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2016.6.25

劣化組織で我慢しない 【本】藤原和博「坂の上の坂」を読んで

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

■組織の罠

「ヤバイ経営学」という本の冒頭にこんな話が載っています。

とある実験の話。

バナナをつるした檻の中に梯子を置き5匹のサルを入れます。

サルは梯子を登ってバナナを取ろうとします。実験者は梯子を上ろうとしたサルに氷のような冷水を浴びせ、同時に梯子には登らなかった他の4匹のサルにも冷水を浴びせます。

何度かこれを繰り返しているうちに、5匹のサルは「梯子に登っていはいけない」ということを学びます。

ここで、1匹のサル檻から出し新しいサルと入れ替えます。当然、新入りのサルは冷水のことを知らないので梯子を上ってバナナを取ろうとします。すると、それを見た4匹のサルは新入りのサルを攻撃しはじめます。冷水の罰を受けないようにする為に。

実験者はここで、もう一匹サルの入れ替えをします。新しいサルは、これまた梯子を登ろうとするのですが、このサルも他のサルから攻撃を受けます。そして不思議なことに、この時、先ほどの入れ替えたサルも攻撃に加わります。このサルは冷水の罰の存在を知らないのに。

実験者はこの後、もう一匹、もう一匹、とサルを入れ替えます。結果、最終的に5匹のサルはすべて冷水のことを知らないサルになります。しかし、それでも新入りのサルは梯子を登ろうとするたびに他のサルから攻撃されるようになる、というのです。梯子を登ると何が起こるかどのサルも見たことないのにです。

なんで梯子を登ったら駄目なんだ?と聞かれたら、きっとサルは「ここではそういう決まりになっているんだ」と言うことでしょう。

■ダメ組織になぜ進んで参加するのか?

「会社組織との関わり方はよくよく考えた方が良いよ」というのが藤原さんの大きなメッセージだと思います。

人間が歳をとると老化するのと同じように、組織も年月を経ると劣化します。必ずそうなります。先ほどのサルの例のような仕組みや、本書でも紹介されているピーターの法則(昇進システムを持つ組織は年月が経つとすべてのポジションがそのポジションの役割を果たす能力を持たない人で満たされる)など、組織は仕組みとして、時間がたつと劣化するように出来ているのです。

劣化した組織に属することが如何に個人の幸福を奪うものなのか。私たちはそうした例を枚挙に暇が無いくらい知っています。しかし、なぜか自ら進んでそうしたダメ組織に属そうという人が多い。

新卒の就職人気ランキングは言うに及ばず、転職企業ランキングでも「?」と思わざるを得ない企業がランキング上位に乗っていたりします。

永続している組織に対する安心という気持ちは判らなくはないのですが、歳を取った組織は劣化しているかもしれない。そういう懸念がなぜ頭をよぎらないのか。

■寄らば大樹はあり得ない

日本人は劣化した組織で我慢することに慣れすぎてしまったのではないかと思います。日本の大半の小中学校なんて劣化組織の典型だと思うんですが、朝から晩まで机に座って面白くも無い先生の話を黙って聞くことを強いられている。そんなことを10年近くもやっていれば、自分の感性を殺し、つまらないことに耐える習慣が身についてしまう。長年の我慢の結果、むしろそういうダメな環境にいることが普通と考えるようになるのではないかと思います。

一旦そういう考え方が身についてしまうと、その先の人生でも同じパターンを求める。だからメカニズムとしては劣化している可能性が高いにも関わらず、「歴史があって」「大きな組織」である伝統大企業にわざわざ就職したがるのではないか。

「組織なんだから理不尽なこともあるよ。でもそれは耐えればいいでしょ」 日本人の多くは最初からそう諦めているのではないか。僕はそんな風に感じてしまいます。

これがもし劣化した学校教育システムが続いている結果なのだとしたら、教育を司る日本の大人たちは本当に罪作りなことをしていると思います。

■個人と組織のかかわり方を考える

藤原さんは強い組織に属することのメリット・デメリットの両方を知っている人なんだと思います。独立自尊の精神が強かったと言われる1980年代のリクルートで出世し、病気になって出世コースを降り、フェローという新しい形で会社と契約を結ぶ道を切り開いた。

その後の和田中学校での改革例は極めて有名ですが、地域本部制度を作り学校組織と地域社会や独立した個人との関係に大きな変化をもたらした。

劣化した環境を耐える習性が身についてしまっているとしたら、それはアンラーニング(Unlearning)することを考えた方が良い。アンラーニングには通常のラーニング以上の時間と努力が要求されます。何をラーニングすべきで何をラーニングしてはいけないのか。そういう観点で個人と組織との関わり方をきちんと考えてみる。

この本は団塊世代の少し下の人達向けに書かれた本ではありますが、組織との関わり方を考えるヒントが散りばめられていると思います。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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