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コラム組織デザインを考える組織文化の作り方

2022.8.25

その規則は何のため? -不確実性回避の高い文化における組織の作り方-

渡邉 寧 | 株式会社かえる 代表取締役

個人が最大限に活きる組織はどうすれば出来るのか?

個人的に、組織の中で個人が控え目になってしまう状況が好きではありません。

「自分の意見を言う前に決まった通りやってくれ」とか「言いたいことはわかったけど、ここではそういうやり方はしないから」という空気が組織内に充満し、個人が意見を言いにくくなる組織があります。

確かに、組織には伝統的に培われてきた知見があり、そうした過去の組織の知見が個人の意見よりも優先されるべきことはあると思います。しかし、そのことが個人の自主性や主体性を奪ってしまうのであれば、そうした組織風土は見直されるべきだと考えます。なぜなら、多様な個人が異なるアンテナを持って情報収集をし、それを組織に持ち帰って積極的に新しいやり方を共有・検討するアプローチが活用できないのは勿体ないから。

会社の寿命は20~30年程度と言われますが、市場の変化に対応しきれずビジネスモデルの転換が出来ない事例を日常的に目にします。変化の萌芽に一番最初に気づくのは、常に組織ではなく、組織の中の一部の個人です。こうした個人の気づきが素早く組織に共有されるような組織風土を作っていることは、現代の組織にとっては死活的に重要だと感じます。

フットボール型組織の重要性が増している

多様な個人の強みや違いを前面に出しつつ、かつ組織としてのまとまりと強さをどのように作っていくのか。それを考える際に、元ラグビー日本代表の平尾さんの「ベースボール型」と「フットボール型」の組織類型の話が面白いな、といつも思います。(例えば下記のコラム)

『スポーツからみた日本型マネジメントの限界』─新しい人作り、新しい組織作り─

フットボール型の組織とは、チーム内に多様な個人が居て、試合状況に応じて各プレーヤーが主体的に判断し、かつプレーヤー間の臨機応変な連携が勝敗に大きな影響を及ぼすような組織です。一方で、ベースボール型のスポーツではプレーヤーとゲームメーカーが分かれています。ここでは、攻撃・守備・各打席というターンが明確に分かれており、ゲームメーカー(監督)の判断に沿って、個々の選手がパフォーマンスを出すことが重要になります。ベースボール型の組織が中央集権型であるのに対し、フットボール型の組織は自立分散型と言えるかもしれません。

近年は、テクノロジーの変化や、世代によって変わる価値観の違いが大きく、環境側に不確実な要素が多く存在します。このため、刻々と変わる状況に合わせた臨機応変な対応を、組織として行うことが多く求められます。平尾さんが「フットボール型組織の重要性が増している」と言った背景には、こうした時代的な流れがあるのだと思います。

「フットボール型組織の重要性が増している」

3タッチ以内でパスを出すテンポ

しかし、フットボール型の組織づくりというのは、これはこれで中々難しいように思います。ここ数年、私は週末にサッカーの試合を観ながら、フットボール型の組織形態で、その組織が有効に機能するにはどうすれば良いのかというヒントを探しています。

そんな中、先日試合を観ていて、一つ思うことがあったので書き留めておこうと思います。

この記事を書いているのは、2022年8月中旬ですが、サッカーJ2リーグにロアッソ熊本というサッカーチームが有ります。ロアッソは昨シーズンJ3リーグを優勝し、2018シーズンぶりにJ2に戻ってきたチームですが、現時点でJ2の6位につけています。今年は6位以内はプレーオフ出場のチャンスがあるため、J1昇格の可能性が現実的にあり得る状況です。

ロアッソ熊本の予算規模はJ2リーグ平均の半分程度と言われています。なんだかんだで、予算規模と成績が相関するプロスポーツの世界において、ロアッソは外れ値のチームに見えます。

