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組織デザインを考える

2019.4.22

サッカーから学ぶ組織デザイン

渡邉 寧 | 株式会社かえる 代表取締役

機能するチームと機能しないチーム

チームに入って仕事をしていると「このチームで働くのは本当に気持ち良い。打てば響くようにお互いを理解して働ける。楽しいなあ」と思うチームと、「何このチーム。。。チームとして機能してない。お互い良くわかってないし、信頼もない。やる気もないし、どこに向かってるのかもわからない。このチームに居ること自体がストレス」と感じるチームがあります。

世の中、一人で出来ることには限りがあり、多くの場合チームで働く必要があります。非常に能力の高い個人を集めてもチームパフォーマンスが上がらないということが結構あり、チームはどうすれば強くなるのか、チーム作りの方法論は極めて興味深い所。

サッカーJ2のチームが面白い

最近、サッカーの試合を良く観るのですが、私、J1のチームにはほとんど興味がありません。なぜなら、J1のチームは上手い選手が多いから。私の興味が「平均的な選手力でも、組織として強くなるにはどうすれば良いのか?」という所にあるので、J1よりもJ2の方が興味深い

J2のチームには突出した個人技で突破できる選手が少ないので、チームとしての完成度の高さがそのまま成績に反映されるように思います。

チームの好不調はありますが、今時点(2019年4月末)で目を引くのがトップを走る水戸ホーリーホック。6勝0敗4分で10戦無敗。特に目を引くのが失点数4で、これはリーグ最少失点。無敗記録はどこかで止まるでしょうが、守備の固さが際立っています。私も西が丘サッカー場での東京ヴェルディvs水戸ホーリーホックの試合をスタンドで観ましたが、前線からのプレスが速くて、ヴェルディの選手が中々前を向いてプレー出来ない時間が長かったのが印象的でした。

チームとしての連動が強さを生む

サッカーでは「連動」というキーワードが良く出てきます。ある選手が動くと、そこでスペースが生まれたり消えたりします。攻撃する時は誰かが動いてスペースを作って、他の誰かが連動してそのスペースを使う。守備をするときは、例えば誰かが相手にプレスをかけると自陣にスペースが生まれる。そのスペースを相手に使われないように連動して他の誰かが動いてスペースを消す。

個々人の能力が高いだけでは勝てないのがサッカーの面白い所だと思います。チームとしての連動が良くないと、点は取れないし失点もかさむ。その為、チームとしての連動性を高めていかなくてはならない。

水戸ホーリーホックの長谷部茂利監督は、序盤戦の結果を受けて、

選手たちが一体感を持っていて、GKから一番前まで連動した動きをトレーニングから積み上げている。試合の中で破られていること、崩されること、危ない場面はいっぱいあるが、そういったものがあってこそ2失点で済んでいるんじゃないかと思う

(出典「「危ない場面はいっぱいあるが…」無敗水戸、驚異の年間12失点ペース」ゲキサカ19/4/4)

と言っていました。

“t-1”の共有ビジョン

水戸ホーリーホックの試合を観ていると守備の連動がまず目につきますが、同時に攻撃における連動の良さも感じます。迷いが無いですね。サッカーではパスをつないでボールを運び最後にシュートを打ちますが、そのプロセスに関わる選手が迷いなく自分の仕事をしているように感じます。

特に感じるのが「”t-1”のビジョン」をチーム全員が共有しているように見えること。この時、”t-1”とは以下のような意味です。

ゴールを決めた瞬間(=time)を”t”とします
”t-1”とはゴールを決めた瞬間の一つ前のプロセスのこと

“t-1”のビジョンをチーム全員が共有しているとは、つまり、どこからどのような形でシュートを打つと確率高くゴールとなるかを全員が理解して自分の動きをしている、ということです。例えば、サイド突破して無理やり遠い所からボールを放り込むよりも、ゴール正面で相手を崩した状態でシュートを打った方がゴールの確度は上がります。

更に言うと、t-1で理想的な状態に持っていく為には、t-2のビジョンもチーム全員が共有している必要があります。そして、t-2で理想的な状態に持っていく為にはt-3のビジョンも共有している必要があります・・・・・(以下、攻撃の起点までさかのぼる

