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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.10.24

ロボットが奪う60万人の雇用、日米で意味が真逆な理由 – 歩きながら考える vol.154

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、Amazonのロボット化計画から見える日米の未来について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、ちょっと衝撃的なニュースについて考えてみたいと思います。毎日新聞の10月22日の記事で、アメリカのAmazonが2033年までに60万人超の新規雇用をロボットに置き換える計画だという報道が出てました。元々はニューヨークタイムズの記事なんですけど、これ、読んでてすごく考えさせられたんですよね。歩きながら、ゆるく話してみようと思います。

Amazonが描く「人間のいない倉庫」

まず、この計画の規模感にびっくりした話。Amazonは今、アメリカだけで約120万人の従業員を抱えてるんですけど、これ、2018年からの5年間で3倍以上に増えてるんですね。コロナでオンラインショッピングが一気に拡大したのが大きな要因でしょうか。

で、Amazonの計画だと、2033年までに販売量は倍増させるんだけど、人件費は抑制できる見込みになってる。具体的には、2027年までに本来必要となる16万人以上の新規雇用を回避できて、さらにロボット化を加速させれば、2033年までに避けられる新規雇用は60万人以上になるという。つまり、売り上げは倍になるけど、従業員は同じようなペースでは増えない。主に倉庫従業員の割合が減っていくということみたいです。

アメリカにとっての「嫌な話」、日本にとっての「救い」

ここからが今日の本題なんですけど、このニュース、多分アメリカと日本では全然意味が違うと思うんですよね。

アメリカだと、これ、労働者階層にとってはかなり怖い話だと思うんですよ。なんでかっていうと、人口増えてるから。職がなくなるっていうのは、すごい脅威なわけです。しかも、倉庫のピッキングとか梱包作業って、昔から「マックジョブ」なんて言い方もされますけど、雇用のセーフティーネットみたいなところがあるじゃないですか。

今の仕事が厳しくなったとしても、とりあえずマクドナルドで働いたり、倉庫で働いたりすれば、低賃金かもしれないけど生活の足しにはなる。なんとか凌げる。そういう最後の砦みたいな仕事だったわけです。労働条件は決して良くないんだと思うんですけど、それでもセーフティーネットとして機能してた。

別の報道では、ホワイトカラーの仕事がAIに奪われるから、ホワイトカラーがブルーカラーにキャリアチェンジすることを考え始めてるっていう話も出てましたけど、そのブルーカラーの仕事ですらロボットに置き換わっちゃうと。職がなくなる恐怖っていうのは、政治的な動きに直結しますよね。排外主義的に、移民が入ってくるなんてとんでもないっていう流れに繋がりやすいんじゃないかなと思います。

一方、日本は全然話が違う。日本の場合、そもそも労働力が足りないんですよね。このまま行くと、エッセンシャルワークで大幅な労働力不足が発生するって言われてます。普通に考えると、移民を入れないと仕事が回らない。でも、賃金水準が他の先進国と比べてそんなに高くなくなっちゃったんで、移民の方々に日本を選んでもらうのが難しくなってきてる。他の国の方が待遇いいんじゃないかって。

排外主義的な流れっていうのが今、政治的にも出てますよね。SNS見ても、外国人のマナーが悪いとか、外国人が犯罪してるっていうのを怖がってる人、危機感を持ってる人が多い。

そうすると、雇用がロボットによってオートメーション化するっていうのは、日本にとっては逆に、その排外主義的な脅威を減らす要素になると思うんですよね。積極的に導入して、労働力不足をロボットで補うっていう話にした方が良いと思います。同じロボット化というニュースなのに、アメリカでは嫌な話、日本では救いになるっていう、この対比が面白いなと。

株を持つ者と持たない者の格差拡大

ただ、ここで考えなきゃいけないのが、ロボット化が進むことの別の側面です。

コスト削減をして、人件費を削減して、だけど売り上げを伸ばすってことは、単純に言うと営業利益が増えるってことですよね。で、それはおそらく株主に還元されていく。新規投資もあるでしょうけど、結局長期的には企業価値が上がり株主への還元って話になるんだと思います。

つまり、株を持ってる人と持ってない人の格差が、どんどん広がっていくってことですよ、これ。

だからこそ、いかにして株を持つ側に回るかっていうのが大事で。取引所で売ってる一般の大企業の株を買うっていうのでもいいんだけど、それ以外でも、資本主義である以上、資本側に回るっていうことが人生を大きく変える。多くの人が何らかの形で株を持つような社会になった方がいいし、株を持てない人に対しては格差が広がってしまうんで、どうケアするかっていうのを本当に考えた方がいいと思うんです。

実際、この10年ぐらいで株を買ってた人と、全く株なんて持ってませんっていう人では、生活の苦しさの実感が全然違うと思うんですよね。

株を持ってる人にとっては、企業も株主への還元をすごく考える経営をするようになったんで、配当金が出たり、自社株買いで株価が上がったりして、含み益が出てる。だから生活の実感として「苦しくなったな」っていう感覚はほとんど無いと思うんですよ。

でも、株を持ってない人にとっては、足元の物価はどんどん上がってるし、食品なんてすごく値上がりしてるじゃないですか。そういうの考えると、厳しいなって思うわけです。で、そういう「厳しいな」っていう思いを放っておくと、必ず政治的な難しさに繋がっちゃう。だから、どうするかっていうのを本当に考えた方がいいんじゃないかなと思います。

まとめ:同じ技術、違う未来

というわけで、今日はAmazonのロボット化計画から、日米の未来の違いについて考えてみました。同じロボット化という技術革新が、人口が増えている国では雇用喪失の恐怖として、人口が減っている国では労働力不足の解決策として、全く逆の意味を持つ。この対比、すごく興味深いなと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。目的地に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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