ロアッソの試合は観ていて面白いのですが、素人目に見ても特徴的と思うのがゲームのテンポの速さです。狭いエリアに味方が密集し、細かいパスがポンポン繋がるのがロアッソの特徴のように見えます。試しに数えてみたのですが、全ての選手がパスを受けてから3タッチ以内で次のパスを出しているように見えました。ボール回しのテンポが早いので、相手の判断スピードが追いつく前に、ボールが次の展開を迎えており、そのことが多くのチャンスに繋がっているように見えます。

私はサッカーの専門家ではありませんが、おそらくチームの約束事があるのではないかと思うのです。割とシンプルで分かりやすい約束事があり、全員がその約束事に基づいてプレーをする結果、チームが連動性を持って有機体のように動く状態が実現しているように見えます。

スピードを上げるという戦略目標が存在?

テンポが極限まで早くなってくると、相手の認知・判断がついてこれなくなります。これはスポーツに限らず、市場における企業競争でも同じことが言えますが「相手の認知・判断がついてこれなくなるレベルのスピードを出す」という戦略目標を達成する手段がしっかりしていると、競合よりも有利な立場に立つことになります。タッチ数に制約をかけるというルールはスピードを上げるという戦略的目標に基づいたものなのではないかと感じます。

この際、おそらく大事になっているのは、ボールを持っている選手よりも、ボールを持っていない選手の認知と判断なのではないかと思います。「3タッチ以内でパスが出る」というルールだけであれば、相手からするとボールホルダーの動きは却って予想が付きやすくなります。その為、周囲の仲間が連動して動いて、パスコースの可能性を複数作り、相手の認知的負荷を上げていくことが決定的に大事になるのではないかと思います。

仕事の出し手と受け手の連動を上げるルール

このことは企業の組織づくりにとっても示唆的です。サッカーにおける「タッチ数の制限」を企業組織の仕事の文脈で考えてみましょう。サッカーにおける「ボール」を企業組織における「タスク」と置き換えてみます。

組織内の仕事のスピードを上げる為に「タッチ数の制限」をするということは、例えば手元にタスクが来たら「3時間以内にタスクを次の人に回す」ということになるのかもしれません。もしくは、「3つの加工を施して人に渡す(例:①分析する、②付加価値をつける、③ネクストステップの想定をつける)」というような決まったステップに従うということなのかもしれません。

更に、ボールを持っている選手よりも、ボールを持っていない選手の認知と判断が重要ということは、その瞬間タスクを持っているメンバーが次にタスクを回しやすいようにタスク受け入れ態勢を整えて、そのサインをタスクを抱えているメンバーに送るということなのかもしれません。(例:「〇〇時になったら、そのタスク引き受けられるよ」と伝える、「あっちの人にアドバイス聞くと良いよ」と伝える等)

日本は文化的に不確実性の回避傾向が高く、組織内に細かいルールや規則を作りたがる傾向があります。その事自体は悪いことではないのですが、そうしたルールが個人の自由な発想や自発性を損なうのであれば、それは不確実性回避の高さの弊害です。

日本の不確実性の回避のスコア
ホフステード指標における日本の不確実性の回避のスコアは92と極端に高い。

不確実性の高さを弊害にするのではなく、効果的な組織の骨組みに活用できるかどうかが重要になってくるわけですが、その為には、組織内のルールを見返した時に、そのルールは、

  1. 戦略目標にもとづいているか?(e.g.「スピードを上げる」)
  2. シンプルかつ具体的か?(e.g.「3タッチ以内にパスを出す」)
  3. 一個人に責任を負わすのではなく複数人の連動性に関わるものか?(e.g.「周囲が動いてパスコースを作る」)

といった特徴を備えている必要があるのではないか。熊本の試合を観ていてそんなことを思いました。

不確実性の高さという文化傾向自体は、変えようがないのかもしれません。なので、日本の組織で働いている以上、細かいルール作りは無くならないのかもしれません。もしそうなのだとしたら、そうした不確実性の高さを前提として、その文化特性が強みに繋がるような組織のルールづくりをしたいものだと思います。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役

プロフィール詳細

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