チームとしての連動を高めるためには、メンバー間の意思疎通が必要です。DFの岸田翔平選手は、

実は練習でうまくいかない時はあって、むしろ練習でうまくいかないからこそ、もう少しこうしたいというコミュニケーションが取れている。だから試合の中でもハーフタイムや試合が止まった時に、『さっきこうだったから、もう少しこうしたほうがいい』って話ができている
(出典 同上)

と言っています。

攻撃におけるt-1とはシュートを打つ状態。守備におけるt-1とはボールを奪取しにかかる状態。t-1の状態について選手間で同じイメージが共有出来ていれば、多数の連動による効果的なチームプレーが可能になり、強い攻撃・強い守備が可能になります。

企業組織でも”t-1”の共有ビジョンを持つことは重要

こうした、t-1の共有ビジョンを持つことは企業組織でも同じように重要です。組織デザインとしてそれが出来ているかどうかで企業組織のパフォーマンスは大きく変わってきます。

例えば、以前関わった営業組織改革のプロジェクトでこんな例がありました。その会社は、産業用の運搬機械メーカーだったのですが、営業の生産性が組織課題として認識されていました。要は、効率的な営業活動が出来ているのかどうかマネジメントからすると全く見えなくなっていたということです。

この運搬機械は耐用年数が10年程度と長く、営業マンは納品した機械の使用年数を目安にして「そろそろ買い替えかな」と予想をつけて営業訪問するということをしていました。とは言え、機械の使用状況は状況によってまちまちで、「まだまだ買い替えは先ですよ」と言われることや、逆に「あー、ちょうどこの間買い替えだったんで競合に乗り換えちゃいましたよ」と言われてしまうことも多々ありました。

こうした中で現場に入って話を聞いていると、実は顧客の買い替えタイミングをもっとも的確に察知することが出来るのは営業部門ではないことがわかりました。顧客は購入した機械のメンテナンスをサービス部門に頼んでいたので、営業担当よりもサービス担当の方が納品した1台1台の機械状態に詳しく、同時に顧客とも保守のタイミングで話をしているので顧客ニーズに詳しいということがわかりました。

つまり、受注(t)の確率が最も上がる”t-1”は、営業が顧客に定期訪問した時ではなく、サービスに機械が持ち込まれた直後であったというわけです。こうした”t-1”の共有ビジョンを持ち、確実に受注につなげていくには、それを意識した組織デザインを行うことが必要です。すなわち、サービス部門と営業部門は既存顧客の買い替えニーズを刈り取るための連動を行うことが必要で、サービス部門のKPIには、こうした受注の為の連動行為をどのように行ったかということを入れる必要があるということです。

流動的な組織デザインが重要

組織デザインという考え方は、組織の生産性を上げる上でも、その結果として組織が成果を上げていくうえでも重要な概念だと思います。組織デザインを行う上では分業と調整のデザインを行っていくわけですが、サッカーを観ていると、適切な組織デザインは極めて流動的なものなのだと感じます。

同じサッカーというゲームをしていても、チームによって、またその日のコンディションによって、”t-1”が変わってきます。監督やスタッフを中心としてそこを見抜き、戦略/戦術を明確にした上で、フィールドの中の選手が自律性をもって状況認識し判断し、チームとしてのプレーを作っていくのがサッカーというスポーツです。

同じことは企業組織にも言え、その状況における成果に繋がるt-1を明確にし、その理想的なt-1状態に持っていく為にメンバーが自分の仕事をこなす。さらにその為のトレーニングを受ける。

そうした流動的な組織デザインが出来て初めて、組織は最大限の成果を上げることが出来ます。そのためには組織自らが自分のビジネスシステムを把握し、継続的に組織の形を変える組織能力を持つことが必要です。

環境変化が速く、「野球型からフットボール型組織への変化が必要」(平尾誠二)と言われる昨今、自律的に自らの組織デザインを行っていける組織のことを強い組織と呼ぶのだと私は思います。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役

プロフィール詳細

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