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ブログ歩きながら考える

2026.4.6

恋人も仕事もAIが紹介する時代 – 歩きながら考える vol.263

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIマッチングが変える「人と人の結びつき方」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日はお昼後の散歩時間を使って、今朝読んだ日経新聞の記事からちょっと考えたことを話してみようと思います。テーマはAIマッチング。恋愛の話から始まるんですけど、実はそれだけじゃない広がりがあるなと思って、歩きながら考えてみます。

きっかけは、2026年4月3日の日経新聞の記事。アメリカでAIマッチングアプリ「アマタ」が広がっているという話です。AIとチャットで「子どもの頃からの夢は?」「相手に欠かせない条件は?」みたいな質問に答えていくと、AIが相性の良さそうな相手を見つけてくれる。マッチしたら日程調整もAIがやって、店の予約までしてくれるとのこと。さらに、デートの後にはAIと「反省会」までやるんだそうです。使えば使うほどAIが自分のことを理解してくれて、マッチングの精度が上がっていく。

これ、昔の結婚紹介所の仲人さんみたいな役割をAIがやってるわけですよね。しかも、仲人さんよりずっと多くの候補者を知っていて、嫌な顔せずに紹介や反省会に付き合ってくれる。なかなかすごい話だなと思ったんですが、僕が気になったのは、この話はパートナーだけに限らないだろうってところなんです。

マッチングは恋愛だけの話じゃない

恋愛アプリの話を聞いて、すぐに思い浮かんだのが人材業界のことでした。

考えてみると、パートナーのマッチングも人材のマッチングも、やってることの構造はかなり似てますよね。その中で、双方とコミュニケーションを取り、期待やニーズを引き出したり調整したりする。人材紹介の世界では、エージェントが自分の持っている案件と候補者を頭の中で突き合わせて紹介してくれる。でも、一人の人間が把握できる案件の数にも候補者の数にも限界がある。だからAIが活用される余地がある。

実際、ビジネス専門人材の仲介を手がけるビザスクは、2026年3月にAIスカウト機能を導入したそうです。これまで人間の担当者が75万人の登録者から2〜3日かけて探していた作業を、AIが5分でこなすようになったとのこと。

しかも、この流れは転職市場だけの話でもない。同じ4月3日に出ていた日立ソリューションズのプレスリリースによると、社内向けの副業マッチングサービスにAI推薦機能を追加したそうです。社員のスキルや経験をAIが分析して、社内で人手を必要としている部門に最適な人材を推薦する。社員側も自分から手を上げて応募できる仕組みになっている。

恋愛のパートナー探し、転職の仕事探し、そして社内のプロジェクトチーム編成。AIマッチングの射程が、どんどん広がっている。

なぜAIの方が構造的に強いのか

そもそも、なんでAIが人間のエージェントや仲人より強いのか。ここをちょっと考えてみたいんです。

社会学者のマーク・グラノヴェッターが提唱した有名な概念に、「弱い紐帯の強さ」(The Strength of Weak Ties)というものがあります。親しい友人同士は同じ情報を持っていることが多いけど、「知り合いの知り合い」くらいの弱いつながりの方が、思いがけない新しい情報や機会をもたらしてくれるという話です。転職の情報が親友からではなく、たまたま再会した昔の同僚から来る、みたいなことですね。

で、AIって、この弱い紐帯を事実上無限に持てる存在なんですよね。直接の知り合いではないけど、「どういう人か」「何が得意か」「何を求めているか」といった何となくの緩いデータを無限に把握している。これは人間の努力や経験で埋まる差ではなくて、構造的な優位性なんだと思います。

だから、マッチングは確実に効率化される。それぞれの人にとって「完璧な出会い」になるかどうかはわからない。でも、人手でやっていた時と比べて、紹介される機会の質の平均値が上がるということは十分にあり得るんじゃないかなと思います。

関係流動性が低い社会で、この波はどう来るのか

ここまで考えて、ひとつ気になることがあるんです。

このAIマッチングが最大限に力を発揮するのって、おそらく関係流動性が究極に高い社会なんですよね。関係流動性というのは、ざっくり言うと「人間関係を自分の意志で選んだり変えたりできる度合い」のことです。アメリカのように、転職も引っ越しも頻繁で、新しい人間関係を次々につくっていく社会では、AIマッチングの恩恵は最大化される。

でも、日本はそこまで関係流動性が高い社会ではない。長期雇用が前提の会社もまだ多いし、既存の人間関係は簡単に切れないような気がする。そういう社会で、AIが「この人があなたに最適ですよ」と超合理的に提案してきたとき、人々はそれをすんなり受け入れるんだろうか。

正直、ここは僕もまだ答えが出ていません。アメリカで先行しているこの流れが日本にどう拡大するのか。恋愛でも、人材でも、社内の人材配置でも、AIマッチングと日本社会の相性というのは、なかなか面白い問いだと思います。

というわけで、今日はAIマッチングアプリの話から始めて、人材業界、社内配置、そして日本の文化的な文脈まで、歩きながら考えてみました。答えの出ない問いで終わっちゃいましたけど、こういう「考え続ける価値のある問い」を持っておくのも悪くないかなと思っています。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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