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2019.5.2

使う言葉で思考の質は変わる

渡邉 寧 | 株式会社かえる代表取締役

サピア=ウォーフの仮説は正しいのか?

慶応SFCの今井むつみ先生の著書「ことばと思考」の読書メモです。

「人の思考は言語と切り離せないものである」というサピア=ウォーフの仮説について、その後の実験心理学の検証を分かりやすく読むことが出来ます。

ウォーフ仮説に対しては反証も出ており、私が学生だった1990年代後半の段階では割と批判的に扱われていた記憶があって、最近はどうなったのかなと気になっていました。今井むつみ先生によれば、言語が人の認識・思考に影響を与えるという仮説は支持されるとのことでした。紹介されていた実験結果はどれも興味深いのですが、特に興味深いと思ったものがいくつかありました。特に下の2つは興味深い。

方向音痴は言語のせい?

私はカーナビの地図を読むのが苦手で、右・左の運転者目線モードならわかるんですが、東西南北のマップモードを見ても、次の信号をどっちに曲がれば良いのかがよくわからなくなります。これは「デッド・レコニング」(dead reckoning)と言われる方向定位能力に関係しているのですが、この能力は言語の影響を受けているという実験があるそうです。(ちなみに、渡り鳥などはこの能力があるので長距離飛んでも迷わない)

オーストラリアの一部の部族は前後左右のような自分を中心とした相対的位置関係を表す語を持たず、絶対座標で位置関係を表すそうです。実験をすると相対的位置関係の語を使う言語話者(この場合はオランダ人)よりも正確に位置関係を特定できることが示されたとのこと。

私の方向音痴の原因は、子供の頃から東西南北の言葉で場所の話をすることなんてほとんどなかったのがなのか?などと思ってしまいました。

時間の流れは左から右?それとも東から西?

英語を話すアメリカ人は、時間の流れは自分から見て左から右なので、時系列に物事を並べる時はそのように並べるそうです。一方、時間の表現を太陽の出入りの語で表す言語の人たちにとっては、時間の流れは(自分の位置とは関係なく)東から西に流れるので、同様の実験をすると物事を東から西に並べるそうです。

時間の概念はとても面白いと思っています。「メッセージ」という映画で、時間は直線的に進んでいくのではなく循環的、もしくは前後関係が無いものであるということが描かれています。

「左から右に進む」という認識は人の「進歩」についての認識にも影響を与えている気もします。英語でない言語がグローバルな共通語になったりしたら、世界の進歩の捉え方も変わるのだろうか、とふと思いました。

熟達と言葉の関係を考える

今井先生によれば、赤ちゃんは大人よりも細かい情報に気付いているそうですが、言葉を学び、あるものを同じカテゴリー属するものとして認識するようになると、微細な差異の情報には注意を払わないようになるそうです。

言葉を獲得するということは情報を切り捨てるようになるということでもあります。情報を切り捨てることによって何かに気付かなくなるという側面はありますが、同時に、微細な差異情報を切り捨てることによって、重要な情報を効率よく処理できるようになる。

これは初学者が熟達者になるプロセスと同じ。

個人的な興味関心が、組織における人の熟達にあるので、やはり、組織の言語のことを考えてしまいます。組織の中で意図的にデザインされた言語を使うことが、組織文化を作ることに繋がっていきます。サピア=ウォーフの仮説は異なる言語間で、「言葉が変わると思考が変わる」ということを示したものですが、私は同じ日本語を話していても、組織の中で使う言語体系は組織によって違っていて、そのことは人材育成や組織開発に強く影響を及ぼしていると思っています。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。 2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。株式会社かえる代表取締役。

プロフィール詳細

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