Blog
今日のテーマは、AIマッチングが変える「人と人の結びつき方」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日も歩きながら、最近ずっと考えていることを話してみようと思います。テーマはAI依存。今まさに論文を書いているテーマなんですが、自分自身の体験から気づいたことがあったので、それをきっかけにちょっと深い話に入ってみます。
最近、僕はAIエージェントに自分のPCのコントロール権を渡して、人間の部下に指示するように仕事を任せる、ということを試し始めてるんですね。使用頻度がそれほど多くないPCを1台用意して、リモートで指示を出してAIにずっと作業をさせておく。自分が別の仕事をしている裏側で、AIが並列でタスクを進めてくれる。これを何本も走らせていくと、生産性が大幅に上がるはずという考え方です。
で、やっていて気づいたのが、なんとも言えない「すり減り感」がある、ということ。便利になっているはずなのに、気持ちが上がらない。この「すり減り感」の正体は何だろう、と考えてみました。
で、行き着いたのが、こういう想像でした。「これ、AIなしで仕事回るんだろうか?」と。仕事の仕組みの中にAIがどんどん組み込まれていく。便利になればなるほど、AIがなくなった時のことを想像してしまう。そしてその時に、ああ、これは「依存」だ、と気づくわけです。

コンサル時代の教えとAIエージェント
実はこの「裏で並列に作業を走らせる」というスタイル、僕にとっては馴染みのあるものなんです。
コンサルティング会社で働いていた頃、自分が考える仕事をしている裏で、作業をしてくれる人を何人並列で走らせられるかが、アウトプットを素早く出すコツだと教わりました。作業設計をして、派遣スタッフの方にオフィスに来てもらって、朝に指示出しをする。その人が作業をしている間、自分は考える仕事を進める。自分の仕事が終わった頃に作業結果が上がってくるから、それを見て次のワークを設計する。AIが出てくる前は、そういうやり方をしていたんですよね。
で、AIエージェントが一般化してくるにしたがって、多分これと同じことをやっていくという話になるんだと思います。生産性という意味では確実に上がっている。より多くのアウトプットを出せるわけで、それは報酬にも結び付くはずだし、有能感が上がるとか、作業をやらされているのではなく自律的に仕事をしているという感覚が上がるとか、様々な幸福度の向上に結びつくはずだ、と。
ここまでは、筋が通っている話だと思うんです。
でも「すり減り感」がある——活用と依存の境目
ところが、実際にやっていると、さっき言ったすり減り感がある。生産性は上がっているのに、気持ちが上がらない。なんでだろう、と。
で、考えてみると、思い当たるのが、「依存」の感覚がもたらす負の効果ということなんじゃないかと。
AIを道具として使いこなしている、という感覚があるうちはいいんですよ。これはreliance(活用)ですよね。でも、仕事の仕組みの中にAIがどんどん組み込まれていって、「AIなしで回るんだろうか」と想像した瞬間、それはdependence(依存)に変わっている。微妙な差なんだけど、dependenceになると自律感が損なわれるんですよね。自分でコントロールしている感覚が弱くなる。で、自律感というのは幸福度の重要な構成要素なので、ここが損なわれると、生産性が上がっていても気持ちは下がる。僕の「すり減り感」の正体って、多分これなんだと思います。

自分だけの話かと思ったら、もっと広い問題だった
これは僕個人の、職場における幸福感のメカニズムの話です。でも、AI依存のリスクってそれだけじゃないんですよね。
もう一つ、職場で大きく議論されているのが、認知的オフローディングによるスキルの問題です。今まで自分でやっていたこと——文章を書く、資料を調べる、読み込んで示唆を導き出す——をAIに任せてしまうと、その部分の能力が使われなくなって劣化していく。いわゆるスキルのデグラデーション(劣化)ですね。で、実際に劣化してしまうと、「この人いらないんじゃないか」という話になって、中長期的にはAI失業の話に繋がっていく。
さらに、個人レベルの学習や幸福という話で言うと、実は教育現場の危機感が非常に高いんですよね。AIに聞けば答えが出てくるから、主体的に問題に取り組もうという意欲が低減してしまうんじゃないか。つまり自律的な学びの阻害。職場では「スキルが劣化する」と心配し、学校では「そもそもスキルが育たない」と心配している。
さらに言うと、認知の話だけでもない。AIとの関係性的な依存という問題もある。人間関係の構築に必要なソーシャルスキルの発達が阻害されるという話もあるし、AIチャットボットとのやりとりの中で妄想が肯定・強化されて深刻な事態に至ったケースも報告されています。
こうやって考えていくと、気づいたら2×2の見取り図みたいなものが出てくるんですよね。子供の世界か大人の世界かと、認知的な依存か関係性的な依存か。僕の「すり減り感」から始まった話が、調べたり考えたりしているうちに、このような見取り図に今のところ繋がっています。で、こういう全体像を考えるメッシュがだんだん細かくなっていくのが、今AI依存のリスクに関して研究者たちが取り組んでいることなんだと思います。
というわけで、今日はAIエージェントを使っていて感じた「すり減り感」から始まって、AI依存のリスクの全体像まで、歩きながら考えてみました。
この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
関連ブログ Related Blog
2026.1.27
AIが『最近、人と話してないですね』と言ってくる未来。これって幸福? – 歩きながら考える vol.216
今日のテーマは、AIが生活スタイルに関して即時フィードバックをしてくる未来と幸福感について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだ... more
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ個人主義(IDV)歩きながら考える
2025.8.6
AIが経営会議に入ったら、日本の会社はどう変わるか – 歩きながら考える vol.100
今回は、キリンの経営会議にAI役員が参加するようになった話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる... more
2025.7.2
AIには「来歴」がない?東アジアで進むAI実装の未来と信頼の条件 – 歩きながら考える vol.76
今回は、人がAIを信頼する条件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平... more