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「フォロワーが語るリーダーシップ」小野善生著 を読んでの読書メモです。
巷のリーダシップ論は正しいのか?
「リーダーシップ」は組織行動の中で非常に関心の高いテーマで、本屋に行くと多くのリーダーシップ本を目にします。
「リーダーとはこうあるべきだ」とか「リーダーはこのような行動を取ると良い」とか「リーダーを育てる教育プログラムはこう作る」とか、多くの実務家や研究者の方々がそれぞれの考えを示しています。
私は個人的に、どれを読んでも「なるほどね」と思うのですが、同時に「これ、本当に自分が関わっている組織で効果あるのだろうか?」とも思います。なぜなら、リーダーシップのような集団の関係性に関わる話は、環境や文脈によって変わる割合がかなり高いと思うから。
リーダーシップはリーダーとフォロワーの相互作用なのだから、双方の視点を考えること無しにリーダーシップ論を語るのは、なにやらおかしな話だなと思うわけです。
例えば国民文化の観点で見ると、リーダーとフォロワーの関係性は国によってだいぶ変わってきます。オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは、国王と国民の関係はスウェーデンとフランスでは昔も今も大きく異なるということを指摘しています。スウェーデンでは、国王のスピーチがおかしければ、聴衆はゲラゲラ笑います。一方で、フランスでは聴衆がそのような反応をすることは考えにくい。
これは「権力格差(Power Distance)」の文化差として説明されます。スウェーデンは権力格差が低いのですが、フランスは権力格差が高い。権力者と非権力者の関係性は文化によって異なり、同様のことは国王と国民の関係性に限らず、集団のトップとメンバーの関係性にも当てはまります。
フォロワーの視点を考える
要は、「効果的なリーダーシップのあり方」を考える際には、個別具体の状況における「フォロワーの状況」を考える必要があると思うのです。
例えば、サイバーエージェントの藤田晋社長は終身雇用を標榜していましたが、その理由として
(終身雇用を標榜したのは)サイバーエージェントの企業風土というより、日本の風土を重視しているからです。長年培われてきた日本人の価値観は、すぐには変わらないと判断したのです
と言い、
給料や報酬より、自分の所属する会社が好きだという考え方は極めて日本的ですが、日本人には合っていると思いますし、若い人だってそう感じていると思います
と言っています。(出所 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2015年12月)
リーダーシップ論の調査・研究の多くがアメリカでなされている為、どうしても巷のリーダーシップ論はアメリカの文化背景を基にしたものになりがちです。これが全く役に立たないとは言いませんし、逆に、「なるほど、そういう考え方もあるな」という示唆に富むものも多数あります。
しかし、それらはフォロワー目線から考えた時に本当に機能するのか?というチェックを経てから実際に導入されるべきです。これは日本/自組織のフォロワー視点から効果的なリーダーシップの在り方を組むというマーケティング的な考え方と言えるかもしれません。
開眼・共鳴・感謝というリーダーシップ認知プロセス
「フォロワーが語るリーダーシップ」という本は、フォロワー視点から効果的なリーダーシップの在り方を考える上で大変参考になる本でした。
例えば、小野さんは、フォロワーによるリーダーシップの語りの分析を通じて「開眼・共鳴・感謝」という3つのリーダーシップ認知のカテゴリーを提示しています。
リーダーシップは、フォロワーがそれを「あ、リーダーがリーダーシップを発揮している」と認知しないとリーダー側の独りよがりで終わってしまいます。そのフォロワーによるリーダーシップ認知が「開眼・共鳴・感謝」の3つであるという言説は示唆深いな、と感じます。
例えば、私はプロジェクトマネジメントをする中で、「クイックヒット」を打つことがとても大切だと思っています。プロジェクト開始直後に、とにかく「誰が見ても成果だとわかるもの」を出すことを「クイックヒットを打つ」と言っていて、プロジェクト運営上はこれがとても大切。
この現場の感覚はフォロワー理論から説明されます。フォロワーは「成果を上げる管理者はリーダーシップを発揮している」という「暗黙のリーダーシップ論」を持っています。その為、小さくても早めに目に見える成果を出してリーダーシップ認知を獲得することが有効、という説明になるのだろうと思います。
そして、そのことによってフォロワーは「開眼」する。リーダーシップの発揮を目指す人はその基盤の上でフォロワーの「共鳴」や「感謝」の認知を獲得していく必要があるということなのだろうと思います。
リーダーとフォロワーの相互作用の設計図
集団の中でリーダーシップを効果的に発揮したいと思うのであれば、私は「リーダーシップの設計図」を作った方が良いと思っています。リーダーシップとは「このようなリーダーシップを発揮したい」というリーダーの考えと「このようなリーダーシップを期待する」というフォロワーの考えのせめぎあいの中で成立するものです。
よって、自分の具体的な集団の①文化的側面、②個々人の性格的側面の2つのレベルのフォロワー視点を言語化し、同時に③自分のリーダーシップの在り方を言語化し、そのせめぎあいの中で効果的なリーダーシップが成立し得るかどうかを熟考する必要があると思います。
リーダーシップ論の中で、フォロワー視点に関する研究にどのような蓄積があるのかを伝えてくれる本書はこの設計図を考える上で示唆深いものだと思います。
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役。
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