Blog
今日のテーマは、AI活用の事例が、地方の中小の会社でも進みつつあることが報道され始めている件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は駅まで歩きながら、最近読んだ日経新聞の記事から考えたことを話してみようと思います。愛知県の自動車部品メーカーが「AI部長」を全部長に導入したっていう話なんですけど、これ、日本のAI活用を考える上でなかなか示唆的だなと思って。中小企業から始まるAI活用について、ゆるく考えてみます。
中小企業のAI事例が報じられ始めた面白さ
最近のAI活用のニュースを見てると、大手企業からは様々な例が記事で報告されてますよね。
キリンホールディングスの「AI役員CoreMate」は、過去10年分の議事録を学習させた12人のAI人格が経営会議で意見を出すっていう話だし、マッキンゼーは数千のAIエージェントを配備してて、将来的にはコンサルタント1人に1つのAIエージェントがつくような世界を目指してる。博報堂の「細田AI」も、CCOの思考をなぞるツールを作ったり。
こういう大手企業の事例はよく目にするようになりました。
でも、AI活用は別に大手企業のほうが進めやすいというわけでもないですね。2025年8月20日の日経新聞を見たら、愛知県碧南市の旭鉄工っていう自動車部品メーカーが、部長職9人全員に自分のクローンAIを作らせたっていうんです。
記事では、西尾工場の犬塚部長のAIクローン「AI犬塚」が紹介されてました。生産ラインのデータをリアルタイムで監視して、「サイクルタイムが悪化。標準作業を再確認せよ」って指示を出したりするそうです。
中小企業の例が報じられ始めたっていうのが、結構面白いんじゃないかと思うんです。
考えてみれば、AIを始める技術的ハードルってそれほど高くないんですよね。言語モデルはどのみちChatGPTなどを使うわけで、今必要なのは、どのような業務にどのように活用すると効果的かという具体的な実装のアイデアと、適切にAIを使う人間側のトレーニングだと思います。大手だから環境が整ってるとか、中小だと難しいとか、そういうことは本質的にはない。だから、中小からできても全然おかしくなかったんだけど、実際にこういう例が出てきて記事になったっていうのが面白い。

トップが面白がることから始まる、中小のAI革命
で、この旭鉄工の事例で特に注目したいのが、木村社長が最初に自分のクローン「AIキムテツ」を作ったってところだと思いました。
中小企業って、社長の影響力がめちゃくちゃ大きいじゃないですか。社長がAIに関して旗振りをして、面白がって使い方を探索していくと、「じゃあ、同じようなことを各部で考えてみてくれ」って自然に下に落ちていく。大企業だと稟議だ承認だって時間かかるところが、中小だとトップの一声でサクッと動ける。
AIへの興味関心って人それぞれだけど、いずれみんな使うことになるのは間違いない。だったら、もう今のうちにフルスロットルで使い込んでいった方が、確実にアドバンテージになりますよね。早く始めれば始めるほど、より進化したAI活用ができるようになる。
AI活用にはメリットだけじゃなくてリスクも沢山あるので、人間側の活用能力を高める意味でも、なるべく早く、多くの経験を積んでいくことが大事だと思います。
その意味で、トップが面白がって使うっていうのは、すごく大事なポイントなんじゃないかなと。
文書作成という「ブルシットジョブ」からの解放
ここでちょっと、日本企業の特徴とAIの相性について考えてみたいんですけど。
日本企業の「文書主義」って、よく問題になりますよね。稟議書とか報告書とか、とにかく文書が多い。間違いがないように物事を進めていくためには文書主義になるのは当たり前。
ただ問題は、文書を作るのにめちゃくちゃ時間がかかること。本来やるべき仕事の時間が、文書作成に圧迫されるっていう本末転倒な状況。つまり、文書作成が完全にブルシットジョブ化してたわけです。
でも、ここにAIが入ってきたらどうなるか。報告書の下書きをAIが作ってくれて、人間はチェックして修正するだけ。今まで3時間かかってた作業が30分で終わる。これ、ゲームチェンジャーもいいとこじゃないですか。
空いた2時間半を本来の価値創造に使えるようになったら、日本企業の生産性って劇的に上がる可能性がある。文書主義という「弱み」が、AIによって一気に解決されるかもしれない。

職人の暗黙知を組織の財産に変えるAI
もう一つ、日本企業の強みになりそうなのが「職人文化」とAIの組み合わせ。
旭鉄工の記事で印象的だったのが、山本しほりさんが作った「AIちゃんしほ」。作業動画を分析して、標準作業にどれくらい沿っているかを判定するAIなんですけど、これ、まさに職人芸の形式知化なんですよね。
日本の製造業って、熟練工の暗黙知に頼ってる部分がすごく大きい。「この音がしたら調整が必要」とか「この手触りだと不良品」みたいな、言葉にできない感覚。でも、それって完全に属人化してて、その人が辞めたら終わり。
AIを使えば、こういう暗黙知を組織全体で共有できるようになる可能性がある。完全に職人の技や判断を再現することは出来ないかもしれないけど、他の人への技術伝承では大きな力になるかもしれない。
人手不足や技術の伝承に悩む日本企業にとって、これってものすごく重要な話だと思いません?

まとめ:中小企業から広がる、日本型AI活用の可能性
というわけで、今日は愛知の部品メーカーのAI部長の話から、日本型AI活用の可能性について考えてみました。
AIを始める技術的ハードルはそれほど高くない。だから中小企業でもできるし、実際にやり始めてる。トップが率先して面白がり、文書作成の負担を軽減し、職人芸を横展開する。日本企業らしいAI活用の形が見えてきた気がします。
日本人って、具体的で真似しやすい成功事例があると、みんなでワーッと動き出すところがあるから、中小企業の生産性を上げる重要なドライバーとしてAIが実装されていくと良いと思います。
もしこの記事が面白いと思ったら、ぜひSNSでシェアしてコメントで教えてください。みなさんの会社のAI活用事例も聞いてみたいです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。駅に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
関連ブログ Related Blog
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ個人主義(IDV)歩きながら考える
2025.8.6
AIが経営会議に入ったら、日本の会社はどう変わるか – 歩きながら考える vol.100
今回は、キリンの経営会議にAI役員が参加するようになった話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる... more
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ不確実性の回避(UAI)歩きながら考える組織文化・組織文化診断モデル
2025.6.24
AIが官僚の仕事を救う?文書主義とLLMの意外な相性 – 歩きながら考える vol.70
今日は、AIは官僚の仕事と非常に相性が良いのではないか?という話について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好... more
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.8.1
AIで頭が良くなる人、悪くなる人:認知能力の二極化について考えた話 – 歩きながら考える vol.97
今回は、AIを使うことで認知能力が落ちるリスクにどう対処するかということについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや... more