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組織デザインを考える

2019.5.16

KPI管理すべきはアウトプットではなくプロセス

渡邉 寧 | 株式会社かえる代表取締役

達成にこだわる文化

「何が何でもヒャクやれ!」

ちょっと前に、自分の20代前半の日記を整理していたら、こんな記述が日記に書いてあって、ふと目を止めて読み返してみました。当時は営業部門にいたのですが、「ヒャク」というのは百(100)のことで、月次の売上目標に対して100%達成をするということ。99%と100%の間には明確な差があって、「ミタツ(未達=100%達成しないこと)」は許されない空気がありました。

「ヒャク」をやるために「ツメル」。需要とは関係なく店に在庫を積み増してもらって100%達成をするということもままありました。営業会議でヒャクをやるためにどう売上を詰めるかということを延々と議論していて、入社したての自分にはその意義が分からず、悩んでいた様子が日記に書いてありました。

「ヒャク」にこだわる文化は、「一度立てた目標を簡単には諦めない」という目標達成の文化ではありますが、手放しでは称賛できません。在庫の無理な押し込みなどすれば、今度は翌月の売上が厳しくなるのは道理であり、在庫処分費など余計な経費が掛かる可能性もあります。

こだわる価値のある数字にはこだわるべきですが、盲目的に目標達成にこだわるのは企業組織としては得策ではありません。

アウトプットの背後にあるプロセスが大切

サッカーを観ていると「フリーランニング」というキーワードが良く出てきます。

サッカーはゴールを決めて試合に勝つ必要がありますが、ゴールシーンはシュートを打つ人だけで作り上げているわけではありません。ゴールが決まるプロセスを良く見ると、周囲でボールには関わっていないけれど走っている人が居ることが多くあります。味方の誰かがゴール前で走ると、相手ディフェンダーはその動きに釣られます。するとシュートスペースが生まれるので、その空いたスペースを上手く使ってシュートを決める。

シュートを打った選手よりも、フリーランニングをしてスペースを作った選手の方が貢献度が高いことも多く、「あそこで○○選手がスペースを作ったので、後は蹴ればゴールが入る状況でしたね~」と解説者が言うこともままあります。

ある「アウトプット」が生まれる前には必ず「プロセス」があります。「後は蹴ればゴールが入る状況でしたね~」というコメントは優れたプロセスに対する言及です。アウトプットを求めるのであれば優れたプロセスを作ることにこだわるべきです。

星野リゾートの数値管理

以前、星野リゾートの星野佳路さんがDHBRで「数値で管理すべきは結果よりプロセスである」ということを言っていました。星野リゾートは「リゾート運営の達人になる」というビジョンが最終的な到達点であり、数値として重視しているのはそのビジョンに紐づくもので、売上や目標件数などは数値としては見るけれど最重要視しているわけではないのだそうです。

「リゾート運営の達人」とは①高い利益率②高い顧客満足度を同時に実現することと定義されています。そして、その状況を測る為に見ているのは①マルチタスク型サービスチームの完成度数値、と②顧客満足度の数値と顧客コメントなのだそうです。

この話を読んで「う~ん、なんとシンプルで綺麗なプロセス管理だろうか」と私は思いました。

まず、企業の目標として「リゾート運営の達人になる」ということを掲げ、それを①高い利益率を出すことと②高い満足度を上げることに分割しています。ここで、①と②はトレードオフ関係にあります。「②顧客満足度を上げる」ためにサービスを強化すればコストが上がるので「①高い利益率を出す」ことが難しくなります。

このトレードオフを解消して①②を同時に満たすために「マルチタスク型サービスチーム」というコンセプトが導入されています。サービススタッフが多能工として様々な役割を担えるようになれば、オペレーションが効率化されるので①高い利益率を保ちつつ②顧客満足度が上がる、という考え方です。

しかし、マルチタスク型サービスチームを作るのは一筋縄ではいかないことも十分に推測されます。スタッフによるバラツキが発生したり、長期の教育が必要になることは容易に想像がつきます。よって「マルチタスク型サービスチームの完成度」を数値化する仕組みを取り入れ、その数字を継続的に管理する。同時に顧客満足度の数値/コメントも管理する。

ここでは戦術とその状況を図るKPIが明確にリンクしています。よって、売上や目標件数のような最終KPIは見るけれども重視しない。

星野さんは、

仮に10年間で運営する施設を100件増やすと私が口にしたとしよう。おそらくそれぞれのスタッフは、そのために実行すべき新規案件の件数を勘定し始める。予算を策定し、その件数をいかに達成するかを考え、目標必達と言い始めるとやっかいなのだ(出所 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2015年2月号)

と言っています。そして、

たとえば、「予算が達成できなかった、それでいいじゃないか」「あるプロジェクトを実行することで予算を超えてしまった、それがなぜ悪いんだ」と言える雰囲気が大切だ。予算を超えている理由が明確に説明できるならば、まったく問題ない(出所 同上)

と言っています。

戦術と組織デザインの問題

子供のサッカーを観ていると、誰かがボールを蹴ると全員がボールを観て全員がボールに向かって走っていくことがあります。一方、大人の、しかも強いサッカーチームを観ていると、フィールドの中でボールの動きだけではなく、様々な選手の様々なフリーランニングでゲームが作られているのを目にします。

強いサッカーチームは、「どうすればゴールに繋がる場面が作れるのか」というチームとしての戦術の共通理解があり、それを実現するためのフォーメーションや各自の役割設定、連動の仕方といった組織デザインがあり、その組織デザインを現実に機能させるためのトレーニングがあります。また、こうした一連の流れが機能しているかどうかを見るためにウェアラブルテクノロジーを導入して選手の動きを数値化しています。

「売上が行った行かない」といったアウトプットに過剰に注目している組織は、戦術と組織デザインというプロセス設計に問題があると思います。嫌な言い方になりますが、そういう組織は「子供のサッカー」をしているようなものだと感じます。

「ミタツ」だったことだけに注目して営業マンを怒るマネージャーなどは言語道断で、怒るべきはアウトプットではなくプロセス(共通理解されている戦術における各自の役割を全力で全うしなかったこと)であるべきです。

中間KPI設定に着目する

優れた結果を出す組織はどうすれば作れるのか?は難しい問いです。「こうすれば組織は良くなる」という簡単な解決策など存在せず、結局「戦略>戦術>中間KPI>組織デザイン>PDCA」という一連の流れを最適化する中で、結果を出す組織は設計されていきます。

ただ、私はこの一連の流れの中で「中間KPI設計」に着目することが有効と思っています。というのも、納得できる中間KPIが設計されるということは、おのずと正しい戦略・戦術があることを要求し、それを実行する組織デザイン・PDCAの仕組みづくりに繋がるからです。

戦略を考え、戦術を考え、、、、とフローの入口から思考するのは大変です。検討のリソースがかなりかかる上、戦略・戦術が机上の空論になってしまうことも多々あります。同時に、どういう組織デザインにするか、どういうPDCAの仕組みを作るか、、、、とフローの出口から思考するのは上手くありません。場当たり的な組織体系や意味のないPDCAの仕組みになってしまう可能性が高くあります。

中間KPIはその中間に位置します。中間KPIは上流の戦略と下流の実行の結節点であり、これに着目することは、自組織が結果を出すためのプロセスへの注目と高め、再現性の高い組織形態を作り出すことに繋がります。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。 2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。株式会社かえる代表取締役。

プロフィール詳細

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