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組織デザインを考える

2019.5.30

これからの組織分業を考えるヒント、ベルビンモデル

渡邉 寧 | 株式会社かえる 代表取締役

チームが機能しない

「チーム内で決めた計画が実行されない」
「各自が出してくるアウトプットの質が低い」
「皆忙しく、「あれ、あの件誰がやってるの?」というポテンエラーが頻発する」
「チーム内の感情的繋がりが薄い」
「みんな「同じ船」に乗っているの?という疑念すら出て来る」

これ、個人的に最近経験した、とあるチームの現状。ここまで足並みがそろってないとチームとして成果が出せないし、そもそも個人としてはそのチームに所属していることすら苦痛。

人間の集団なので、人によってモチベーションの高低は違うし、使えるリソースにバラツキはあります。しかし、「その人なりのチームへの関わり」をチーム全体として統合した時に、チームが成果を出し、かつ個々人がそのチームに参加して良かったと思える状態を作りたい。

知識労働チームの「分業」の難しさ

どうしてこうも「機能するチームを作る」ことは難しいのか?

チームで働くということは、メンバーで役割を分担(分業)し、分業の効果で大きな成果を出すことを目指すということ。その為、集団の中の「分業」「調整」の設計を効果的に行うことが必要で、この「分業」と「調整」を考えることを組織デザインと言います。

「分業」と「調整」のデザインが効果的になされると、業務がスムーズに流れるようになるのですが、この「分業」が知識労働だと設計しにくい。というのも、仕事をどのように「切り分ける」のかが知識労働だと分かりにくいからです。

これが工場ならば分業設計は考えやすいのかもしれません。「この作業を誰がやって、その後工程を誰がやって・・・」と明確に仕事を切り分けるわけです。組織全体として水平分業するのが良いのか、それとも垂直分業するのが良いのか。そういった、分業の基本パターンを基に、自組織で最適な分業設計を考えることが比較的容易。

しかし、知識労働だと、そうした分業が考えにくい。例えば、何か商品の企画を考える際に、「アイデアの半分をAさんが考えて、残り半分をBさんが考えて」というように仕事を分割したとします。この時、AさんとBさんのアイデアを統合したところで、まとまったアイデアになるかどうかは怪しい。

知識労働の場合は、共創プロセスが多く、同じことを複数人で同時に考えていることが多いですね。PCで言えばマルチコアのプロセッサーのように「三人寄れば文殊の知恵」的なスタイルで価値を出しに行く。知識労働は「分業してるのだけれど分割は出来ない」というややこしい特徴を持っていて、ゆえに効果的な組織デザインを考えるのが難しい。

9つの役割|ベルビンモデル

単純作業はどんどんAIに任せ、人間は知識労働に集中する、という流れは速まることはあれ止まることはなさそうです。そうした状況を踏まえると、「知識労働チームにおいて、どのように分業を最適に行うのか?」という問いは、チームを機能させるうえで大切な問いになりそうです。

この問いを考えるにあたって今一度活用してみても良いんじゃないかと思っているのが「ベルビンモデル」。

ベルビンモデルはメレディス・ベルビン博士とヘンリー・マネジメント・カレッジの調査チームが1970年代から行っていた実験に基づいたもので、ベルビンはチーム内には9つの役割パターンがあるとしました。

9つの役割のうち、どの役割を誰が引き受けるかは個人の傾向とチーム状況に応じて変わるのですが、各人が各役割を果たしていることを相互に認知し、補い合うことでバランスのよいチームが出来る、としています。

9つの役割は下記になります。

 

(出所「チームコーチング」より作成)

チームの振る舞いを見ていると、「チームが上手く機能してないな~」と思う時には、その状況で必要な役割を誰が取るのかが明確になっていないことが多いように思います。

1人1人の個人は元々の性格や経験・スキルなどによって取りがちな「デフォルトロール(初期役割)」を持っています。デフォルトロールから抜けることは各自のコンフォートゾーンから出ることを必要とするので、上手くできなかったり労力感を感じたりする可能性があります。その為、なかなかデフォルトロールから抜け出せないことが多い。

一方で、チームが必要とする役割は、チーム状況に応じて変わってきます。だから、本当はメンバー内で誰が何の役割を取っているのかを相互に認識し、役割チェンジを適宜行っていく必要があるわけです。また、ある人がデフォルトロールでない役割を取っている時は、それが上手く出来ない可能性もあるということを全員が認識し、不必要な批判を避け協力し合う体制を作る必要があります。

意図的・意識的な役割チェンジを行う

ベルビンモデルを使うことで、チーム内における意図的・意識的な役割チェンジがしやすくなります。例えば、プロジェクトマネジメントをする際には、プロジェクトフェーズによって主役となる役割は、下記のように変化していくことが考えられます。

①論点明確化フェーズ|計略家/専門家
②ワークプラン設計|警告者/進路作成者/調整者
③プロジェクト実行|実行者/協同作業者/資源探索者
④プロジェクト完了|完成請負人
今、プロジェクトでどのような役割が必要とされているのかを意識化し、それに基づいて自分は何の役割を果たすのか。またチームメンバー一人一人にどの役割を取ってもらうのか。そうしたプロジェクトのプロセスを議論する共通言語としてベルビンモデルは有効に機能するのではないかと思います。

システムコーチングに「外的役割」と「内的役割」という考え方があります。外的役割とは「納品管理担当」とか「生産担当」といった「システム(=関係性)における目に見える、機能的側面の維持を目的とした表面的な役割」のことです。一方で、内的役割とは「チームの盛り上げ役」とか「進むべき方向性を指し示す」といった、「システム(=関係性)における目に見えない、感情的な側面を担う潜在的な役割」のことです。(出所 CRR JAPAN

知識労働における組織デザインは、「外的役割」だけではつかみきれない要素を考慮に入れて「分業」設計していく必要があります。ベルビンモデルのような共通言語を使うことで、知識労働における組織デザインはより分かりやすく、実効性のあるものになるのではないかと感じます。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役

プロフィール詳細

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