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2019.4.30

企業人もメンタルトレーニングの技術を学ぶべき

渡邉 寧 | 株式会社かえる代表取締役

心の状態が勝敗に繋がるスポーツの世界

ちょっと古い本ですが、メンタルトレーニングの古典、ジョン・セイヤーとクリストファー・コノリーの「スポーティング・ボディマインド」の読後メモ。1984年出版の古い本ですが、彼らのアプローチは英国サッカーチームであるトッテナム・ホットスパーでも採用されていたということで興味を持ちました。


私はサッカーのJ2の試合を良く観るのですが、応援しているチームが中々勝てずに苦しんでいます。個々人の選手の力は高いと言われているのですがチームとして結果を出すことが出来ていません。この間スタジアムで観た試合では、キックオフから明らかに複数選手の動きが鈍く、普段なら絶対しないであろう凡ミスで失点していました。

選手個人個人の日々のバイオリズムがあるので「たまたま」なのかもしれませんが、いずれにしても、選手1人1人のコンディションはチームコンディションに影響します。その為、昔からスポーツ競技において「いかに心をコントロールするか」は関心の高いテーマで、メンタルトレーニングの方法論が考えられてきました。

この「スポーティング・ボディマインド」は、スポーツ選手が直面する不安集中力の欠如リラックス出来ない、またプレッシャーで良いプレーが出来ない、と言った問題に対し具体的な対処法を示したもので参考になります。

企業で働く職業人はなぜウォームアップをしないのか?

「スポーティング・ボディ・マインド」では例えば、ウォームアップを行う目的は筋肉を伸ばしたり温めたりするだけではないと指摘しています。ウォームアップを行う目的は精神的にも情緒的にも準備をすることで、ウォームアップを行うことで「同調」を深めるのが目的であると述べています。

最近の言い方だと「アライメント(調整)」に当たるのではないかと思いますが、場所・身体・周囲の人・チームと言った物理的環境と自分自身のアライメントを取り、同時に目標・行動とのアライメントを取ることの必要性と有効性が述べられています。

私は常々疑問なのですが、企業で働く人で準備運動をしてから仕事を始める人ってどれくらいいるのでしょうか?私自身、準備運動している人を見たことがありませんし、あまりそういう話を聞いたこともありません。

最近の言い方だと「ルーティン」ということになりますが、決まったルーティンをすることなく、いきなりPCやタブレット/スマホの電源を入れてメールやメッセージの処理をし始める人が結構います。

スポーツ競技で準備運動をせずに競技に入ったらパフォーマンスは上がりませんし、最悪怪我をします。野球選手にとっては毎日の試合でパフォーマンスを最大限に出すことが求められます。企業で働く人にとっては、毎日の仕事が野球選手の試合のようなものです。1日1日の試合(仕事)で最大限のパフォーマンスを出すのが本来の職業人の姿なのだと思います。

試合に入る前に入念な準備運動をすることは野球選手であったら当たり前でしょう。個人としての生産性を上げたいと思うのであれば、企業で働く職業人も自分なりの準備運動/ルーティンを行ってから仕事を始めるべきなのではないかと思います。

身体と同様、心も道具である

2000年代に入ってから、ヨガの人気が継続的に伸びているそうです。ヨガをやっていると「心は道具である」ということが言われます。ヨガというと、難しいポーズを取る体操の一種だと思う方が大半だと思いますが、身体を動かすことは、ヨガの一部にすぎません。

元々は快適に座るための準備運動という位置づけだったようですが、現代のヨガは身体をコントロールすることを通じて、心をコントロールすることを学ぶ手段という位置づけになっているように思います。よって身体を動かさないヨガと言うものもあり、例えば呼吸法もヨガの一つだし、そうした身体的なものは一切なく「ヨガ的に生きる」というここともヨガの一つです。

「心」と言われると、多くの人は何か精神的なものをイメージすると思いますが、心には物理的な側面があります。要はのことです。脳は、心臓等の内臓と同様、人の身体の器官の一つです。ヨガにおける「心」とは、この物理的な身体器官である脳の機能として現れるもののことを指しており、一般にイメージされる精神的な営みは「魂」として区別して考えられます。

「身体」「心」「魂」の3つを一旦分離して考えて、取り扱いが簡単な順番(すなわち、最初は身体、次に心)で鍛えていこうというのがヨガの練習で行っていることです。

メンタルトレーニングとは、この道具としての「心」の状態を整えるためのルーティーンです。集中力を高め、不安を軽減させ、高いパフォーマンスを出す心の状態を整えるために有効な働きかけを自分自身の心に対して行っていく。それは極めて現実的な取り組みであって、精神性とは関係ありません。脳の中の状態はリアルタイムで視覚化するのが難しいので、筋肉的な準備運動と違い外からは実施しているのかどうかも分かりにくいものですが、確実に効果があります。

道具としての心を整えるルーティーンは早い段階で学ぶべき

豊島岡女子学園中学校・高等学校という名門校がありますが、この学校では8時15分から5分間「運針」という時間があるそうです。(出所「東大合格2位の女子高で毎朝裁縫をする理由」)

1人1人が1メートルの白い布に赤い糸で針目をそろえて縫っていき、端から端まで縫い終わると、そのまま糸を引き抜いてまた初めから縫いなおすのだそうです。その間全員無言。

この取り組みを聞いた時、「ああ、これは瞑想だな」と思ったのですが校長先生自身も「運針」を「5分間の禅」と表現しているそうです。

自分にとってどのようなことが「準備運動」としてしっくりくるかは人によって異なります。アシュタンガヨガの練習も毎日同じことを粛々と行います。「運針」と同じくこれも1日を始めるための準備運動のようなものです。

個人的には朝に英語の音読をすると、頭の働きが良くなるように感じています。10分くらいでも十分なのですが、英語のテキストを声を出して読む。20分時間があれば、自分の音読を録音して聞き直してみる。そして発音やアクセントがおかしいところを意識して、修正してもう一度音読してみる。こうした音読が仕事を始める前の丁度良い準備運動になっています。

準備運動の方法は何でも良いのですが、こうしたルーティンを人生のなるべく早いうちに確立することが、長期にわたって生産性高く成果を出すうえでは重要なことではないかと思います。

子供に対しては早い段階で適切なルーティンづくりをサポートした方が良いと思いますし、自分自身のルーティンも色々と試しながら作っていくのが良いと感じます。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。 2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。株式会社かえる代表取締役。

プロフィール詳細

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