、その上のマネジメントの仕事も変わるはずなんですよね。若手を教育したり指導するマネジメントの仕事も変わるはずだし、マネジメントに必要なスキルセットというのも、基本はAIをベースにしたものに変わっていくはずだと思います。
要は、全社的なAIによる仕事のオペレーションのトランスフォーメーションを一歩も遅らせることなく、初級の仕事も、仮に全くの新人を雇ったとしても、何らかの付加価値を出すことを求めるような仕事の体系を作っていくということになるんだと思います。
おそらく若い世代は、それに適した経験を積んで、これから会社に入ってくると思います。大学の授業であるとか、高校・大学の授業でAIを使うことが当たり前という状態で、課題を作ったりレポートを書いたりということになるはずなので、その流れをそのまま企業内でも継続するべきだと思うんです。もし大学側の教育がそういったAIベース、AIセントリックなものになってないのだとしたら、それは大学側の問題で、改革が必要だと思います。
まとめ:今、問題が見えないことが最大の問題
というわけで、今日はアメリカの若者のキャリア選択から始まって、日本の雇用システムが抱える見えない危機について、歩きながら考えてみました。
アメリカでは若年失業率が上がって、問題が可視化されている。でも日本では、メンバーシップ型雇用のおかげで表面的には問題が見えない。これ、実は最大の問題なんじゃないかって思うんです。問題が見えないまま、AI化が遅れて、企業競争力が低下して、気づいたときには手遅れになってる——そんなシナリオを避けるために、今から動かないといけない。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。ランチ休憩が終わったので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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