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コラム教養本棚異文化に対応する

2022.3.30

日本・米国・中国の幼稚園・保育園(Preschool)はどう違う?

渡邉 寧 | 株式会社かえる 代表取締役

学校は文化による違いが色濃く見て取れる

「どうして、国によるホフステード指数の違いが生まれたのか?」という質問をもらうことがしばしばあります。この質問に答えるのは簡単ではありません。社会生態的要因、宗教的要因、歴史的要因、進化論的要因、等が複雑に影響しています。一方で、文化が作られた経緯は複雑だったとしても、それが前の世代から次の世代へと引き継がれている仕組み(=文化的再生産)は、私たちの身近な所で見ることが出来ます。

学校は、こうした文化的再生産の仕組みの一つです。学校は、文化差が表れやすく、学校の仕組みやそこで教えられていること・教え方、学校内で期待される振る舞いの違いには文化による違いが色濃く見て取れることがあります。

先日、”Preshcool in Three Cultures Revisited”という本を読みました。この本は、アリゾナ州立大学のJoseph Tobinらが、1985年に出版した日米中の幼稚園・保育園の比較研究である”Preschool in Three Cultures”を元に、その20年後に再度日米中の幼稚園・保育園を調査し、グローバリゼーションとその他の社会変化が、教育にどのような影響を及ぼしたのかを記した本です。

20年前に出された原著は、日本・米国・中国の文化差が色濃く幼稚園・保育園の違いとして見られることを述べており、非常に興味深いものでした。端的に言うと、米国は子供の自主性と個性を伸ばすような仕組み。中国は競争的かつ集団行動重視で、日本は調和と人間関係重視、と言った違いが言われていました。今回のRevisited版では、そうした文化差に加え、20年前と現在の変化について考察がなされています。

Preschool in Three Cultures Revisited
”Preschool in Three Cultures Revisited:
China, Japan, and the United States”
Joseph Tobin, Yeh Hsueh, and Mayumi Karasawa

「個」中心の教育に変わった中国

この中で、読んでいて面白いなと思ったのが中国の変化。20年前の教育と今の教育を比べると、変わった所と変わらなかったところがあると著者達は述べます。大雑把に言うと、日本はあまり変わらない。中国は大きく変化した。アメリカはその中間、ということだそうです。

大きく変わった中国がどう変わったのかというと、子供を中心とした教育に変化したとのこと。欧米の教育システムを取り入れ、グローバル資本主義の中で競争力の高い大人となれるような教育の仕方に積極的に変化しているようです。

中国は国の方針として経済的な大国となるという大きな方向性が有り、権力格差が高い文化的背景もあって、そのような方向性に進むという方針が上から下まで浸透していったのかもしれません。また、その高い権力格差ゆえ、階層を上に登るために激烈な競争があり、グローバル競争の中で強い個人となることが、社会の階層を登って成功することと一致しているのかもしれません。

若い世代の個人主義化は、中国に限らず世界中で聞かれる傾向ですが、中国の教育システムの変化もその潮流と一致しているように見えます。

もちろん、如何に個の力を強める方向に変化させていたとしても、その背後には高い権力格差と、集団としての国に資する人材を育成するという中国の考え方に変化はなく、必ずしも個人主義的な価値観に基づいた教育変革ではないのかもしれません。

しかし、グローバル資本主義の中で個を強くすることは、個人の流動性を高めます。個人の流動性が価値観の個人主義化に繋がっていくことは、過去の研究でも言われています。

変わらない日本の教育

一方で、1985年と2000年代とで、ほとんど変化がないと指摘されているのが日本です。

実際には、自分が過ごした幼少期と、今の子供達が過ごしている幼少期。もちろん、色々と変化はあるのだろうとは思います。教える内容や教え方には変化もあるでしょう。しかし、背後にある価値観はそれほど大きく変わっていないのかもしれません。集団行動の中で、思いやりや我慢/協調性を育むという根本的に外せないものは変わらないのかもしれません。

個人的にはこうした教育自体は一定の価値観に基づいており、安定した社会を形成するために実際に役に立っているのではと思います。

一方で、これだけだとグローバルに出た時にとても生きづらくなるように感じます。なぜなら、世界全体が個人主義化の方向に進んでおり、グローバルな営みの多くが個人主義的価値観を前提としてなされているからです。上記で見たように中国でさえも個人主義化の方向に進んでいるのであれば、アジア地域内での営みにおいてもこうした個人主義的価値観が無視できません。

個人主義の元では、一人一人は自立したユニークな存在であることに価値が置かれます。その為、自立していないこと、強みがないこと/ユニークさが無いことは、評価されません。比較研究されているアメリカが典型的な例ですが、幼稚園・保育園においても、アメリカでは個人の尊重をベースとして、自己表現を促し、才能と個性を育てることが重視されます。

世界全体がこのような個人主義的な方向に向かっています。グローバル資本主義の競争は、強くて、ユニークで、はっきりとした自己主張をする個人間の中でなされます。そもそもグローバル資本主義に問題があるのでは?という議論は当然ありますが、現実で進んでいるグローバルの競争を無かったことにするわけにも行きません。

個人主義の理解が必須

そういう世界的な流れがあることが分かった上で、それでも「日本は我々独自の道を行く」と決意しているのであればよいのですが、日本の場合はそういうわけではないのでは無いかと思います。

良くも悪くも、日本には日本の外側との断絶があります。言語的障壁の影響が大きいように思いますが、今の所、多くの日本人は日本語で流通するメディア(マスメディアもSNSも)の中で生きているので、世界的な潮流の理解が一歩遅れているように見えます。

ホフステードの次元に基づいて言うと、「個人主義」「女性性」の2つに関しては、世界的な潮流が明確にあるように見えます。日本の価値観は、明確に個人主義とは言い切れず、また男性性が高い傾向にあるので、世界的な潮流から元々外れており、更にそのギャップが年々広がっているように感じます

個人的には、世界的な価値観と同じになるべきと言うつもりは全くありません。日本文化のユニークさは、考えれば考えるほど興味深いと感じます。一方で、自分達の違いを認識し、意識し、その価値を追求することと、自分たちの違いはわからず、単に今までやってきたことをそのまま続けることとの間には大きな違いがあります。

私は、日本は世界とは異なる文化であっても良いと思うし、どちらかというとそのユニークさに価値を感じるのですが、「ユニークなんだな」ということを意識的に知っていることと、知らずにそのような状態にあることの間には大きな差があると思っています。意識的に違いを認識し、それを磨き上げ、ユニークな価値を逆に世界に対して発信できるような存在でありたいと思います。発信したことを受け手に理解してもらうには、受け手の価値観を理解することが必要です。世界が個人主義化するのであれば、その世界の中で人々はどのようなことに関心を持ち、正しいと思い、面白いと思うのか、そうした個人主義的価値観の理解が大切になってくると思います。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役

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